とある裏切りの場面
前話で出たオーレンの実父殺害場面。短いですが、残酷です。苦手な方はお避け下さい。
重い両刃の剣を振り回すと、中の骨ごとあっさりと断つことが出来た。
──何てあっけない。
表面は肉で覆われていても、中は頭蓋骨だ。空中に飛んだそれは、地に落ちると共に硬い音を響かせた。
ゴンッ! ゴロゴロゴロゴロ……。
立ち尽くす首から下は、勢いよく鮮血を上げる。まるで水源を掘り当てたかのようで、少し笑える。
斬った反動か、ゆらりと揺れて倒れた。びくびくと指先と足が震えている。頭が奪われても執念で動こうとしているかのようだ。
「終わったね」
離れた場所で見ていた親友が、ぽつりと言った。
それは、この無益で無意味な戦いのことか。それともこの国がか。
殺し過ぎて毛足の長い絨毯に吸いきれず、じゅくじゅくと足場の悪くなったそこから動く。靴に跳ね、脛やふくらはぎに小さな赤が散った。それも気付かぬほどに、衣服は血に塗れていた。
ぐるりと部屋を見渡すと、かつて自分の遥か上から見下ろしていた人間たちが床に伏していた。首から上がない骸、肘から先がない骸、様々だ。それでも感慨はない。
──こんなものか。
かつて自分たちに命令を下していた連中は、実に呆気なかった。偉そうに剣技を磨けと言っていたから、もっと手間取るかと思っていたのに。
いざ生死の狭間に立たされた時、みっともなくもまともに応戦できた者はいなかった。あの優秀と言われた兄ですら。
真っ赤に染まった床一面には、無関係の女もいた。それが愛妾だろうとメイドだろうと関係ない。赤子だろうが斬り捨てていただろう。
良心? 大義? そんなものがこの場に必要だろうか?
ただ殺すだけ。その相手が血を分けた家族であろうとなかろうと、自分にとってはただの人間だった。
そう教えてくれたのは、ここにいる今は亡き面々。
「もう行く?」
自分に付き従った親友が、小首を傾げて待っている。
その姿は年相応だったが、同じように血に塗れているのでは殺人鬼と言われても仕方ないだろう。
「王宮を封鎖してオルディランを招き入れる」
「うん」
腐りきった王族に支配された民が憐れでやったことではない。王子としての葛藤に悩んだわけでもない。
冷めきった眼差しで豪華な一室を眺める目は、自己中心的なもの。鬱陶しかった蝿を払ったに過ぎない。
「行くか」
「うん」
オルディランが裏切者など信用できないと言うなら殺されるだけ。ガルトランドの生き残りをどうするかは、乗り込んできたオルディランの王族が決めることだ。別にどうでもいい。
十にも満たない二人が、覚悟と言うにはあまりにも無関心な心でオースティンの前に立った時、新しい第二の人生が始まる。
生にも死にも執着しないその魂に、当たり前の感情が宿るのはオルディランで。異世界トリップなどという非現実な奇跡が起こったことで、彼らは初めて救われる。
どんな色にも染まらない、黒によって────
ガルトランド大国の幕引きは第五王子オーレンの手によるものでした。そこに大義名分はありません。彼の中で国王の父も民百姓も押し並べて「どうでもいい」。オースティンの結果如何によって左右される自分の命も「どうでもいい」。そんな彼は今一番輝いてます。黒猫万歳。猫耳猫尻尾万歳。変態は萌えの中で輝くのです。