プロローグ
お約束(この作品は架空の物語です。実在の人物、団体、事件、思想などには一切関係ありません。)
戦闘、戦争を含む内容で構成していますが、個人戦闘はあまり予定していません。どちらかというと内政ものに含まれると思います。
トンネルを抜けると、そこは異世界だった。
毎日通っていたはずの、自宅近くの高架下にある歩行者用トンネル。そこを抜ければ5分で家に着く。
都会とは言えないとはいえ、急に野山が広がるほどさびれてもいない。そもそも月はあんなにでかくない筈だ。
「元のトンネルは、無い、か。」
振り返ってみると、そこにも野山が広がっている。いつもうるさい自動車道路など影も形もない。
代わりに、さっきの大きな月とは別の月がそちらにもある。いくら乱視でもこんな別れ方はしないだろう。そもそも目は悪くない。映画のセットで惑星まで用意するなんてことはいくらかの大国でもしないだろう。
そんな異常事態。だが自然と落ち着いていた。
「ちょうどよかったな。今日で仕事も最後だったし。」
昨日や今日の朝であれば、迷惑をかけていたよな、と思う。かなり面倒な手順の引き継ぎをしていなかったのだから。
「まあ、動じてなかったつもりだったけど、ショックだんたんだな、俺。」
周りを見渡しながら思う。
いきなり世界が変わっても、動じることができない。むしろほっとしている自分に気付いたからだ。
全く縁のなかった人事部からの面談の話があったのが3か月前。
うちの部署の業績が芳しくないことは知ってはいたが、その中では中の上ぐらいであったつもりだったので、30代で早期退職を促されたことにはさすがに驚いた。
だが、演技かもしれないが、人事部のトップである部長が直々に、申し訳なさそうにお願いされるとしょうがないんじゃないかなと思ってしまった。
弱小新聞社の世界情勢欄の情報調査、整理し、記事になるならないにかかわらず内容をまとめておくチームにいたが、その世界情勢欄そのものが大手新聞社から記事を購入することになったため、チーム自体が解散となってしまったのだ。
もちろん、強く残留を望めば無能ではないつもりなので残れただろうが、その場合他のチームの誰かを首にしないといけないことは、自社の経済状況を見れば明らかだった。(そもそも、解散自体が人件費削減が目的なのだ。)
それなりに楽しんで仕事をしていたが、見知った誰かを犠牲にしてまで続けたいかといわれるとそうでもなく、退職金の上積みを1、2年ぐらいは普通に暮らせそうな額を提示された時点で、とくに交渉もせずにうなづいてしまった。
後から聞いた話だかが、結婚もしておらず、扶養家族もない、そこそこ優秀な俺なら転職もしやすいだろうという理由もあったようだ。まあ当たっているので何も言えない。
とりあえず、やりたい仕事も特に無かったので、次の仕事は辞めてから考えようとした矢先にこの事態である。
「ある意味、就職が決まったとも言えるかな。」
自嘲気味にそう呟きながら付近をさまよっていると、綺麗な湖が見えてきた。
「ああ、これで当面は大丈夫・・・」
探索をやめ、湖に歩き出そうとしたところで世界が揺れた。
いや、揺れたのは自分だけらしい。何かが背中に当たったような気がしたので、振り返ってみるとそこには黒い肌の少女がこちらを睨んでいた。
あわてて自己紹介をしようとするが、口の中に血が溢れてうまく言葉にできない。
そもそも言葉なんて通じないかと思いながら良く見てみると、少女の手には血塗られたナイフが握られていた。
「ああ、そうか。俺は君に殺されたのか。」
もううまく立っていられない中で、「あんな美少女の役に立てたなら俺の人生も無駄じゃなかったかな」なんて考えながら、意識が途切れた。
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