着替えと水色の
まだまだまだ居る。
先の赤いのやら緑のは何だったのか。
きょとんとするリーゼシアさん(私の服を調達してくれたようだ)をよそに、机の下から棚の後ろまで覗き込み、あの小ちゃいのを探してみるのだが、いない。どこにも居なかった。
狸に化かされた気持ちになりつつ、こちらでの普段着を手に取る。住むどころか永住する気満々の私にとって、元の世界で着ていた服を脱ぐことにも躊躇いはない。
幸い、手渡されたのはワンピースだった。ちょっと襟ぐりが詰まっているようだが、長さも膝下であるし、違和感はない。
が、ジッパーというものがないのか、布紐で首の後ろや腰周りを縛るという着衣法らしい。一人で着替えようとして、ものの見事に失敗した。
「ううーん、首紐に集中すれば服が分解し、腰紐に集中すれば上半身部分が手から離れ……複雑なんだなぁ」
「慣れれば何ともありませんわ」
リーゼシアがはらりと解け落ちた腰紐を手に笑っている。生まれた時からこれが定番だとしたら、まるで幼児のような失敗なのかも。うぅ、恥ずかしい。
ここは恥をしのび、手伝ってもらうしかないか。そう、心が決まったところで。
『まず腰紐を先に結ぶですよぅ~』
完全にバラけてしまった布を拾い集める存在が。
『この布と、この布を持つですぅ。それから、こっちの手をこうして……』
ちょこまかとヒナゲシの足回りを移動しながら、水色のつむじを見せている、ソレ。
『手でここを押さえて下さいですぅ~』
しがみつくように小さな手のひらが、布を押さえている。見上げる瞳は、淡い空色。
「……」
ここ、ここ。と示される場所を無言で押さえ、小さな女の子の指示を聞く。
リーゼシアは何故か顔を反らしつつ腰紐を寄越してきた。ちょっと、一緒に現実見て下さいよ、ねぇ。
『ここを縛って……えと、首に届かないので』
「あ、ごめん。こう?」
『ありがとうですぅ~』
「いえ……」
『こうして、こうして、後ろで可愛く結ぶですよ~』
「はい……」
小人が。先ほど一緒にチョコレートを食べた少年と、殴って謝罪していった少年と、激似のナニかが私の首紐をうんしょうんしょと結んでくれてるんだが。
『出来ましたですよぅっ♪』
「あ、ありがと、う?」
えへへと笑顔の少女は全く邪気がない。
2〜3歳児ボディに、瞳孔・白眼のない眼。知性を感じさせる言動に、相変わらず上から下までペンキ一色状態。この子は水色だが。
『とってもお似合いですよぅ~?』
ぱたぱたと手を上げ下げし、その興奮を表している。何か可愛いな!
「えっと……」
小人さんって呼びかけるべき? それともキミとかあなたとか? ってか、この生き物何なの!
苦悩していると、またも聞き覚えのある声が増えた。
『うん、まぁまぁ似合ってんじゃねぇ?』
それは先ほどこの部屋で聴いていた、
「赤い」
『てぇええぇんちゅうううぅぅですぅうううう!!!』
吹っ飛んだ。
水色のに右ストレート食らわされて。
ガタガターンッ!!
と派手な音を立てて、椅子二つが少年と一緒に倒れ込む。後は静寂ばかりだった。
「…………」
水色のは意外に激しいんだね、とか。赤いのは別に痴漢のつもりはないんじゃね? とか。君ら二人とも緑の少年に殴られるんじゃねーの? とか。色々思ったんだが。
とりあえず、私が語るべき台詞はこれじゃないんだろうか。
「君ら一体何なのさ」
UMAじゃないっすよね。
UMA……未確認生物