みんなでBBQ!
タイトルが物語ってます。
ヒナゲシside
「そいで……鍋の中にゴロッと刻んだアレとかアレとかアレとか……入れる」
『ほぉほぉ! それでどうなさるので?』
「それは……アレす、る(ガクッ)」
『おやおや、話の途中ですぞヒナゲシ殿! はははお可愛い!(ブサッ!)』
「あだぁあああああ!?」
『さて、起きたのなら続きを話して下さいますな、ヒナゲシ殿!』
「うぅ……っ。中に水入れて……強火で火にかけます……」
『食材に火を通すわけですな、わかりますぞわかりますぞヒナゲシ殿!』
鍋。食材。火にかける。
雪山遭難し、ペットもとい召喚魔を一匹増やしたところで事態の改善がなされなかったヒナゲシ達は、話を続行していた。
何故ならば。
「沸騰するまで……まで…………して、……………………ぐぅ」
『はっはっは、困ったもんですなぁヒナゲシ殿は!(ズビシ!)』
「いぎゃああああああ!!???」
寝るからだ。
爬虫類に分類される二匹は何故かこの寒さで生き生きとしているが、ヒナゲシは人間。しかも鍛えてるでもなく、雪山ヒャッハー! なアウトドア派でもない。この寒さで「ごめん……眠くなってきちゃった。ちょっと、寝るね……」と言いながら眠るように亡くなる系の婦女子なのである。エリーが下山に全く関係ない話を彼女にさせているのも、ひとえに死なせないためであった。
『(カレーの作り方の説明すら話途中に脱線しまくり、技名までが入る有様。ううむ、危険ですぞ、危険ですぞこれは)』
意識を引き止めるだけの声を張り上げつつも愛の鞭を入れ、主であるヒナゲシの命を繋ぐエリーはチラリと頭脳派の八雲を見る。
首をガックンガックンさせて注意力があからさまになくなっているヒナゲシは気付いていないが、召喚魔と称される二匹は真面目に主をオルディランに戻す術を考えていた。だがしかし移動手段も保温手段も通信手段も絶たれたこの状況、一体どうすべきなのか。
飼い主に対してだけ可愛い子ぶってるニホンヤモリの姿を見据え、どちらかと言えば肉体労働派の自分は八雲の出方を待っている。首に燦然と輝くダイヤモンドの首輪は伊達ではない。自分もヒナゲシの召喚魔として首輪を戴くのだろうが、恐らくダイヤモンドなどという貴石ではないだろう。五大宝石に選ばれるかどうかもわからない。それだけ彼の魔力は膨大なのだ、可愛い子ぶってるが。大事なことなので二度言いました。
ヒナゲシから離れず、彼女の肩の上で思いを巡らしていた八雲はチロリと舌を伸ばす。結論は出たようだ。
*****
オルディランside
「戦う準備は出来たな? お前たち」
国賊扱いで囚われていた盗賊の頭が皆にそう問い掛ける。
行き先は少しの情報もない場所。戻る手段もなく、お宝は船を落とした張本人ヒナゲシ。
普通ならば一人二人はボヤく者も出るのだろうが、幸か不幸かこの頭には人望があった。彼の決断に間違いはなし。危険はあっても今自分たちがヒナゲシ救出メンバーとなったのは、何らかの意味があるのだろうと。
だから。
「応!」
一人もずれることなく、その言葉を返した。
行きはよいよいな魔法エネルギーに飛び込む寸前、やり取りを見守ってたオースティンが一つの切り札を投げ渡す。
「これを使え、危険があればお前たち全員を一度限り命の保障をしてくれる」
有効活用しろよ? そう手渡された物に、国賊から救助要員になった盗賊全員が虚を突かれた顔になる。
コストばかりが高くつくそれを自分たちに投げ渡すとは。持ち逃げして戻ってこないことは考えないのか、多少なりとも信頼の気持ちがあるのか。いいや、ただ単にヒナゲシを心配しているのだろう。より多くの救助手段を増やすために。
それはどうだっていい。量産できないそれを握り締め、頭は今や雇用主となったオースティンに向かい、自信を見せる笑顔を向けて頷いた。
「必ずあんたが愛してやまない雛を取り戻してこよう、必ず」
*****
ヒナゲシside
もにゃもにゃと口内でカレー作りのレシピを秘奥義付きで説明していたヒナゲシは、彼女の召喚魔であるエリマキトカゲのエリーによって気付けば極寒の地へと導かれていた。
「ヒッ、寒い!」
防寒のぼの字もない姿で我に返ったヒナゲシは、瞬時に体温を奪う外気温にガタブル始めた。手を引いて連れ出したエリーは八雲と視線を交わし合う。よし、ヒナゲシの意識が戻った。
『このままここに居続けたら凍え死んじゃうの。無理してでも山を下りないと』
肩から覗き込む心からの心配に、うんうんと思考してられない彼女は頷く。
『だから、今からこの山に道を作るの──ヒナゲシの炎で』
うん、と依然何も考えていないヒナゲシの頭は縦に動いたのだった。
*****
盗賊もとい救助要員side
オルディランから魔法を介し飛び立った元盗賊集団は、正確にヒナゲシが落ちた雪山へと辿り着いていた。そう、今現在穴蔵から出ているヒナゲシと同じように、雪の積もる地面へと。
着地と同時にズボリと沈む足。全員が全員間抜けなことに、雪にはまってしまった。
「ファッ!?」
「寒! さささ寒いどこだ此処っ!?」
カッコつけたは良いが考えが足りなかったと言うべきだろう。
何せ救助は救助でも行き先がどこかまでは考えていなかった。これが更に八雲の機転がなければどうなっていたか。考えるべくもない、全員もれなくBBQの食材である。
阿呆な集団は雪に埋もれながら見える範囲で情報収集をする。阿呆は阿呆でもトラブルに強い犯罪者集団なので、たとえ冬山登山にふさわしからぬ姿で雪に埋もれていても、冷凍ミイラになるほど現状読めない系の阿呆ではなかった。
「雪山……? ヒナゲシはこんなところにいるのか?」
国境を越えたのは必須。この寒さも心当たりがある。彼女は果たして無事なのか?
雪に足を取られながらも救助について思いを馳せていると、“ゴッ”と何かが素通りすると同時に取り囲む雪が消え去った。
「──は?」
視界良好に変わった目には、茶色い地肌と。
「──えっ」
全身から炎を立ち上らせる、ヒナゲシ。雪から出てきた男たちに目が点。
救助要員として飛び込んだ男たちは、救助対象を前に事態を把握しようと視線で辿る。
火を纏ったヒナゲシの指先は指し示すようにこちらを向いている。その行き先にのみ一直線に山の地肌が露出していた。後ろを見ると、通り過ぎたとは思えない高温の炎が未だ視界内で雪を焼き払い山を滑り下りていた。
これは。つまり。
再度男たちがヒナゲシの方を向くと、さっと視線を逸らす。指もパッと体の後ろに隠れた。
これは。やはり。
どう考えてもオルディランにいた筈の牢獄の住人たちに、ヒナゲシも一瞬で察した。彼らの目は敵を見る目ではない。
それは。つまり。
「こ、怖かった……っ」
──俺たちがな!!!!!
BBQの食材を。