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ヒナゲシの華  作者: 水無月奎
本編
27/90

魔法のお勉強

箒には乗りません。

 散歩中に閑職魔導師を見つけたので、魔法について学び始めた。


 ヒナゲシにとって魔法とは、攻撃魔法・防御魔法・回復魔法というあくまでRPGをベースとしたフィクションであるため、それが何故可能なのか、という根本的なものはわかっていない。何となく呪文を唱えれば起こる現象、くらいのもの。それに比べ、こちらで系統立てて学ばれている魔法は正に学問と言え、ヒナゲシは初っ端から躓いた。


「火をおこすのに何が必要か? 無から火は生まれぬ。それ相応のエネルギーと対価を必要とする。魔法も同じじゃな」

 呪文一つ分でそのエネルギーとやらになる訳がないとのこと。まずはそこから学ばされた。

 曰く、魔導師が使う魔法のエネルギーの源。それを掴めるようになるのが第一歩。それを制御出来て第二歩となる。


 そもそもが日本、いや地球上には魔法はあり得ない。人間が直接自然現象を操ることは不可能で、代替の技術として科学がある。

 そんな世界で生まれ育ったので、魔法を使うためのエネルギー、などと言われても「どこに?」という話。体内にあるのは血液と内臓と骨と細胞のみ。ヒナゲシはそれを既に理解している。


「うーん……とりあえず暁月、なんか魔法使ってみてよ」

『それで使えるようになんのか?』

「わからん。何かヒントになればいいな程度」

『適当だな……ほれ』


 ボッ。

 何を唱えるでもなく、指先に炎が出現する。チャッカマンみたいだ。


「どうやって魔法使ったの?」

『意識したことなんてねーよ』

 困ったように語る精霊は、学ぶことすら必要なく魔法を使えるのだとか。何それ羨ましい。


「体内エネルギーって何? 魔法使えるエネルギーってどこにあんの? 心臓? 直腸? まさか胃? 血液中に流れてるとか?」

 さっぱりわかんない。内臓も血液も人間が生きる上必要なもので、それ以上でも以下でもない。


 魔法が使いたいのに固い頭が許容しない。そんなファンタジー成分が自分に息づいてるとも思えないが、先生の言うことにゃ、どうやら私には魔法の適性だけはあるらしい。

「うーん。エネルギー……エネルギー……」

 うろうろ。うろうろうろ。

 考え込みながら、部屋の中を歩き回る。途中で『鬱陶しい』とか邪険に扱われたが、無視だ、無視。


「んー、エネルギー……………………あっ。エネルギー資源?」

 ぴたり。足も止まる。後続の青子も止まって私を見上げる。

「えっと何だっけ、学校で習ったような……石油に石炭、ええと原子力、水力火力、風力……あと何があったっけ。あ、太陽熱に天然ガス?」

『???』

 そうだそうだ、確か学校で習ってたっけ。日頃便利に使ってる電気なんかも原子炉がなきゃ生み出せないわけで。

 お、何か掴みかけた気がする。気がするだけだけど。


「人間を動かすのも物凄いパワーが要るんだ。原子炉のような炉がある」

 血液や内臓じゃない、もっと見えない力みたいなもの。

「あともう少し。何か、こう」

「まるで熊ね」

「…………」

 思考をぶった切ったリリアルさんに、胡乱げな視線を向ける。か細い糸は手を離れてしまった。

「何よ」

「……いいえ」

 言っても無駄である。

 好きでも何でもないのにこの部屋へ日参する気力と無駄な労力は認めるが、居ても嬉しくない程度には迷惑に感じていた。

 早く飽きて頂きたい。


 トントン、と扉が叩かれる。さっとリーゼシアさんが開けて外の人物を招き入れる。

「こんにちは、ヒナゲシ」

「ガートン先生」

 私が個人的にお願いした宮廷魔導師のガートンさんは、老齢のおじいちゃん。なのだが、若者言葉も面白おかしく吸収していく面白い人である。


「……ガートン?」

 ぽつりとリリアルさんが呟いたが、無視。彼女に付き合ってたら日が暮れる。


「先生、今日もよろしくお願いします」

「うむ。勉強ばかりではつまらぬから、今日は実践をお見せしようかの」

 椅子に落ち着いた先生が、指をすいっと動かす。風がヒュウッと吹き、黒髪を舞い上げた。

「これは昨日言ったエネルギーを簡単に現象として表してみたに過ぎんが、魔法の初歩の初歩じゃな」

「え、今のも?」

「簡単じゃぞ。体内に巡る力をそよ風にしたに過ぎん」

 先生、わかりません。

 情けない顔をする子弟を、ガートンは笑い飛ばしてくれる。

「はっはっ、心配せんでも大丈夫じゃろう。ヒナゲシは魔法の素養はあるようだし、いつか絶対使えるようになる」

 自転車に乗るコツを掴むようなものか?

 でも出来ればすぐに使えるようになりたいんだけどな……一応、勇者志望だし。


 話のキリが良いと思ったのか、リーゼシアさんが茶を出してくれた。

「おや、これは?」

「ミルクで煮出したものです。チャイと言うそうですわ」

「私の元いた世界で普通に飲まれてるお茶ですよ。甘いですが、疲れによく効きます」

「ほう」

 お年寄りにしては好奇心が強く、変わった味のものも平気で口にするガートンだ。甘味もいけるクチなので、多分大丈夫なんではと思ってリーゼシアさんにお願いしたのだ。

「ふむ、まろやかな口当たり。優しい甘さじゃな」

「良かった」

 ニッコリと微笑み合う。

 気の合う人とは本当に快いものだ。道端で声をかけて正解だった。


「甘過ぎるわ」

 ……まぁ、ここには毒を巻き散らかす人もいるんですけどね。


「そうだ、明日森林浴に行こうと思うんですけど、先生もご一緒しません?」

「森に?」

「私、まだ城の外に出たことないんですよね。オースティンとクリスに外出したいって言ったら、じゃあお休み取ろうかって」

 正直、国王がそんなスケジュールに余裕あって良いの? って思うが。いい加減外が恋しくなってきたので、スルーさせて頂いた。

『僕たちも行きます』

「ほう、精霊も同行するか。面白そうじゃの」

 自然から生まれたって言ってたから、森なら翠たちも喜ぶと思ったんだよね。案の定喜んでるみたいだし、私も楽しめるし、万々歳。


 ──って思ってたんだ、この時は。


 明日同時刻に大パニックになるとも知らないで。

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