バレンタイン番外編
現代パロ、バレンタインだからキャラと恋愛を考えてみる。
ジャズが流れる薄暗い店の中で、カウンター席についたばかりの少女の前にカクテルグラスが滑り込む。
少し離れた席に、一人の男。
「君の猫耳に……乾杯☆」
バチコーン、とウインクが決まる。
オーレン・リッター、何があっても変態に変わりはない男。
「……」
蔑むような眼差しをうっそりと濡れた目で受け止められて、ヒナゲシの顔が歪む。
視線を落とせば奴が寄越したグラスの縁に黒猫フィギュアがにゃーんと鳴いていた。
コップのフチ子さん、黒猫version。殺意。
つーっ、ゴッ。
黒猫フチ子が消えた。いや、ビリヤードのようにグラスでグラスを押し出したのだ。
目の前に新しく現れたのは、グラスの縁に塩を乗せられたソルティドッグ。
「ヒナゲシ、その愛らしい舌で白いのをいやらしく舐めとってくれ……」
湿度高めの囁きが何か聴こえた。
悲しいかな、顔を見なくてもラーゼハルトだとわかる。絶対ハァハァしてる顔は見るまい。
つーっ……ガッ!
またグラスが入れ替わった。
ウォッカにオレンジジュースを混ぜたスクリュードライバー。
「べっ、別にヒナゲシと飲みたいなんて思ってないけど女を一人にする紳士じゃないことは出来ないからねそれ飲んだら送るから早く飲みなよばかヒナゲシっ」
飲みやすい反面酔いやすいアルコール度数12度はわざとだろうか、送り狼狙いだろうか、ミリー・アロウ。
見事に飲みたくないものを並べ立ててくれるヒーロー候補たち。
眉間に皺が寄る。逆ハー? 下心露骨過ぎてまったく嬉しくないんですが?
「(普通、気になる男の子とキャッキャウフフするのがバレンタインじゃないの?)」
好意を寄せられてるのはわかる。
わかるが、これって嬉しい展開だろうか。ヒロインて気持ちにならないんですけどそれは。
顔は揃って美形だから、ドキッとしたことがないとは言えない。あいつら無神経に距離近いから。触ってくるし揉んでくるし突っ込んでくるし。
だけど、他のなろう作品に見られるような胸キュンがないような気がするのだ。気のせい?
こうして少し大人びた場を用意されてもビリヤードカクテルされて添えられるのは下心。トキメく間がない。
こいつらと恋愛出来るのかなぁ……しょっぱい気持ちになりながらカクテル全部退けた。そもそも十三なのだから酒など飲めるか。
「ヒナゲシ、お待たせしました」
「ひゃっ!?」
耳のすぐ後ろで囁かれ、飛び上がった。
いい声すぎて油断した隙を完全に突かれた。
「り、リーゼシアさん!?」
「はい、ヒナゲシ」
すらりとした体にボリュームのある胸とお尻は今はマーメイドワンピースに包まれている。露出もなく上品なのに色気満載。すごい。
くすりと微笑むリーゼシアが、二つのグラスのうち一つを差し出しながら隣に座る。
「コンクラーベですわ、牛乳とオレンジジュースの味でノンアルコールの」
「わあ、ありがとう!」
味も馴染み深くお酒でもないカクテルをチョイスとは、さすがリーゼシアさんわかってる。
似たような色を飲んでいるが、グラスが違う。
「そっち何飲んでるの?」
「チョコレートリキュールが入ったイースターエッグです。今日はバレンタインですから……」
アルコール度数は16度。一位貴族の彼女は飲酒も慣れていてこれくらいで潰れてお持ち帰りされることはない。さすがだ。
白くて華奢な腕に、美しい体のラインが出る服。メイクのきまった大人っぽい口元に同性のヒナゲシですらドキッとする。
そう言えば彼女は階級が一番上の家だそうだが、婚約者や恋人はいないのだろうか。ヒナゲシの偏った知識では政略結婚も多いのかなと思っているが。
「何か?」
「聞きにくいんだけどね、リーゼシアさん恋人はいないの?」
キョトンとした目が大人女性のギャップになって可愛いと思う。
マジでこの人私の世話だけしてていいの? いや居なくなられると大いに困るんですがね!
「わたくしは今はヒナゲシが恋人ですから」
「えっ」
今は仕事が恋人ですとかそんなノリですよね、はい。
でもそういう関係が今は楽しい。男の人のアレコレより。
えへへ、うふふ。
隣り合い微笑み合う二人の女性。
そこに男が入り込む余地はなかった。
「先輩猫に手取り足取りされる黒仔猫……か」
「どんなヒナゲシも、美味い……」
「無視はちょっと悔しいけどお姉さんに素直なヒナゲシもすッごく可愛い可愛い可愛い萌えるよ何このトキメキぃいいい」
ヒーロー全員変態だから。
お客様の中に変態を治すお医者様はいらっしゃいませんか?