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ヒナゲシの華  作者: 水無月奎
本編
78/90

目的

今日もヒナゲシはオルディランで頑張ってます。

『暖房器具……か』


 むーん、と眉間に皺を寄せた赤のおにーさんを見上げながら、ヒナゲシはこくこくと頷く。

 いつものようにいつもの如く、リーゼシアさんの部屋で会議机と化した机を挟みながら、ミミズののたくったような字を連ねた紙を示して無理難題と言う名の思いつきを提案している。

 今回巻き込まれたのは普段オースティンの護衛をしている赤いおにーさんと、(性的に)むっつりラーゼ。そしてヒナゲシの家庭教師役のガートン。


『持ち歩けるってそりゃどんな超小型魔法アイテムだ、それも魔法エネルギーのない者でも使えるってどんな汎用性だよ』

「……聞いたことがない」

「相変わらずヒナゲシは思いつきが斜め上じゃのぅ」


 そうかな、と首を傾げながら説明用に描いた絵を眺める。

 日本に住んでいたら当たり前に使っていたもの。

 カイロにこたつにストーブ。派生して電気カイロや電気カーペットも描いたがこのオルディランに電気が一般的とも思えず、とりあえず魔法か素材で代用できそうなものを狙って提案している。


 夏場も思考がいまいち柔軟ではないことを実感した魔法院の皆さんに、今冬はちょっと頑張ってもらおうと思っている。というのも、城内をさまよい歩いているうちに、寒さで凍死した人の話を偶然に聞き知ってしまった為である。

 凍死、という言葉にまさかと疑ったわけでなく、過去自分が真剣に「あ、死ぬかも」と思った経験が過ぎったのだ。


 日本の皆さんもオルディランの皆さんもご存知の通り、ヒナゲシは長らくぼっちだった。

 大人に気にかけてもらえるというのは子供の特権だと思うなかれ、そんなもん一から十までヒナコが持って行っていたために、常に危機感の中で生きてきた。

 笑うなよ? 笑うなよ? ──ヒナゲシは何度も遠足中や修学旅行中や家族旅行中に忘れ去られ、文字通り遭難したことがあるのだ。

 夏はまだいい、外にいても生死に関わることはない。

 だが問題は冬だ。暮れ行く空を眺めながら、取れる暖もなく、迎えに来る大人もなく、あ、このままじゃ死ぬなと思ったことが何度も繰り返しあったのだ。

 危険を理解した自分はどれだけぼっちを自覚する破目になるかわかっても、集団の後ろを尾けるという迷子もしくは遭難回避をしていたのだ。

 集まる人混みだけで暖を取れそうなヒナコにしょっぱい想いを何度もしたが、ここでは関係ない。

 迎えに来る人がいない=対処しなければ野垂れ死ぬ、と身を持って私は知ったんである。


 貴族があり国民を支配している以上、自然と根付くのは無意味な権力志向と根拠なき尊厳と理不尽な立場だ。

 いくら国王が馬鹿ではないとはいえ、オースティンだって手は二本しかない、国民全部の生活を見てやれるわけでもないので、知らないところで誰かが権力の犠牲になることもある。

 ヒナゲシだって養われてる身で人を哀れむ余裕はないし、手を出す勇気も自信もない。

 そこで自分が何か出来るだろうかと考えて思いついたのが、寄る辺ない人達の退避スペースである。


 思い描いたのは、ホーム下に転落した時に隠れるための小さな退避スペース。

 あんな風に、天災からも人災からも身を守るための小さな手助け的なものが出来たらと思ったのだ。

 永遠に匿うのは無理でも、辛い時に屋根代わりになって、寒くて凍えそうな時にカイロ代わりになるものがあれば。

 頭の悪いヒナゲシに代わって実質取り仕切ってるのは宰相補佐のミリーだが、彼が上手く指揮してくれているので私の魔法アイテムも役に立つ形で日常に馴染ませることが出来ている。

 不器用ながらも退避スペースを作りたいと言うヒナゲシに、両手で顔を覆いプルプル震えたミリーが「馬鹿可愛い……!」と非常に聞き捨てならない褒め方をしたのだが、ヒナゲシは深く考えるのはもうやめた。

 今は寒い冬に指が動くだけの温もりを作りたい。


「魔法院で意見を募ってしてみるか?」

「ん……発想が面白い奴、いる」


 元々魔法院所属の二人が、今後の方針を決めて行く。ここら辺で魔法院にもヒナゲシを投入してみようという考えに落ち着いたようだ。

 自分より遥かに頭の良い二人の話に、ふむふむとヒナゲシも聞いている。それを見て、赤い精霊は少し口角を上げる。


 今、ヒナゲシを強く突き動かすもの。

 見返りが欲しくて動いているようには全く見えない。

 功労をもらおうと意見することはない。

 ヒナゲシが誰かに手を伸ばそうとするのは、ヒロイン気質だからでもない。

 むしろ物語の中心にあるヒロインとは真逆の思考回路だろう。

 博愛はない。

 安易にペットを飼いたがる奴の無責任さを見抜いて罵倒するような性格をしている。

 では、何故か。


『やっぱ可愛いよな、ヒナゲシは』


 老獪な精霊には人間の本質が透けて見える。

 ヒナゲシがしようとしているのは、過去の自分の救済。

 理不尽に翻弄された中で失ったものを見つめ、今の自分を生かすためにヒナゲシは動いている。


 身勝手な正義に酔うこともなく、出来ないことをするのでもない。

 安易に同情するのではなく、情けをかけることもしない。

 彼女は周りに感謝し報いるために、前へ踏み出そうとしているだけ。


 真っ黒なオースティンに手を貸したように、真実を見せない顔で人間の側に居ながら、ヒナゲシという少女の中身を覗く。

 そこにあるのは精霊を喜ばせる感情しかない。

 不思議なものだ、滅多なことでは揺らがない自分たちを上手く巻き込んでいる少女が。

 けして幸せだった過去ではないが、正しく歪みつつもどこか潔い。


 人間特有の不愉快な幾つもの顔を知る精霊は、傍観者でありながらヒナゲシ達には手を貸す。


『変わらねぇでくれよ、ヒナゲシ達は』

「え、意味がわからないんですけど」


 歪みを持つ人間は、歪んだ精霊を呼び寄せるのだろう。

途中からオースティン付きの赤いおにーさん精霊視点でした。


先に黄色い精霊視点を出していますが、長年生きた分彼らも大概歪んでます。

人間ではないものの、長い年月をかけて内面を見てきているので、どういう生き物かわかっているという。

思いっきり嘲笑していますが、珍しく気に入った人間がオースティン、次いでヒナゲシ。

人間より人間をわかっている彼らにはプライバシーゼロですぜ、ヒナゲシさん。

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