この世界はフィクションです。
到着。けれど肉椅子に。
完全に不意打ちであった。
一から丁寧に教えてくれる非リアル友人様に尻尾を振りすぎてしまったらしい。
異世界に飛び立っているのか、束の間の暗闇の中で、めまぐるしくヒナゲシは考えていた。
信じすぎてバカを見たのは一度ではない。けど外なら、村以外の人ならあるいはと考えていた。
──バカ過ぎる、ヒナゲシ。この世は私の為にあるのではないと知っていた筈なのに。
違う世界に向かいながら、強く強く自分を戒め直し、そうしてヒナゲシは扉を潜った。
ひゅぽんっ。
と何だかとても気の抜ける音がして、体に衝撃が走る。言うならば不安定だった態勢がようやく安定した、みたいな。
そうっと片目を開け、異世界とやらを観察する。
目の前にオッサンがいた。
「あれ?」
てっきり厳かなる神殿とやらで、大勢の前で召喚されているものと思っていた私は、目の前でワイングラス片手にポカンとしてるオッサンに、ポカン返しをした。
胸元をくつろげたシャツに、ワイングラス。何だかとってもリラックスタイムだ。
「えっ?」
ガン見されているので居心地が悪く、身じろぎしたらビクリと椅子が揺れた。
──待て待て待て。
椅子って揺れる? しかもビクッと生きてるみたいに。
そろそろと首を動かし、背後を見上げ──っぎゃあああああ!
人間椅子。
私はどうやら人さまのお膝の上に乗っかっていたらしい。
それも綺麗な綺麗な銀髪のオニーサンに。
「……」
「……」
「……」
お願い、誰か何か言って。
その足から降りろとか降りろとか降りろとか。
驚愕に目を見開く私とオッサンと銀髪美形。
時が止まった。
かといって良い歳をしているお兄さんに、いつまでも乗っかっていて良いものだろうか? いや、良い筈がない。
そうっと尻をズラす。
そうっと、そうっと。
そうして体が落ちると思われた瞬間、ホールドされた。
「っ危ない!」
「わああっ」
どうやら私が自覚なしにその身が落ちると思われたらしい。長い腕が、ボディに絡まる。
更に、沈黙。
オッサンはやっぱりワイングラスを持っていて、私は囚われていて、人間椅子は私を戒めたままで。
何これ、どんな展開? 私勇者設定じゃないの??
混乱も極み。
私は泣いた。