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ヒナゲシの華  作者: 水無月奎
本編
76/90

年末年始小話

別名帰って来たヒナゲシ編。嘘ですすみません。

 何で私ここにいるんだろ。


「ふむ、年末は麺類を食べて年を越す……と」

「はぁ」


 国の中枢にいるだけに異世界から来た凡人の私を第一級犯罪者レベルで警戒し、やる事なす事見張られた時期もあった。狸のスタンド使い、別名宰相様。


「麺類である根拠は?」

「はぁ、細く長く生きるとかで」

「長寿祈願というわけですか」

「はぁ」


 そんなん聞いてどうするのと思いつつ口に出来ないヘタレです、すんません。未だにこの人の本心が見えず、【ALL YES】で答えている。


「他には?」

「年末は大掃除とか……」

「大、掃除?」

「新年を迎える前に一年の汚れを掃除することです、普段は行き届かない場所とか」

「ほほおーう」

「……」


 やっべ、マジやっべ! 『良い事聞いたぜ、クックック』って顔に書いてやがる!

 何だろな、今の一言で何人か職を失った気がする。というか命の灯火も消えた気がする。気のせいだよな?


「年が明けてからは?」

「初詣で神様に挨拶しに行きます。こっちの世界で言う教会のような場所に行ってお賽銭入れて願い事言ったり」

「ほうほう、ほほおーうおうおう」

「…………」


 何だろう、この人緑のおにーさんみたく好奇心で日本の話聞きに来てんじゃなく、利用するための知識を得に来てる気がする。

 それがオースティン達にとって悪い事でないなら私も止めるつもりはない。彼は腐っても国を愛する宰相様だ。多少黒……真っ黒だが、私が大切にしたい人達に害になる人ではないから。


「それは良い慣習ですな!」

「の筈なんですけどね……」


 不安しかない。多分きっと彼の中で日本の古き良き伝統は目的でも結果でもなく手段化しているのだろう。日本人に顔向け出来ない変化を遂げている気がする。


 私の存在はこの国の人々に表面的には悪い印象は与えていない……と思う。薄ぼんやりした謎のアイテムばかり提案するものだから、関心を抱かれているらしい。何人か顔合わせをしたが、オースティンやクリスのおかげか面と向かって酷い事は言われない。見知らぬ人が親切にしてくれるのは不可解で相手に不信感を抱いてしまうけれど、どちらかというとビジネスライクな質疑応答になるので今のところ相手に失礼な態度は取らずに済んでいる。


「良い事を聞きましたなぁ……クックック」

「………………」


 自分の言動のせいで誰かの人生が変わる事も今や自覚している。オースティンやクリスは言わずもがな権力的な意味で影響は大きいし、気が小さかったり野望があれば私への見方や扱いも変わるものだ。それは彼らが彼らである以上ワンセットに受け入れるべきことだから、私は彼らに迷惑をかけないよう気をつけるだけだ。

 まぁ自衛手段に事欠かないんだけど、今の私は。


『んー? どうしたのなの、ヒナゲシ?』

「何でもないよ」


 相変わらず肩にとまるヤモリのヤモ君、本名八雲はクルリと特徴的な眼球を動かす。縦長の猫目は愛らしい。小首を傾げる様子も人間的で知的な意思を感じるものだ。


「八雲は回復以外に使ってますか?」

「いえ、特に危険な生活ではないので」

「そうですか」


 そうですか、と言った顔に何かしらの思惑を感じた。この人の事だから秘めた魔力を見たいとかそんなところだろう。首回りについた輪っかはキンキラキンに日の光を反射している。元は宝石の最高峰、ダイヤモンドなのだから無理もない。一見して彼が莫大な魔力を秘めているのがわかるのだ。小ささと愛嬌から誰もがペット以上に見てはいないが、四六時中利用する事を考えてる宰相様には恰好の餌と言える。


『ケッ』

「……」

「……」


 その小さい顔をそっぽ向けるヤモ君は基本男性が嫌いらしい。私と同性ならまだ許せるが、男性に向ける言葉は辛辣、もしくは挑発。子精霊の翠や暁月、虎雄には挨拶代わりに喧嘩を売っている。


「フフッ、ヒナゲシ様は本当に愉快な愛玩動物を召喚されましたね」

「ははは」


 言外に怒りが見えますよ、宰相様。ヤモ君は悠々と尻尾を揺らしているが。


「さて、そろそろ彼らも戻って来る頃ですし退散しましょう。ヒナゲシ様の独占は要らぬ嫉妬を招きますからね」


 部屋に二人と一匹以外が居ないのは、ひとえに緑のおにーさんからスパルタ授業を受けている真っ最中だからである。同じ精霊である彼は子精霊の無駄の多い力の使い方が許せないらしく、時々「調教して来ます」と爽やかに言い放ち、全員を連れ去って行く。泣くわ喚くわ大変なのだが、確実に力の使い方はまともになってきているらしい。私としては一番気になるのが思考回路がドSに変えられないかだけだが、もう手遅れだとわかったのでどうでも良くなった。本人達が楽しそうならSでもMでも何でもいいいいや。……いや、やっぱりMは嫌かな。


「失礼しま」

『ヒナゲシヒナゲシヒナゲシぃ〜〜〜〜〜っ!!!!』


 言ってるうちに帰って来た。宰相様はヒナゲシに向かい我先にと飛び付く子精霊に微笑ましげな視線を向けている。何だ、そんな顔も出来る人なんじゃないか。そう言えばミリーを引き取った優しさはある人なんだっけ。


「お帰りみんな。今日の授業はどうだった?」

『最近慣れてきたぜ!』

『うん、疲れ知らずになってきたよね』

『自分流の技も編み出せるようになったですよぅっ!』

『フン、俺様に出来ねぇことなんてねぇんだよ』


 帰って来るなり倒れ込んでいたのが嘘のようだ。心配してごめんなさい緑のおにーさん。


「……うん?」


 今日はまだ魔法で編み出したアイテムを消さずに全員手にしたまま。それを目にした私は目が3になった。


「?」


 翠の片手に植物で作られたと思われた細長いものが握られている。トゲトゲとした突起を見る限り、薔薇の蔓だろう。


「??」


 反対側に立つ暁月を見る。手にはバトンサイズの真っ赤な何かに火が点いていた。


「???」


 虎雄の左手には重そうな鎖と輪、そして鉄球にしか見えない丸いものを床に引きずっている。


「????」


 腕に飛び込んできた青子の両手には、犬猫に使うような首輪が。


「…………………………」


 そっと子精霊を横一列に並ばせる。そして手にしてるものを見た。

 バラ鞭に低温蝋燭に拘束具に首輪。


 S M 道 具 や ん 。


 チラと宰相様を見ると、先ほど目にしたままの温かな慈愛に満ちた眼差しは用途不明の道具に向かっている。いやいやいやいや。あなたの目にはこれが子供用オモチャにでも見えているのか。


 違うから。どう見ても 大 人 用 オ モ チ ャ ですから。


 そっと青子の無邪気な目から視線を逸らしつつ、手にした首輪を奪う。恐ろしい事にリードまで付いているではありませんか。私の想像力にビッグバンが来る前に捨てようね、うん捨てよう。我が家に犬は居ないよ!


「今年の大掃除には精霊にも手伝ってもらいますか」

「やめてお願い本気で泣く」

「ああ、そう言えば翠、暁月、青子に虎雄。教会にちょっと挨拶(ケンカを売り)に行きません?」

「待て、日本語がおかしくないか」

『イイネ!』

「Facebookみたいな答え方になっとる!」


「いやー、楽しみですね! 賽銭箱ごと貰って来ましょう」

「ちょ、教会に賽銭箱ないよね!? その箱金庫とかじゃないよね!!」

「じゃあ、お年玉を貰って来ましょう! 大丈夫です、精霊であっても子供に違いありませんから!」

「教えたばかりの日本イベント独自解釈し過ぎだろ! 聖職者に無心するなんて聞いたことねぇよ!」

「大丈夫ですよ、ねっ?」


 いつになくワクテカしてる宰相様が子精霊に意味深な視線を投げると、正しく理解した四人が己の武器を掲げ自信満々に頷いた。脅す気満々じゃねぇか!


「ダメダメダメダメ、新年明けましておめでとうと言うべき日に恐喝なんて何考えてんだ! しかも何プレイしてくる気なのそんな道具で!」

「え……外だから野外プレ」

「あーるじゅうごキーック!!!!!」


 偶然養父に飛び蹴りをかましたヒナゲシを見てもミリーは何も怒らなかった。どころか、サムズアップしてた。仲悪い説浮上。たとえそれが国の中枢で大活躍してる狸でも、下ネタは労組に訴えられる低レベルさだということが判明した。


「大丈夫ですよ、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけですから!」

「風俗来てサービス以上をねだるオッサンかぁああああ!」


 宰相様は底の知れない狸ではなく、エロ親父でした。畜生。

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