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ヒナゲシの華  作者: 水無月奎
本編
30/90

節分小話

『虐待じゃありません。指導です。教育です。カラダでお勉強ですよ』by,緑のお兄さん

 節分の豆は『魔滅』とも言い、邪気を追い払うためのものだ。

 ──の、筈なのだが。

 避難して距離を置いたヒナゲシは、宙を飛び交う豆と逃げ惑う鬼、ではない存在たちに、同情の視線を向けた。


 きっかけはそろそろ二月かな、と思ったことだったと思う。

 日本ではバレンタインやクリスマスと商売人に乗せられた風習が幾つもある。恵方巻もその一つで、二月になると無言で太巻き一本丸ごと食べたものだ。

 が、この国に海苔や米があるとも思えず、またあったとしても常食しているとは限らず、それなら節分の豆くらいはあるかなぁと思ったのだ。

 考え始めると気になったので、食糧庫を漁らせていただいたところ、大豆を見つける前に落花生を発見した。

 ヒナゲシのいた村では大豆だったが、地方によっては落花生を撒くケースもあるらしい。そんならこれを豆撒きしても良いんではなかろーか。そう思った。


 ──悪気はまったく無かったんだ。


 そう、この時は。





『まめまき? 豆を捨てるですか~?』

 やはり邪気払いに豆を撒く習慣など無いらしく、食糧庫から持ち出した落花生を提示しつつ、日本ではごく当たり前の習慣を語って聞かせた。

「違うよ、これは邪気を追い払い、福を招くためにする儀式なの」

 こうやってね、と適当に落花生を投げながら、『鬼は外、福は内』と声を上げる。

「寺社、は無いか、ええと、教会のような宗教関係ではもっと厳かなんだけど、一般家庭では大体お父さんが鬼の面を被って豆をぶつけられるの」

『なるほど……家長に日頃の鬱憤を晴らすべく豆をぶつけるのですね』

 学者然とした緑の精霊は、ちび精霊の翠と一緒に落花生を見つめている。二言目には日本の風習や慣習は変わっていると呟くものだから、よくこうして話すようになったのだ。

「いや、そんなイジメな話じゃないんだけど」

『イテッ! 虎雄、投げんなよ!』

『こういう風習なんだろ? ほれ、逃げろよ暁月、オニは~外ォ!!』

 説明に窮してるところに、ちび精霊が揉め出す。何で子供はじっとしてないんだろうか……。

 落花生が、やや強めの放物線を描いて暁月を追いかけ回す。虎雄が全力で投げつけているのだ。当たればそりゃ痛いだろう。

「ちょっ、鬼役まだ決めてないのに」

 暁月が可哀想だから止めろ、と私は言いたかったのだ。断じて鬼を決定した末に落花生で虐めろなんて指示していない。のに。

『ふむ……使えるかもしれませんね』

『え』

「ええ?」

 この時、翠の引きつった顔を見て引き返すよう言うべきだった。ごめん、みんな本当にごめん。

 落花生を片手に笑顔満面(背後に仁王像)の親精霊に、私は何も……何も口答えが出来なかった。




 というわけで、冒頭に戻る。

 この世界に“節分”という慣習を持ち込んだ私は、目の前で高速に飛び交う落花生に引きつる。

 逃げられるわけもないスピード。何故か炎を纏う落花生。逃げ惑う顔面蒼白なちびっ子たち。

 ──よもや節分が精霊の鬼畜訓練になるなど、思ってもみなかったのだ。

『ほーらほら、早く逃げないと捕まってしまいますよ』

『魔法使っても良いっつっただろ? 足で敵わないんだったら技で退けろ』

『いざって時に冷静な判断力が無きゃあ生き残れんからな。ま、これも立派な精霊になる為だ。諦めろ』

 まるで軍事訓練のよう。親精霊の情け容赦の無さったら、揃いも揃って鬼軍曹レベルなのだ。……いや。

『うわあああん、こわっ、怖いですぅううう』

『青子、逃げない! あなた一番ヒナゲシと一緒にいるでしょう。守る精霊が背中に庇われてどうするの! 水が一番工夫しやすい魔法なのよ、ほら、魔法を使いなさい! 使うの!』

 ……怖い。

 穏やかなお姉さんが、今や一番容赦なく精霊を追いかけ回していた。

 確かに水は使いやすい魔法だろう、防御にも攻撃にも使えそうだ。が、ちび精霊を追い詰めるのに赤のお兄さんと結託して、熱湯シャワーは……ちょっと……落花生がついでになってるし。


 神聖な存在とされている精霊が、食用豆により四面楚歌になっている。

 オースティン辺りは面白がるだろうが、リリアルさんには通じそうもない。

 ヒナゲシはそっと扉の鍵を閉めたのだった。

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