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ヒナゲシの華  作者: 水無月奎
本編
62/90

企画 ラスト

この話は殺害の残酷シーンが含まれます。苦手な方は回避よろしくお願いします。

 皆さんこんにちは、クリストファー様配下のサートンと申します。今回だけ、作者の代わりを務めさせていただくことになりました。よろしくお願いしますね。


 源さまから、Twitterにて質問というより言ってやってくれという言葉を頂戴しました。ええと、お相手は……おや、ヒナゲシ様のご家族様のようですね。これは任され甲斐があります。精一杯おもてなしさせていただきますね。

 

「どうぞお入り下さい」


 少しばかりの自慢であるお茶を用意させていただきました。部屋はもちろん賓客をもてなす応接室。抜かりはありません。


「うわっ、何だ此処?」

「お、お城っ?」


 戸惑いがちなのは、作者からちゃんとインタビューの通達がなかったのでしょうか。困りましたね。まぁ私は私が出来ることをするだけです。


「どうぞこちらへ。私はサートンと申します。宜しくお願いします」

「は、はぁ……?」

「では、早速」


 話が進みませんので、戸惑いはスルーさせていただきます。お預かりした手紙には……


「貴方は、自分がヒナゲシに行っていた行為を誰かがヒナコに行っていたらどう想い、どう行動しますか? また、自分がヒナゲシに行っていた行動を全世界動画サイトで公開されて噂されています。どうしますか?」


 とのことです。

 机を挟んだ向こう、ソファーに落ち着いている四人から、息を呑む音が聞こえました。おやおや、どこに反応なさったのでしょうね? ヒナゲシ様のお名前か、それとも……。

 ところで、【どうがさいと】とは何でしょうか。ヒナゲシ様の住んでらっしゃった国は色々と面白いものがあるようなので、好奇心が疼きます。


「……ヒナゲシ、の、お知り合い……?」


 あ、この女性は母君でしょうか。ヒナゲシ様に似ていますね。ですがこの顔の強張りようは一体?


「ええ、仲良くさせていただいてますよ」


 ヒナゲシ様は私の入れるお茶が大好きと言って下さる可愛らしい方。見慣れない髪色や顔立ちをなさってますが、人種の違いでしょうね。歳より幼めに見えるのですよ。


「あの子は今、ここに?」

「ええ、いらっしゃいます。あ、心配はご無用ですよ、私どもがちゃんと生活環境を整えておりますから」

「はっ、あいつ、今こんなところで悠々と暮らしてるってのかよ」


 ……はい?

 気のせいでしょうか。兄君と思われる方の口から、嫉妬が滲んだ言葉が飛び出してきましたよ。目は忙しなくこの部屋の調度品を確認しています。


「どこぞのお偉いさんの側に侍ってんのか? 今は金持ちに拾われて幸せに暮らしてるってわけだな、へぇ」

「…………」


 自分はクリス様のお側に控えさせていただいておりますから、ヒナゲシ様が界を渡られた際の情報が少しは耳に入ってきております。確か急にこちらの国に飛んだとか。ご家族は心配じゃあないのでしょうかねぇ?

 イライラと口にする青年を眺め、どんどんと気持ちが冷めていくのを感じます。よく見れば、父君もお祖母様も心配というよりみすぼらしい感情が見え隠れ。……これは、ヒナゲシ様の生活を物語ってますねぇ。

 へぇ。はぁ。なるほどなるほど。時々暗い顔をする理由が透けて見えてきましたよ。どうしましょう、腹が立ってきました。思っていた以上に彼女を気に入っていたようですねぇ。


「それで、ご質問のお答えは?」


 ああもうこちらも気分がささくれてきました。さっさと終わらせて、ヒナゲシ様にお茶を入れて差し上げましょう。


「………………」


 じとりと睨めつけられておりますよ。やはりその眼差しにはよろしくない感情が見え隠れしてますね。そこにヒナゲシ様を気遣う色はありません。むしろこのサートンを通して睨みつけているような──おやおやおや。

 ヒナゲシ様、お優しく人を大事にすることを知っていらっしゃる貴女のご家族ですから、まさか、と思っていたのですがね。この方達は、いえ、こいつらは。腐りきった貴族と同じ目を持っていらっしゃる!


「あの子が、ヒナコと同列なわけないじゃないの」


 吐き捨てるように口にしたご老人は、今、ここで、私に殺されたいのでしょうかね。服に隠した短剣が、ビリリと怒りに震えてますよ?


「ヒナゲシ様は、あなた方の血縁者では?」


 ヒナコとやらの小娘と同じ立場である筈。それなのに。


「あの子にもヒナコくらいの愛嬌があればね」


 ああ、彼女にとって家族が優しいものでないことはよくわかった。それは自分の過去とも似たようなもので、だからこそ、彼らの醜悪さがヒナゲシ様を必要以上に傷つけていることがわかる。


 まだ、十三という年齢なのに。

 ずっとずっと、愛情に飢えていたなどと。


 カチャン。


「は?」

「え、何それ」

「け、剣?」


 スラリと鞘から抜いた剥き身の剣が現れる。

 長い刀身でない割に反応が大きいのは、武器が必要のない国だからか。笑顔を消し、無表情に柄を握る目の前の男を見ても逃げる気配もない。


「何を──」

「あなた方がヒナゲシ様に必要のない虫けらだということがよくわかりました」

「む、虫けらっ?」


 侮蔑された、と一気に気色ばむその様により失望する。

 身内を心配するどころか、自分を馬鹿にされたことにばかり気がいっている。

 ああ、本当に腹立たしい。

 ヒナゲシ様が哀れでならない。こんな疫病神と今まで共に過ごしていたと考えるだけで……


 ザンッ!


「う、うあぎゃあああああっ!?」


 ──すべてを、消してしまいたくなります。


「い、いやああっ! う、腕がっ、ああ、あんた、何て酷いことを」

「酷い?」


 クツリと喉が震える。


「酷い、とは。あなた方の言動では?」


 ついと横に一閃。悲鳴と、舞い上がる赤。

 ぎゃあぎゃあ喚く口など消し去ればいい。ヒナゲシ様を追い詰める人間など、必要ない。


 無様に四つ足で逃れようとする背に、突き立てる。ぎゃああと鳴く獣。痛みに震えるそれを踏みつけ、力任せに剣を抜く。喚くばかりでろくな抵抗もないそれは、サートンにとって食用家畜と同義。殺すことに躊躇いなどない。

 家族だろうに足下の存在を見捨て、扉に駆け寄る姿が見苦しい。ヒナゲシ様をこき下ろす時は共同戦線を張っていた馬鹿共も、こうして深い繋がりなどありはしない。それがわかり、サートンの口元には侮蔑しか浮かばない。


 ザッ! ザシュ!


 悲鳴が幾つか響き、最高級の調度品に新たな色が付け足される。普段温和な彼の足元に、肉片が増えていく。

 ヒュ、と喉笛を掻き切ったところで悲鳴は止んだ。それでようやく不愉快な感情が収まる。彼らはヒナゲシ様の家族だったが、どうせ二度と会わないのだからサートンが殺してしまおうが構わなかった。


「ああ、どうせなら苦しみを長く味合わせる拷問が良かったですか。うーん、感情のままに行動はいけませんね。イライラのあまりつい殺してしまいました」


 短時間で片付けたつもりが、ちょうど日の落ちる時間だったらしい。窓から夕陽の明かりが射す。肉片にサートンの影が落ちていた。


「ヒナゲシ様にはとっておきのお茶を召し上がって頂きましょう。そう、珍しい茶葉をご覧にいれても良いかもしれませんね」


 彼女は、まだこの国のことに疎いから。


 懐から出した布で、頬についたものを拭う。短剣も鞘に戻し、クルリと柄を回すとどこへ消えたか短剣は姿を消す。その動作を終えた時にはサートンの顔にいつもの笑顔が浮かんでいた。


「さて。彼女の過去は消しましたし──行くとしますか」


 血塗られた部屋も、人間だった塊も。彼には興味がない。

 異界より来たる客など“はなから居なかった”、そういうことだ。


 扉に手を掛けたサートンは、ふと立ち止まる。


「質問はこれで良かったでしょうかねぇ……いえ、きっとこれこそが本望でいらっしゃるでしょう。ね、源さま?」


 クツクツ笑う声は、落陽の明かりの中、長く尾を引いた──。

間が空いてしまい申し訳ありません。

これにて企画は閉幕、再び本編執筆に戻ります。

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