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ヒナゲシの華  作者: 水無月奎
本編
82/90

ヒナゲシの小話

オルディランで優しい関係に癒されて、ヒナゲシは成長することを選びました。

 ムカムカしている。イライラしている。

 その理由はヒナゲシの中ではたった一つに集約される。


 ――従姉妹のヒナコ。


 濃い黒でストレートの重い髪を持つヒナゲシに反し、ふわふわの猫っ毛を揺らしてよく笑う女の子。

 人の評価を諦めたヒナゲシは地味で目立たない服を着て、人に構われ誉められることが当たり前のヒナコはもらった服を毎日着回している。

 挨拶も、雑談も、親しげな声色も、あたたかい眼差しも、ヒナコの一歩後ろにいるヒナゲシには届かない。大きな大木に塞がれた矮小な雑草のように。


 人は、ヒナコのもの。

 家族も、ヒナコのもの。

 友達も、ヒナコのもの。

 愛情も、友情も、好感も、みーんなみんな、ヒナコのもの。

 ――どれか一つくらい寄越せよ。Sな世界でもMじゃねぇんだよ、私はよ。


 期待して裏切られ、好意を寄せて逃げられる。

 荒んで顔つきと性格が歪んだのは自分のせいじゃない、と思う。いや本来の性格の悪さは否定出来ないけど。持って生まれたものかもしれないけどね!


 でも、でも。

 ヒナゲシの言葉が通じない人達ばかりで、私一人が悪いのかな?

 ヒナコが魅力的過ぎるのが私の不運だったのかな?

 従姉妹にヒナコが居なければ――ヒナゲシは家族に愛されて過ごせたのかな?


 何度も思った。

 私の母親なのに、父親なのに、兄なのに。

 ヒナコの方が可愛いのは、私がそこまで可愛くないからか。

 私が何か悪いことをしてしまったのか、または悪いことを言ってしまったのか。


 私といても苛立つ表情しか見えず、ヒナコが来たら満面の笑み。

 全身からヒナコの方が必要だよとヒナゲシお前は不要だよと言われ、自分の家のはずが居心地が悪かった。

 背を向けられヒナコを囲むのは、自分の家族……のはずだ。うん、多分。きっと。


 彼女はれっきとした自分の家族がいるはずなのに、何故いちいち我が家でご飯を食べるんだろう(その膳は私のものじゃないのか)

 彼女はれっきとした自分の友達や親友がいるはずなのに、何でまた人のクラスに遊びに来ては中心になってるんだろう(元から教室ではぼっちですけどね)

 彼女はどうして、私と先生が話していたら割り込んできて、二人で話してるんだろう(先生の方から用があって話しかけてきたのにな)


 彼女が自発的に周りを扇動したわけではないのだが。

 その無邪気さで人を夢中にさせて、私の周りに残る人は誰もいない。

 そう感じるたびに苦い想いを抱くのだ。


 あの子のせいにする自分は醜い。

 自分の魅力のなさから目をそらし、言い訳にして。

 ――そんな自分に反吐が出る。


 良心が中途半端にあるから、責任転嫁して罵倒一つできやしない。

 でも、事実と違うことを思い込むのはもっと嫌だった。


「ひーなちゃんっ♪ だぁいすきだよー!」


 彼女はこう言い張るのだから。

 真意はどうあれ、好意を向けてくるのだから。


「あっそう」


 ニヒルに笑い、その想いに応えることも出来ない。

 その後ヒナコの取り巻きに罵られても、ヒナゲシは彼女が嫌いだから。死ぬほど欲しいものを根こそぎ奪う存在に愛想なんぞ振り撒けないから。


「もー! ヒナちゃんってばひどい! でも口が悪いヒナちゃんを唯一分かってる従姉妹だもんねーヒナコさんは!」


 ――分かってるのに普段からアレなの? お前は。


 ムカッときた不愉快さは、胃をグツグツと煮立たたせて塊となって喉にせり上がる。


 消えてくれお前なんか、そう願うたびに違うだろうと思い直す。

 この世界はヒナコに消えてくれなんて望んでいない。ヒナゲシこそ消えてくれと願っているんだ。

 そう、お前なんでいんの? そう言いたげな周りの共通意見じゃないか。


 何でヒナゲシはここにいるんだろうか。ああ、ヒナコ様の引き立て役ですか?

 そう皮肉って自分の空気っぷりを慰める。でなきゃ生きていくことなんて出来やしない。


 彼女を貶めたいわけではない。

 ただ、解放して欲しい。


 ヒナコが魅力的でヒナゲシに魅力が無いのであろうと、そんなことはどうでもいい。

 憎むのも怒るのも蔑むのも、ヒナゲシ自身を見てくれることだから喜んで受け止める。

 でも、あいつがいたらそれも叶わない。


 憎みたいんじゃない。復讐したいんじゃない。

 ただ、ヒナコがいない場所で生きたい。

 そこで嫌われたとしても、自分を見て嫌ってくれるなら心が折れることもない。だってエアーじゃないからね!












 捨てる神あれば拾う神あり。

 世界を移動して自分の居場所を作れるとは思いもしなかったが、好機だった。


 あのチートっぷりなら私の疫病神として追いかけてこないとも限らないが、少なくとも今はヒナゲシと良好な関係を築けている人達がいるわけだ。


 ――絶対、戻る。諦めて手を伸ばすこともしなかったかつてのヒナゲシじゃあきっと駄目だから。


 幸いここには二匹の仲間がいることだし、ね。


『もうめんどーなの、BBQパーティしちゃおうなの』

『おお、明晰なご提案ですな!』


 うん、敵を前にしてもこの余裕。さすが私の召喚魔(ペット)だよね!


(ごめんオースティン、目撃者は自分で何とかする)

ヒナコを一方的に悪者にすれば楽になれるのはわかってる。でもヒナゲシは彼女を悪者扱いにしたいわけではない。そうすることで自分が癒されるとも思ってない。自分の心の中で取り出せないほどにねっとりと重く横たわるそれは、降り積もった悲しみや憎しみの塊。記憶からなるそれは、新しい記憶で力をつけて取り除くしかない。泣き喚くほどのそれは向き合うのも辛いけれど、ヒナゲシはオルディランの優しい人達に報いるためにも一歩を踏み出します。

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