掌握
双子の美形、ミリー・アロウ(ツンデレラ)とラーゼハルト・トーウォン(セクハラ魔)。
力の程は知りませんが、魔法道具作りの仲間になりました。
「……………………」
珍妙なことを口走りだした二人を置いて、説明会を光の速さで終わらせたヒナゲシは報告を終了させた。もちろんスタッフ募集の収穫についてである。
「ミリー・アロウ……?」
「ラーゼハルト・トーウォン……?」
そして再びの沈黙。空気が重かった。
ええと。何か問題があったでしょうか? やはり、悪名高い双子だったのでしょうか?
未だ何も始まっていないのに、この終わった感。私一体どうしたらいい。
新規スタッフのフルネームを呟いた後、オースティンとクリスがそれぞれ顔を見合わせる。怒ってはいないが、明らかに困惑している。いや困ってるというより、理解出来ない、みたいな。
リーゼシアさんも給仕を完全に忘れ、ミルクピッチャーを持ち私をガン見。ガートン先生がまぶたをかっ開いたまんまでご臨終あそばした。ふぅんと軽く納得したのは親精霊たちだけか。
「ああっと、ヒナゲシ。今のは聞き間違いでも別の話でもなく、本当か?」
「? うん」
「その二人だけ?」
「うん」
というかそもそも他の人間がいなかったからだが。大人数で来てくれたならば、別の人間の方が適正だからとでも言えたのに。くっ、他の人間がいてくれてさえいたら!
何が悲しゅうて24時間ツンデレますなミリーとセクハラ大好き☆ラーゼを雇わねばならんのだ。間違いなくヒナゲシの脳は苦手意識を持ったのに。
「信じられん……」
やはり困惑を抱えているような何とも反応に困っているオースティンに、クリス。完全に食事が止まってますよ。
「ラーゼが? あのラーゼハルトが? ないない、いやないじゃろうよ、あの彼が」
ふるふる首を振るガートンは、何が信じられないのか妙に疑心暗鬼に囚われている。それは私に彼を説得出来るだけの力量がないということだろうか? ちょい涙目。
『ミリーは自分でヒナゲシに協力するって言ったの?』
「そうだよ。むしろ押し掛け女房だよ」
ムッとした顔になるのは、遠まきにお断りしようと試みたヒナゲシを膨大な語彙力で叩きのめしてくれたからだ。あれはハッキリ言って胸くそ悪かった。最終的には頭脳が幼児だと認定されたのだ。コ○ンか!
『へー……お前、厄介な連中に好かれたなぁ』
「は?」
精霊のくせに人の皿からポテトフライ(に見える食べ物)を摘まんで食べるのは、赤いおにーさん。この人本当に気安いな。人の頭を腕置きにするし、しょっちゅう部屋に入り浸るし。
『ラーゼハルトっつったらアレだろ、去年一昨年の魔法大会で優勝した奴』
「へっ?」
『俺も見たけど、鮮やかな手並で古参魔導師を開始五分で叩きのめしてな。魔法エネルギーの質・量共に一級品だった』
「へぇ」
首席と言っていたから、才能あるのは本当だったのだろう。セクハラにも天性のものがあったようだが。
『んでも魔法院でのあいつの名前は“氷殺の魔導師”』
「え、何その恥ずかしい二つ名」
中二病患ってるジャマイカ。
『いや、案外ピッタリだぞ? 何せあいつは人そのものに興味が無いからな。人間関係なんて実に殺伐としたもんだ』
『確か重傷を通り越して虫の息にした魔導師もいましたね。まぁちょっかいをかけた馬鹿が悪かったのでしょうが』
『壁と言わず床と言わず真っ赤に染まってなー、どくどくと広がっていく血溜まりの中に無表情で佇む姿は紛うことなく殺人鬼だった』
『限度を知らなかった馬鹿が悪いのですよ』
サァー、と血の気が引いていく。ひょっとしたらひょっとしなくても、とんでもない化け物を掴まされたんじゃなかろうか。さりげに緑のにーさんも鬼畜発言してるしな。
そうして精霊たちに余計な情報を聴かされビビらされていると、オースティンが首を捻った。
「ミリーはなー、あの性格だろ?」
「なるほど反論は全く出ません」
即答で頷いた。
「いや、悪い奴じゃないんだがな……」
「わかります彼の中の尾崎豊がちょっと暴れてるだけですよね」
「誰だそれ」
むしろ私こそが盗んだバイクでクリフハンガー状態のまま奴の頭目掛けてフルスロットルしたいところだ。
女の体を貧相と詰った罪は重い。その後「ま、まぁ僕が育ててあげてもいいんだけどねっ!」とか何とかわけのわからん事を言ってたが。オレニハカンケーネー。
「あいつは子供の頃から神童って呼ばれてる天才でなー」
「人とは違うからあの口が許されると思ったら大間違いですよ、ええ」
「……お前ら何があったんだ……」
言葉攻めしかされてませんが何か。あと何かフラグを乱立させたっぽいが、回収する気はさらさら無い。オレニハカンケーネー。
「ケッ」
「ヒナゲシがグレた……いやまぁそんなわけでな、今は宰相が後見人なんだよ」
「えっ」
不貞腐れていた顔が強張る。苦手×苦手=天敵。やべぇ、地雷踏んでた!
「お前本当に宰相苦手だな……まぁいいや、あいつも双子の弟と合わせて最凶だ」
あれっ? すみません、最強の字が違って聴こえたのですが。おかしいな、怒涛の責め苦に故障した?
「実はあいつが政治に関わりだしたのは五歳の時だ」
「え……」
何その義務教育年齢からの政治参加。間違ってるだろ子育て。
「色々あって国内がゴタついていてな……騎士崩れの犯罪者が横行し、民間も混乱してて荒廃してたんだ」
「はぁ」
「城内も城下も混乱、外交もしっちゃかめっちゃかになってて、おまけに人手が足りない。そこへ手際が悪いと文句を言って政策に加わったのがミリーだ」
「は?」
「凄かったぞー、あの可愛らしい整った顔でズバズバ言うんだよ。あの官吏は無能だの害悪だの」
さもあらん。
「俺は常に諸外国とのやり取りで出払っていたし、宰相だけじゃ明らかに足りんからな、ミリーも参加してもらって国政を整えてもらったんだ」
瞬殺だった、といい笑顔。
「限りなくグレーに近い貴族たちがのさばっていたから、何を決議するにも邪魔でな。真っ先にミリーが進めたのは人員大量粛清だ」
ニヤッと嗤うオースティンに、ああこれは殺したな、と嘆息。それを五歳児がやったというのは信じ難いが、ここまで今の城内が落ち着いているのはそのおかげなのだろう。
「まぁそういうわけだから媚を売る人間には鋭くてな、若い宰相補佐にと娘を送り込んでくるのも絶えないから、基本女性には近付かん」
あー、あの過剰なまでの思い込み発言はそれが原因なのか。顔だけはいいもんね、顔だけは。
「癖の強い二人だ。よく釣ったな?」
釣 っ た 覚 え は な い 。
「あんな二人だからほぼ奴らの天下だ。魔法院にも大学院にも逆らえる奴はいない。良かったなヒナゲシ、両学院の最終兵器をゲットだぞ」
嬉 し く な い 。
「ちょっと断って来る」
食事を放棄して扉に向かうと、またも自動ドア再び。
ガチャ。
「おお、ヒナゲシ様! 聞きましたぞ」
ニヤリと悪どい笑み見せて現れたのは宰相。私を試していた筈の人だった。
「あの二人を意のままにするとは……やりますな」
この差し出された手は絶対取っちゃいけない気がした。
スピード和解。