第24話 ドラゴン
まずは腰袋から取り出した治癒薬を飲む。
これは自分で調合した薬だが、傷を癒す効果があることは地上で実験済みである。
一瓶を飲み下すと、ズキズキと痛んでいた腹が落ち着いてきた。
うーん、自分の腕につけた傷を癒す実験で分かってはいたが、とんでもない即効性だ。
完全に癒えたわけではないが、ひとまずダメージの方はこれで大丈夫だろう。
次に、このひどい虚脱感だ。
ドロテア婆さんからもらった滋養薬を取り出し、一息に飲み下す。
自分で調合した薬とは違って、ほのかに甘くて口当たりもまろやかだ。
そして、効果の方もすぐに現れる。
身体の奥底がポカポカと暖かく、もう動きたくないほどひどかった虚脱感がずいぶんマシになった。
婆さんの調薬の腕はさすがだ。
この方面も、もっともっと精進しないとな。
よし、ベストとは行かないが7割方まで体調を回復できたぞ。
あとは探索しながらフルまで戻していこう。
俺は慎重に気配を消しながら、敵の気配を求めて徘徊する。
慢心していたわけではないのだが、さっきは無謀だったかも知れない。
結果的に新しい可能性につながる発見があったが、そもそも戦力の見積もりが甘かったことは否めない。
別に俺は自殺志願者じゃないんだ。
むしろ、これまでの人生の中でも、今が一番生きる希望に満ち溢れている。
もっと凄い闘いがしたいし、もっと深くまで迷宮に潜りたい。
だから、慎重に、気配を殺して行こう。
…またもや、ヤバそうなのがいるしな。
あれは、ドラゴンだよな?
いや、ドラゴンを見たことがあるわけじゃないんだけどさ、でも絶対ドラゴンだよあれ。
濃緑色の巨大なトカゲの身体に、蝙蝠のような翼を備えた体高3mほどの怪物が2体。
槍のように鋭い牙とナイフの様に長大な爪、おとぎ話に出てくるドラゴンそのものの姿が視界にあるのだ。
どうする、仕掛けるか?
体調は、まあ8~9割まで戻ってきている。
危険な迷宮探索をしている以上は、これ以上のコンディションを望んでも仕方ないだろう。
問題はあの魔物の強さがどれくらいなのかだ。
…それこそ闘って確かめてみたいよね。
ダメだな。
結局、我慢するということが出来ない。
せめて撤退ラインを先に決めておこう。
2体のうち、奇襲で1体を即座に仕留める。
そうすれば、1対1に持ち込めるから最悪の危険はかなり減るだろう。
もし、それが出来なければ撤退だ。
俺は迷宮の暗闇に溶け込むように隠れると、速やかに自己暗示に入ってあらゆる生体反応を極低下させる。
亀が這うようなスピードで移動しながら、ゆっくりと濃緑のドラゴンに背後から接近していった。
直線で50mほどの距離を、俺は10分以上をかけてついにドラゴンのすぐそばまでたどり着いた。
2匹のドラゴンはこちらに気づく様子もない。
首を下げて休んでいるので、太刀が届くぞ。
俺は背中の太刀に手をかけ、自己暗示の解除と攻撃発動の同期キューを全身の神経に仕込み、その時を待つ。
3、2、1、今!
「りぃあああ!」
限りなく闇に近い静が破れ、俺は一気に稲妻と化す。
鞘走った太刀が銀の煌めきを空間に残し、断ち切られたドラゴンの首が宙に舞った。
よし、殺った。
このままいくぞ。
「しぃっ!」
もう一匹のドラゴンに駆け寄り太刀を振るうが、ドラゴンの爪をその指ごと数本斬り飛ばしただけで防御された。
ちい、立ち上がられると首に届かん。
しかし先手は取れている。
休まず攻め続けていけば…なんだ!?
突如湧き上がる嫌な予感と共に、うなじが熱を発する。
何が来る? 牙? 爪? いや、ドラゴンの喉が膨らんで。
バウ、と瀑音がしたかと思うと、次の瞬間にはガスの奔流が俺を包んでいた。
とっさに腕で顔を隠して呼吸を止めるが、皮膚がビリビリと悲鳴を上げている。
上手くいったと思ったが、強烈なしっぺ返しを喰らった。
が、しかし好機だ。
ガスを口から吐き出しているドラゴンは、俺のすぐ目の前に顔を晒している。
「ガグッ!?」
俺は太刀を捨てて、短刀をドラゴンの下顎から逆しまに突き立てる。
そのまま短刀を滑らせて、大魚を捌くようにしてドラゴンの喉まで切り裂いた。
「ゲッ、ウッ」
すでにガスの奔流は、そのほとんどがドラゴンの喉の裂け目から噴き出している。
苦痛にのたうつドラゴンを見下ろしながら、俺は太刀を拾い上げて大上段に振り上げた。
肺腑に残った空気を絞り出す。
「つあぁ!」
脳天を断ち割られて、ドラゴンは塵と化した。
どうにかなったか。
ふぅ…、ゴホッ、がはっ!
全身ボロボロにされちまったぞ。
今さらだが、そりゃ相手はドラゴンなんだから、吐息に注意するべきに決まっているじゃないか。
しかもこりゃ、毒だな?
身体にダメージとは別種の痺れを感じる。
毒消しを持ってきてよかったぜ。
本当に、エリカの忠告に感謝しなければ。
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