ロリコンと両ヒナ
トラウマは一つに非ズ。
「ロリコンが多くて死にたくなる」
初めてこの言葉を口にしたのはいつの頃だったか。
私自身のことではない。何故なら私の横には大抵ヒナコという光り輝く可愛子ちゃんがいて、存在そのものを霞ませられてきたからだ。うん、泣いてないったら。
自我が芽生える前から、衆目は私でなく私の横に何故かいるヒナコに注目していた。自覚した後は絶望という名の暗闇へおむすびころりんだったが、性別オスの眼差しは総毛立つほど気色が悪かった。
──なんでアンタは平気なんだ。
常に情欲にまみれて見つめられているはずのヒナコが反応せず、向けられてはいない眼差しに私がびびっている。まるで自意識過剰で男を見ているようで、私のテンションだだ下がりです。
私の存在に気づかず、男どもが話していることがあった。
「あああー……ヒナコたんてば体そのものが甘い饅頭みてぇええ。萌ゆる」
「すっべすべの白い背中や太ももがな! 汚れのないおれの天使たん……いやもうおれの嫁!!」
「断固阻止。ヒナコたんはもれの嫁。清いムスメでありすべてを包み込む母であり淫らなこいびちょ」
ぞわわわわわ。
頭が太もも辺りにきてしまう大の大人たちが、ハァハァと息も荒くマシンガントークを繰り広げていた。
気づけよ。てめぇらの足もとにいるいたいけな子供によぉおおおぉう!
貧血状態に陥った私は、吐いた。大きな栗の木の下で。
村に住む大人たちが、一事が万事、こんな調子だったもので、うっかり好意を寄せた人物の本性を知るたび吐いた。
ダメだ。何かもうこの村超ダメだ。
まともな大人がいない。つーか妻帯者もこんな調子。まともな発言してる野郎も裏ではハァハァ逝ってた。
怖い。怖い怖い怖い。普通な大人って実はいないんじゃねぇの?
この世の人間すべて、ヒナコを認め求める人間しかいなくて、ヒナゲシを求めてくれる人はいないんじゃない?
げろげろと胃の内容物ぜんぶ吐き出した後に、残ったのは厳然とした事実。私にはありがたくない現実。
まだ子供と言って相違ないヒナコ。この先成長すればどんなことになるんだろうか。そしてその時も私は彼女の横に並んでいるのだろうか。同じ名前なのにね、と言われながら。何の罰ゲーム?
ヒナちゃん。ヒナちゃん。
最近では幻聴に怯えるようになった。
近くにいない筈の声が聞こえるんですが、これはあれでしょうか、心の風邪とか何とかいうアレ? 戦士とも勇者とも呼ばわれる企業戦士たちが人間関係に悩みながらレベルアップして得る職業病? あれ、私思ったより追い詰められてる?? まだ十三なんだけど。
最近では逆ハーレムも大規模になってきた。つまりいつでもハフハフしてるオスどもを引き連れて参上する。私の胃がねじ切れる日も近い。
「ロリコンが多くて死にたくなる」
ぽつりと零した本音は切実だ。
頼む、少女ボディに「ッアー!」しない大人がいる世界に私を連れて行って。