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散り往く桜、共に征く少女

皇帝からの試練を辛くもお情けで免れた「俺」は、その気持ちが変わらぬように努力しながらも、リィンと共に生きていくのであった。

決められた期限、そして平和な筈の帝都で起こる小さな事件。「俺」と「彼女」は必死に生きていく。

新章始ります。

「この世界でも、入学式といえば桜、なんだなぁ。」

入学した魔導学園の校門から見える風景を見ながら思う。もちろん「ソメイヨシノ」ではなく山桜のようなものだが、それはそれで風情がある。というかもともとそっちの方が好きだった。

帝都のある地域は、調べたところ日本とあまり変わらない緯度にあり、四季があった。そして、この地方にはこの季節に咲く花に桜があった。それゆえに春から始まるこの学園でも、入学式の風物詩はこの桜であるのだろう。

そう、「ボク」は9歳にしてこの学園に入学した。


「皇帝陛下」に大航海時代を作り出すという案をだすことで切り抜けてから約半年。思い返せば色々なことがあった。

だけれど、いつもそばにはリィンがいた。いや、むしろどんな時でも離れてくれなかった、と言った方が正しいが。

弟に世話を焼く姉ごっこをしたくてたまらない彼女は、何事にでも力になろうとして話しかけてきた。

そして寂しがりやな彼女は、何があるわけでもなくても、そばに寄り添ってきた。

初めは城から毎日やってきていたのだが、夜も同じ部屋で過ごすようになるのに時間はかからなかった。

(皇帝が反対するだろうと思ったのに、どうせ転移でどこにでも行けるのだからと反対してくれなかった。)

初めのうちは恥ずかしかったが、今では抱き枕にされるのも慣れたものだ。とりあえず、だんだん柔らかくなってきた、とだけ言っておこう。どこが、などとは言わぬが華だ。


もちろん、遊んでばかりであったわけではない。案は出したものの、いまだ穴だらけであることは自分でも分かっていたし、もちろん指摘された。

だから今は「執行猶予中」なのだ。

その穴を一つ一つ洗い出す作業を行っていた。

そのなかで、探検用の船や食糧といった話ももちろん問題なのだが、一番の問題点は「位置の測定方法」だ。

なにせ、この世界には二つの月以外に空に星がない。

大きな方の月は真北に固定で存在しているため、それが北極星の代わりにはなるが、距離が近すぎるため、赤道に着くまえに全く見えなくなるのだ。(それが南方への開拓が全くされていない理由だ。)

この世界ではそれゆえに、それ以南は世界が終わり無限の海原が続くと信じられている。

それを地球儀の概念で説明してなんとか理解を得たものの、位置測定技術がなければどうしようもないのでそれを成人するまでに目処はつける、というのが課題だ。(成人とは16歳の「大月の儀」を迎えることだから、あと7年だ。)

とりあえず9歳と10歳の2年間は魔導学園に通い、その後南の島で領主をしながら現地でなんとかするスケジュールになっている。いくつか魔法を使えば或いは、という案はないこともないがこればかりはやってみないと分からない。「俺」には魔法のことが分からないし、他の人には科学のことが分からないからだ。


これから通う魔導学園とは、主に貴族が魔法を使える10歳になる前に、魔法を使うに当たっての心構えを叩き込まれ、また使えるようになった後は基礎を教え込まれる場所だ。

なお、本来は10歳になる年の秋の儀式「小月の儀」になる前は一切魔法は使ってはいけないのだが、特別に許可されたものはその前年の春から強化訓練用の魔法道具の使用が許可されている。その特別に許可される者とは、貴族とこの学園に入学した者のことで、ほぼイコールである。(稀に、平民の金持ちが入ってくることもある。)

貴族と平民の魔法能力の差は、もともとも血縁による才能と、こういう技術の伝授の差、訓練道具の差があり、埋められない歴然の差となって出てきている。

「俺」は本当は入学せずに済ませようかとも思った。航海の準備もあるし、リィンが寂しがるかと思ったからだ。魔法能力自体は無いよりはあった方がいいのは良いが、天才的な才能があるのなら別だが、それ以外であるならプロフェッショナルを雇った方が、探索には向く。自分がエルフであることを加味しても、今まで誰も到達できなかったところへ魔法の才能だけで行けるとは思えない。それならば航海の準備の方が、とも思っていたのだが、意外にも強く背中を押したのはリィンだった。


「わたしは行きたかったけど行けなかった。だからテオちゃんにはちゃんと通って欲しいの。」

なんてことをさみしそうに言われると、行かないわけにはいかなかった。あと、ちゃん付けはどうしてもやめてもらえなかった。


日本の学校と違って短く実務的な学園長の挨拶が終わり、クラス分けとなったわけだが、完全に血筋で分けられていた。

もちろん、皇子である「ボク」は最上位の1組。1クラス10名ほどで、今年は4クラスあるそうだ。

来年になれば、保持している魔力などの実力もある程度は加味されてクラス替えが行われるが、基本的には魔力は血筋によるのであまり変わらないのが通例だとのことだ。


クラスに入ったあとは、全員の自己紹介がはじまる。なお、この学園は一応の自治を行っている。特に指示がない限りは学園内の規則が優先されるため、建前上は血筋、身分は関係ないことになっている。

クラス分けが血筋順なのは、単純に魔力順に近いからと、妙なトラブルがあっても困るからであり、特になにかが変わるわけではない。

そのため、自己紹介は血筋の高い順、ではなく名前の順番であった。


「俺」にとってはこの学園生活は「航海をするために魔法がどう使えるか」を考える場、であったので、自己紹介は適当にこなした。そのため、他人の紹介もあまり覚えていない。

元々権力争いに参加するつもりがない以上、下手に高位の貴族と交流をもちたくなかったというのもある。

それに、相手にとっても特にメリットになりえない第9位の皇子など、すり寄る必要もなかった。


この世界でも一週間は7日で、土曜に相当する「闇の日」と日曜に相当する「光の日」は学業は休みであった。特に「光の日」は皇帝に感謝をささげる日、という宗教上の理由で仕事をしている人間もほぼ休みである。ちなみに残りの曜日は月~金の順に「木の日」「火の日」「土の日」「雷の日」「水の日」である。なんだか微妙に似ているようでずれていて分かりにくい。どうせ聞けば頭の中で自動的に翻訳してくれるのだし、あまり影響もないだろうから考えるときは月~日で考えることにした。

さて、入学式が月曜にあったため、土曜日は5日ぶりの休みだ。入学してすぐは特に魔法に特化した内容はなく、オリエンテーションのようなものばかりだが、色々なことをやらされるため余計に疲れた。なので家に帰ってもリィンと遊ぶのはそこそこに早めに寝てしまっていた。来週も疲れるだろうから土日に疲れをいやしておくかと考えていたのだが・・・。

「あの、いい加減離してくれませんか、姉上。」

そういって「ボク」を拘束する人物に話しかける。そう、もう日が高くなっているというのに今だに抱きつかれたまま離してくれないのだ。

「嫌。休みの日はずっと一緒にいるの。」

そう言って、むしろ更に強く抱きしめてくる。どうやらさみしい思いをさせてしまったらしい。

「んー。いまからでも学園に行くの辞めようか?多分姉上のためだと言えば家庭教師ぐらいつけてくれると思うけど。」

「俺」としては割とどっちでも良いのだ。それぞれにそれなりにメリットとデメリットがある。

魔法は出来るのであればちゃんと覚えたいとは思うが、なにせ時間が足りない。拘束時間が減る上に、早く現地に行けるメリットがある。

「それも嫌。テオちゃんにはちゃんと学校に行って欲しいの。だから休みの日はずっとくっついてる。それで解決。」

そう言ってもっと強く抱きしめる。いい加減苦しい。それに寝ているときは気にしないようにしていたが、12歳になって少しだけ大人になった体は、ちょっと変な気分になりそうで怖い。

「むぐぅ、じゃあ折角だし一緒になにかしようよ。」

そう、膨らみかけの胸の谷間から何とか声を上げる。ずっとくっついたまま二日間過ごすのはさすがに拷問だ。いろんな意味で。

「うーん。でも、疲れているんでしょ?」

こちらの提案に惹かれつつも、遠慮がちに聞いてくる。どうやら、疲れていることは認識しての妥協点だったらしい。いや、動かなくても疲れるから。主に精神的になにかが駄目になりそうで。

「ボクは折角の休みの日なんだし、姉上と一緒に遊びたいな。」

駄目押しをしてみる。何か嫌な記憶を思い出させるがしょうがない。

「本当に?!私もテオちゃんと遊びたい!」

そう言うと一瞬「ボク」を離し、ぱーっという効果音が聞こえてきそうなほど満面の笑顔をしたあと、さっきよりも強く強く抱きしめてきたのであった。

「ぎ、ぎぶ」

そうやって意識が暗転する。やはり嫌な予感は的中したようだ。このままでは胸の中で逝く「俺」が出来上がる日も遠くは無いだろう。


結局その日は気絶していたため一日くっついたまま過ごすことになり、次の日は必死に謝る彼女を宥めながら何をしようかと考えるはめになるのだった。

※学園が出てきますが、学園物的な方向では考えていません。

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