クリスマス小話
『ヒナゲシの華』、クリスマス小話。
世間的に、クリスマスである。
りんりんりん、しゃんしゃんしゃん。
小さな商店街にもその時は来ていて。
何故かヒナゲシも、今ここにいる。
「え、待って? 私地球出奔したよね? 異世界絶賛謳歌中だよね? これ夢とか言う? むしろ今までが? うわ泣いちゃう、ヒナゲシ超泣いちゃうー」
小説で泣いたので今はご遠慮下さい。
「え、何この脳内アナウンス? 私逝った? 逝っちゃった??」
クリスマスの鬼籍です。あっ、間違った、奇跡です。
「うーわー、ないわ。マジこんな展開望んでない。この後来るだろう厄災に座布団三十枚!」
座る人が落ちますね。
さて、今日はイヴで明日はクリスマスです。
世間ではきっとリア充していて素人小説読んでる人は少数派でしょうが、ヒナゲシのように「クリスマス? 何それ美味しいの?」とばかりにパソコンや携帯やスマホに噛り付いてる人のためにクリスマスの奇跡を起こしてみました! 人為的にね!
「あっ、きっとこの脳内アナウンスは故障してるんですよ! 普段はこんなに毒吐いたりしませんよ! たぶん接触不良起こした機械の不調です!!」
はてさて、ヒナゲシの回想にさんざっぱら出ているヒナコさん。
物語の序盤で彼女の手を振りきって、ヒナゲシが異世界逃亡したために、さっぱり出演の機会を失してしまいました。
「まるで私が悪いみたいだね! 私も全くもって想像してなかったよ! つーか何だこのアナウンス!? 私にフォローさせたりすんな!」
ヒナコちゃんに直接会ったことなんてないもの、悪口なんて言えないわ。むしろヒナゲシさんの心の狭さが問題なのじゃないかしら?
なんて思われてるでしょう皆様のために、わたくし召喚魔法を取得致しました! ヒナゲシをちょっくら地元召喚し、更に今時分クリスマスパーティ盛り上がり最高潮!! なヒナコさんを召喚です!
「ぎゃああああ!? やめっ、やめろぉおおおお!!!!!」
じんぐるべーる♪ じんぐるべーる♪ すっずっがぁーあなるぅー♪ ヘイッ!
ぽむ。
「あっ? あれ? あれ? ええ? ヒナちゃ~ん!?」
ヒナコ召喚☆完了ッ!
「ぐぁあああっ! ムカつく! 超ムカつく!!」
「ヒナちゃん、まだ普段着なの? もうクリスマスパーティ始まってるよ!」
「そして案の定オマエ私が居なくなったこと気づいて無い! 何だ!? その調子じゃ家族の誰一人として気づいてないの!? 悲しすぎるだろこれ! こんなんクリスマスの日に知りたくなかったよ!!」
一話のクールっぷりが見る影ありませんね……あ、違ったツンデレか。プ。
「嗤った! 嗤ったなお前!? クリスマスに苦い思い出しかない私の気持ちがわかんのかテメェエエエ!!!」
「ひ、ヒナちゃんヒナちゃん、何でそんなに興奮してるの? っていうか怒ってる? 怒ってるの?? え……ヒナ、ヒナちゃんのこと、怒らせちゃった?」
「そして相変わらず鈍い! 勝手に凹むわ沈むわ、あんたこれ第三者から見られたら責められんの私なんだからね!? おいアナウンス! 結界張れ! 私このままじゃ殺される!」
え、何言ってるんですかあなた? そんな結界とかアニメや漫画みたいなこと出来るわけないじゃないですか……。
「っテメェエエエ!!! 今さっきやった魔法はスルーか! サンタさんのプレゼントか! 象印のステンレスか!」
やけに怒りっぽいですね。
魔法瓶とかどうでもいいんで、とりあえず『ヒナゲシの華』、宣伝して下さいよ。
「あ、何だそのためにヒナ呼ばれたの? ヒナちゃんヒナちゃん、ヒナちゃんの可愛いとこめいっぱい皆に教えちゃおうよっ!」
「私より可愛いお前に言われてもな……」
「ヒナちゃんもすーっごく! 可愛いよ♪」
「『も』って言ったな?」
「えとえと、皆さんメリークリスマースっ!」
「聞き流した! お前やっぱりその言動わざとだろ?」
「ヒナは、ヒナちゃんの従姉妹で大親友の、ヒナコって言います! 小説の方にはあまり出てないんですけど……ヒナちゃんばっかなんですけど……ヒナコのことも覚えてて欲しいな!(ニコッ☆)」
「(ああ……読者の皆さんもヒナコに取られるのかな。ここ日本だしな。私可愛くないしな)」
あらー、ヒナゲシさんのHPがどんどん削られていってますね。ヒナコさんが隣に並んだ瞬間から、ゴリゴリ削られていってます。あ、赤ゲージ。
ちなみに頭上に何かマークが……髑髏マークみたいなんですけど、何でしょうか?
「(聖夜に死ぬとかシャレになんない。それもヒナコの側で。私ちゃんと埋葬されんの? 魂はあの世界に戻りたい。魔物に殺されてもいいから、あっちの世界で死にたかったよ……)」
しゃんしゃんしゃん。りんりんりん。
「…ん」
「おや、目が覚めたのかな?」
「クリス様、ヒナゲシの肩から毛布がずり落ちてますわ」
「今日はとても寒いから、風邪を引いてしまうかもしれないよ。ブランデーを少し入れてみるかい?」
「まぁ、オースティン様ったら」
頭の片隅で鈴のような何かが鳴り響いてる気がする。
まだ夢心地の気分で目を開けると、クリスの膝上で暖かな布に包まれ、抱きしめられていた。
「……リーゼシアさん?」
「はい、ここに居りますわ」
寝過ぎたのだろうか、瞼が泣いたように腫れぼったい。
その部分に細く冷たい指が触れる。
ああ、と安堵するような吐息が漏れた。
「こわいゆめ、みたかも」
きゅうと縋るように手のひらに甘える。
まぁ、とリーゼシアの優しい手のひらが、ヒナゲシを甘やかすように撫でた。
──あの村は、もう要らない。
実の親だって、血の繋がった兄弟だって、要らない。十年以上いたという元居た歴史だって捨てて良い。
私が今必要とするのは、私に触れてくれる手のひらだけ。
どれだけ薄情と言われようが構わない。
懐かしさなんて、今この心地良さに比べたら、屁でもない。
ここで紙のように儚く散っても構わないとすら思う。
「リーゼシアさん」
「はい」
「私、クリスマスって……嫌いだな」
クリスマス? と訝る声が三つほど聴こえたけれど、それに応える気にはならなかった。
どうせこの世界には、クリスマスなど無いのだから──。