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ヒナゲシの華  作者: 水無月奎
本編
68/90

召喚魔

 何だろう、前振り凄かったのに日本からヤモリ来た。




「やもり……?」


 ここにいる全員が怪訝な顔をするということは、この世界にヤモリはいないのだろう。爬虫類はいないのかな。トカゲさんとか。


「家の壁とかに張り付いてる生き物なの。害虫を食べるし人間に噛み付いたりしないから、家を守るって名前なんだよ」


 肩にちょこんと乗った手のひらサイズのヤモリに笑みが浮かぶ。同じ日本から来た同郷の士と思うと愛おしい。見慣れた存在が嬉しかった。


 ニコニコ笑顔のヒナゲシに、怪訝な顔していたガートンたちがようやく立ち直る。あれだけのパフォーマンスでどんな魔生物が出現するかとドキドキしたが、蓋を開けてみればヒナゲシが喜ぶ小動物だった。どう考えても邪悪ではない。


「そうか。日本にもいる生き物なんじゃな」

「うん!」

「魔力はどの程度なんじゃ?」

「うん?」

「じゃから、魔力」

「……ヤモリに、魔力……?」


 聞 い た こ と ね ぇ 。


 え、待って。そういえば私召喚魔喚んだんだっけ。え? 召喚魔って何だった? 確か異次元から喚ぶ魔力持った……


「え?」


 肩に乗ったそれを見つめる。小首を傾げて見つめ返された。ちょ、可愛いなオイ。


「……魔力なんて、持ってないよね?」


 直接訊いてみた。

 わかってる! わかってるのよそこの人! この子がヤモリだって! 明らかにヤモリだって! でも召喚したら来たんだよ! つまりどういうこと!?


『ちゃんと持ってるの』


 ハイ、しゃべったー!!!!

 ちょ、え、まっ、どういうこと? ヤモリ異次元超えて超進化!?


 頭の中ではマシンガントークしているヒナゲシだが、あまりのツッコミ量に口から一言も漏れなかった。脳内で完結したとも言う。


『ぼく、ちゃんと魔力持ってるの。ヒナゲシの役に立てるの』

「……っ!」


 若干舌っ足らずな口調だからか。左肩の上という至近距離から覗き込むように頭をもたげる召喚魔かれに、うるうると見つめられて息を飲む。


 ──ぼく、頑張るの。ヒナゲシの役に立ちたいの。でも要らない?


 何故だ、言外に健気な言葉が聴こえてくるのは。視線を逸らさないヤモリは依然ヒナゲシを見つめたまま。その目が訴える。


 ──ぼくのこと、きらい?


「なわけあるかーっ!!」


 突如叫んだヒナゲシにギャラリーがどよめいたが、気にしない!


「可愛い、可愛いよヤモ君! 居て、超居て! 何なら私の左肩どころか右肩まであげちゃうから!」

『うれしーの』


 何故だろう、犬猫に比べて格段に表情の出難いヤモリなのに、ふっくりと微笑んだ気がした。キュンってなった! 私ときめいたー!!


 はぅああああ! と身悶えるヒナゲシ。

 どういうこった、家のヤモリを見ても何とも思わんかった私が! モフってる存在にしかときめかなかった私が! ヤモリに恋、だと……?


『名前ほしーの』


 きゅぅうううううん。


 落ちた。落ちたぜよフォーリンラブ。今まさにフォーリンラブった。

 何だこれパン咥えて曲がり角でぶつかるよかときめくぅうううう!


「名前は部屋で考えようね、可愛い名前付けてあげるからねーっ」

『楽しみなのー』


 るんたったと部屋に戻ろうとするヒナゲシが、あ、とガートンに振り返る。いっけね、先生置いてくとこだった☆


「ガートン先生、もーどろっ」


 こうして私の召喚魔は決まったのでした。






『はわ、変わった動物ですぅ〜』

『ちっちぇなー』


 部屋に戻って子精霊たちに召喚魔のお披露目会。大きな魔法は私の魔法エネルギーで酔っちゃうから、置いてったんだよね。

 恐る恐る触ろうとしたり、覗き込んでみたり。子供の仕草は本当癒される。

 ダブルとなった癒し効果に、私はホクホクだ。


『よろしくなの』


 おおっ、しゃべる! と慄く子精霊に吹き出しそうだ。可愛いったらない。


『青子っていうですよ〜。よろしくです』

『ハイなの』


 っくぅ! 青子ったら自己紹介可愛いんだからもう! ヤモ君の頷く小さな頭も可愛いったら!


『俺は暁月な! お前の先輩だ!』


 何のだ、暁月。


『僕は翠。ヒナゲシと一番仲良しだよ』


 こらこら、他の精霊がふくれてるから、翠。


『俺様が虎雄だ、敬え崇めろパシられろ』


 ちょ、虎雄ぉおおお! あんた何言っちゃってんの!? いつから不良やってんの!? 学校通ってないのに腐った蜜柑にならないでよ!


 もう、と口を挟もうとしたら。


『バカばっかなのー』


 ……うん?


『先輩とかパシリとかふざけてるの。役に立たないおつむは刻んですり潰して捨てろなのー』


 ……うぇ?


『……………………』


 完全に動きを止める室内。生活音のなくなった部屋に、虎雄の「ァアン!?」と非常にやさぐれた声が響く。


『テメー……今何つった? ああっ!?』

『やれやれなの。記憶力の欠片もない精霊なんて虫も同然なの』


 かっ、辛口ですねヤモ君!


『こいつ……潰す! まじ潰す!』

『口わっるいなぁお前!』

『アホは嫌いなのー』

『あははは面白いねこのペットまじムカつくヒナゲシの肩から今すぐ降りろやゴラァ』


 ちょ、精霊対ヤモリになってる! どんな光景!?

 それから優等生キャラ脱げてるよ翠!


『バカばっかなの』


 ヒナゲシの肩に乗るヤモリが、やれやれと言いたげに頭を左右に振った。……あまりの人間臭さに脱帽です。


『ってんめぇえええええ表出ろやコラァ!!』

『一人でどうぞなの』

『っがぁああああ何だこのイラつきは!!』

『目の前から今すぐ消えろなの』

『シメる! まじシメる!』

『おととい来やがれなのー』


 やべぇ、ヤモリが挑発魔です。

キャラは決まってました。

しゃべるヤモ君、如何でしょう? 精霊たちにだって負けてませんよ!

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