表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒナゲシの華  作者: 水無月奎
本編
81/90

一人と一匹にプラス

もう一匹入りまーす。

 落下速度と体を埋め尽くす砂の量。生き埋めを予感させるそれに恐怖しながらも、ヒナゲシは冷静だった。パニックを起こして自滅する道を回避するため――というカッコいい理由だったら一躍ヒーローだが、ヒナゲシはヒナゲシでしかない。


 ぽ、と暗い世界に蝋燭の灯火のような暖かさを感じる。すぐそこ、ヒナゲシの肩から。


 膨大な魔力を操る八雲ことヤモ君と親しみを込めて呼ぶ召喚魔が、彼女から離れることなく何らかの力を発動していることに気付いたからである。


 ヒナゲシの使える魔法は禁術魔法と呼ばれ、簡単には発動できない裏技ばかり。希少性は他の誰より高いのだが、使い勝手が良いとは言い難い。基礎魔法を使えた方が利便性は高かった。

 つまりだ。何が言いたいかと言うと、こういう罠に嵌まって身を守れるとかそういう術は皆無。やっぱり無能なのだった。


 それに反して、異世界召喚できた魔力持ちのヤモリのヤモ君。

 彼はどこで拾ったか知れない莫大な魔力を持っていて、かつ日常的にお役立ちなんである。主に救急箱的な意味で。


 そのヤモ君が恐らくはヒナゲシの身を守るために魔力放出中。待つしかねーだろ。


 日本では人がいても味方になってくれる人はいなかった。意志疎通の出来る相手がいるだけでノープロブレム、問題ない。

 生命の危機? それが何だ、私は孤軍奮闘の方がよっぽと怖いぞ。


 ず、ず、ず、と少しずつ下の空間へと導かれていき、仕舞いには石畳の上へ落とされて尻を強打。よし、問題ない。


 目蓋の向こうの圧迫は消え、ヒナゲシはそーっと目を開いた。


 どこかの穴蔵だった。


 うむ、ピンチには変わりない。


「ヤモ君、ありがとね」

『ヒナゲシのためにはがんばっちゃうの』


 一仕事やり終えたヤモ君テラカワユス。

 でもサバイバル経験もあるヒナゲシはここで断言しよう、このままでは野垂れ死ぬと。


 自分がいる場所は薄汚くなった白っぽい石畳の上だが、回りは剥き出しの地面に乱雑に放置された木箱しか見えない。明らか人が来る場所ではないだろう。ということはだ。


「水がない、食べられるものがない、布団もない」


 それらが如何に大切で命を繋ぐかは、ヒナコがしでかしたあれやこれやで身をもって知ってるヒナゲシ。

 更に腕を擦ってもう一つの可能性も潰えたことを知る。


「北国並みに寒い……てことは国移動した? まずいな、木の実も期待できないか……」


 栄養どうのと我が儘は言わないが、これだと数日ももたない。多少頑丈でも自分はか弱い子供に過ぎないからだ。


「この木箱はなーんだ……って、えええええー……」


 無造作に積み置かれている木箱を覗くと、武器の山。キナ臭い。一気に漂う犯罪臭に、ろくでもない場所に落ちたことを知る。

 でもなぁ、ヤモ君が連れてきてくれたのなら最悪であるとは思えないんだが。


「……ヤモ君。普通に落ちてたらどこ行きだった?」

『火の召喚魔たちのおへや?』

「……ちなみに落ちてたらどうなってたの?」

『……BBQ?』

「主催者は人間ではない悪寒、マジありがとうヤモ君!」


 なるほど、最悪は回避していたわけである。食材がないことを嘆いていられない、自分が肉になるところだったのだから。


 気を取り直し、ここからどう脱出するかを考える。

 持ち物はヒノキの棒すらない。勘違いされて襲いかかられたら死ぬな。だってヒナゲシ基本魔法も覚束ないんだもの。

 子精霊にお願いして簡単な魔法をちょろちょろ学んでいるものの、絶対変なことにしかならない。

 この前翠に習ったら城の花たちをダンシングフラワーにしてしまい、暫く笑いの渦に包まれてしまった。上位貴族がマジ顔で叱りに来た時は震えた。もう緑の魔法は覚えないと誓ったぜ。


 そんなわけで。


『召喚魔法で戦力を呼び出すのー』


 無ければ呼び出せば良いじゃない。実にアントワネットな考えで二匹目を提案されました。


「我は求め訴えたり」


 今回はギャラリーが居ないだけに気も楽だ。

 立てた指先を目の前の地面に向かって降り下ろす!


「我が声をきく者よ、応えよ!」


 しゅおん、と目の前にやはり展開する魔方陣。相変わらずでかい。


「ヒナゲシの名において命ずる」


 白銀の魔方陣が穴蔵内を内側から照らし、何もないわけではない中をちらりと把握する。


「来たれ、我が忠実なる僕!」


 盛大な音を立てて唸る魔方陣。二度目なだけに動悸息切れはなかったが、想定外発生。

 肩に乗ったヤモ君が、ペッと愛らしく唾を吐き出したのだ。どこにて、魔方陣の中に。

 その影響を受けたのか、前回以上の煙を巻き上げる魔方陣。どこか動きが壊れた洗濯機のようだ。


「ヤモ君……」

『ヒナゲシの役にたたない子はいらないのー』

「またシビアなこと言ってきたな」


 ガッタンゴットンと機能の限界に挑まされているかのような洗濯機の如き異音を響かせる魔方陣。

 うん、まぁ……ここにオルディランの人は居ないし。最悪パニック映画になっても全力で知らぬ振りができるよね。


 飼い主としてどうなの思考で暴れ馬のようになってる竜巻を見守る。案の定視界には捉えられない大きさなのか、姿が――




 ペタタタタ。




「お、おお?」




 ペタタタタタタタ。




「そう来るかー」




 遠くから懸命にヒナゲシに向かって駆け付ける召喚魔。


 遠くからでもわかる獅子にも似た疑似鬣を持つアイツ。

 小さな手足。

 精一杯に背を伸ばして左右に揺れながら走るその姿は。




「まさかのエリマキトカゲ!」




 地球産の私は無意識に地球産の生き物を呼び寄せるのだろうか。


 ――しかし断固として爬虫類なのは何故。

ごめんね!モフれないヒナゲシの華ごめんね!みんな毛皮に飢えてないかな!?作者心配だよ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ