非萌えのツンデレ
シリアスが羞恥に負けた。
私より魅力のある『ヒナ』を知らず、私こそを『ヒナ』だと思い、ヒナゲシを『ヒナ』と呼んでくれる人がいる。
こんなこと初めてで、昏い歓びが胸の傷から溢れ出す。
少なくともあの本を開いたりしない限り、ここにヒナコが来ることはない。同じ地続きには居らず、世界を超えて離れているのだから。
運命の鎖で繋がれていた片割れがようやく離れてくれたような心地だった。
重しになっていた、足枷が外れたのだ! もう二度と傍らで柔らかに微笑むことはない! 私の前に立つ人が、私でない『ヒナ』に奪われることはないんだ!!
そう思う私は性格が悪いのだろう。顔も確実にヒナコより下だ。
けど、これがヒナゲシ。偽らざるもう一人のヒナである。
その劣る私しか知らない人がいる。
口元を緩ませ、慈しんでくれている。
傷つけぬよう、気遣いながらゆっくりと頭を撫でてくれる。
自らの膝を差し出し、食事の世話までしてくれているのだ。
ずっとずっと欲しかったもの以上の麻薬を打ち込まれた気分だ。
中毒性があり、一度きりでは満足できない。
この優しい微笑みが消えたら泣いてしまうだろう。そっぽを向かれたらみっともなく許しを請うだろう。床に額をつけるくらいの土下座を今してもいい。
村にいた頃は自覚したことなどなかったけれど、ヒナゲシはずっと飢えていたのかもしれない。魅力の差で冷遇されるなら仕方ないと諦めた振りをして、惨めったらしくもエサが欲しい欲しいと。ツンデレかよ。私ツンデレだったのかよっ!?
村での素振りを思い出し、血行が異様に良くなり汗が出た。
突如赤面するヒナゲシを心配する異世界人に、今度は冷や汗が出た。
──私、性格や顔が悪いだけでなく、更にツンデレだったようです。
業は深い。