高校のロッカー事情
私は地味だ。
背は低く、眼鏡に三つ編み。
一回も折っていないスカートは膝の中心を越えるか越えないかの長さだ。
だから、目立たないし誰にも構われない。
典型的な地味子さんだ。
そう思っていた矢先にあの事件。
きっかけはそいつらに、地味にぶつかったことだ。
「こんな奴、クラスにいたっけ〜?」
「いや、知らねーな。」
普段は違う奴に向いているはずのイジメのベクトルが、私に向いてしまったのだ。
「そういうわけだから、てめぇはこの中にでも入ってろっ!!」
どかっ!
そうして、私は掃除ロッカーの中に押し込まれた。
今時、小学生のいじめでもこんな所に入れられたりはしないだろう。
掃除ロッカーの中は当たり前のように狭い。
成人女性一人が入れるくらいのスペースはあるのだが、身動きが取れるかどうかは別だ。
押された勢いでロッカーの奥にぶつかり、ロッカーの壁に手をついてバランスを取る。
狭いので転ぶスペースもないのだが。
「じゃあな!出てくんなよ〜?キモいからさっ!」
キモい・・・か・・・
ひゃははは・・・ばんっ!
激しい音を立てて扉が閉められる。
その瞬間、
「痛っ!」
私が手を置いていたはずの壁は消え、私はロッカーの床に転ぶ。
「痛いな〜・・・」
ん?転ぶ?
この狭さでどうやって転ぶんだ?
とりあえず、手をついて起き上がるが暗くて何も見えない。
・・・おかしい。
いくらドアを閉めたからと言って、高校で使われている、大量生産の掃除ロッカーだ。隙間の一つくらいあってもいいものだろう・・・?
そんなことを考えながら、とりあえず立ち上がってみる。
そして手探りでそのロッカーの中(?)の広さを確認する。
・・・うん。
ロッカーを横に倒して、縦を人が立てるくらいの高さにしたような感じだ。
感覚的には、棺桶の中で人が立てたならこのくらいだろう、という大きさだ。
さっきのロッカーの中よりは大きいが、それでも狭いことに変わりはない。
しかし、だ。
どうして、掃除ロッカーの中がこんなことになるのだろうか?
実は異界につながっていたとか?
そんな夢見がちなことを言うほど私は子供でもない・・・
ん?考えてみればさっきから全く音がしない。
もちろん、この中には私しかいないのだが。
問題はロッカーの外、クラスの連中の声が全くしないということだ。
「・・・どういうこと、なの?」
まさか、本当のファンタジーよろしくタイムスリップしてしまったとか?
そんな馬鹿な・・・などと考えつつも、今は何もできないのでとりあえず体育座りをしてみる。
一人しかいないので、スカートの中が見えるかどうかは気にしない。
先ほど確かめた所、ドアは内側から開けられるような代物ではなかった。
というのも、外側には取っ手があるのだが、中側には取っ手も何もなかったからだ。
困った・・・
まぁ、こんなときは無闇に動いても仕方がないのだ。
というわけで、私はちょうど人一人寝転べる大きさの空間の中で横になる。
ここは私の特技の見せ所だ!
・・・見せる対象はいないのだが、気にしない。
目を閉じて呼吸を落ち着かせる。
・・・らさん?・・・
・・・ん?何だ??
「起きて・・・杉浦さん。」
「・・・ん・・・・・んぁ?」
「目・・・覚めた?」
眠い目こすりながら見つめた先には・・・
「・・・委員長、なの?」
「えぇ。・・・災難だったわね。まぁ、寝てたのなら問題ないでしょうけど。」
「あ・・・あぁ、まぁね。そこは問題ない、の。」
さっきのは・・・夢?
「ほら、そんなところにいないで早く出ておいでよ。帰ろう?」
「あぁ、うん。」
もう放課後か・・・
閉じ込められたのは昼休みのことだ。
地味な私は話しかけられない限り、他人とは話さない。
そのため声があまり出ない。
朝起きてから誰とも話さなければ、こんなものだろう・・・
「ほら・・・帰ろ?もう外、真っ暗だよ?」
そう言いながら、委員長は私の手をとってロッカーから引っ張り出してくれた。
・・・。
何で委員長はこんな時間まで、学校に残っていたのだろうか?
「・・・何で・・・」
「ん?何?」
「・・いや・・・何でも・・・ないの。」
「・・・そう。」
「・・・ありがとう・・・」
「・・・どういたしまして。」
にこりと笑った委員長の顔は、月明かりに照らされて幻想的だった。
結局、その日のロッカーの謎は解けないままだった。
結構練ったつもりでしたが、う〜んって感じですね。
皆さんの評価を見て、次回作もできたら作ろうかなと思っていますので、評価の方、よろしくお願いしまう。
ダメだしも歓迎します。