第21話 地下3階層
地下2階層の一角、石壁に設置された扉に身体を寄せて、俺は内部の気配を窺っている。
気配の内容は人間サイズの生き物、数はおよそ10だ。
これまでの戦闘経験からすると、この気配の組み合わせはあいつらだ。
すなわち、みすぼらしい衣服に身を包んだ短剣男と、聖職者の風体をした男の集団。
俺が初めて魔法の脅威に晒された、因縁の組み合わせである。
よーし、準備の成果を確かめる時が来たな。
俺は腰袋から先の尖った20cmほどの細い鉄棒を取り出す。
これは開幕投擲ラッシュ用の新兵器、棒手裏剣だ。
もちろん、地上の武具を扱う店には存在しなかったので、鍛冶屋に結構な金額を払って特注したのだ。
俺は両手に3本ずつ棒手裏剣を握り、扉を蹴破って室内に突入する。
眼の赤光確認、よし!
予想通りの構成だった集団の後衛に向けて、俺は両手の棒手裏剣を交互に次々と投擲していく。
「ゲッ!?」
「グッ!?」
「ガフ!?」
「オゴッ!?」
4本の棒手裏剣は全て、聖職者風の迷人の顔面を捉えた。
俺は残りの棒手裏剣を手あたり次第に短剣男に投擲すると、両手にいつもの得物を構えて残りを殲滅していく。
ふぅ。
めちゃくちゃ上手くいったぞ。
終わってみると11人いた迷人の集団を全滅させるのに、1分もかからなかった。
特に最初の棒手裏剣投擲は、いくらなんでも上手くいきすぎではないだろうか。
そりゃ、幼いころから必死に練習してきた技術ではあるのだが、ここまでの精度は無かったはずだ。
両手にそれぞれ3本ずつの棒手裏剣を握って、小指と薬指で手元に残す棒手裏剣を抑えながら次々と打ち出していく。
戦国時代のバリバリの忍者でも、ここまでの使い手はいなかったんじゃなかろうか。
まあつまり、ここにもクラスの恩恵が働いているに違いない。
単純な膂力だけでなく、身体を精密に操る感覚も進化している。
…いいぞ、別に何も文句は無い。
これがこの世界のルールなら、その中で行けるところまで行くだけだ。
そして身体の奥底からは、また例の力が湧いて来ている。
これで通算4度目の位階上昇だ。
もし1割ずつの上昇幅だとすると、のべ46.4%もの能力強化である。
こんなのもう別人、いやそろそろ人外の領域に入って来たに違いない。
いいだろう。
この力も全部使って、まだ誰もやったことが無いレベルの闘いをしてやる。
俺はずっと、身の置き所に恵まれた先祖たちに嫉妬の念を抱いて生きてきたんだ。
今度は先祖の誰も到達できなかった高みの闘いに、俺だけが飛び込んでやる。
羨ましいだろう。
ざまあみろ。
地下3階層。
迷宮の空気の質がさらに深まり、俺に興奮をもたらす。
心を静めなければ…、この空気をより長く吸うために。
もっと深く潜るために。
気配に集中すると、視界よりもはるか先まで感知できる。
曲がり角の向こうも、視界に入っている扉の向こうも、敵の有無くらいは分かるのだ。
俺はさっそく敵の気配がする扉に向かう。
中の気配は人間より小さなサイズで、2種類あるな。
片方はあのウサギだろう。
もう片方もせいぜい大型犬くらいのサイズ、微かに聞こえる呼吸音からすると本当に大型犬かも知れん。
動き回っていて数は分かりにくいが、10よりもずっと多い。
獣か…、まあいい。
あのウサギはもちろんのこと、大型犬だって互いに命を懸けて闘うならば強敵だ。
まして魔物であるからには、楽しめるに違いない。
向こうもすでに気づいているな。
臭いだろうか?
俺は奇襲の開幕投擲ラッシュを諦め、初めから両手に長脇差と匕首を構えて室内に踏み入る。
「ガァアアア! ギッ!?」
さっそく飛び掛かって来る大犬の腹を切り裂き、急いで左手方向に駆けだして獣どもの包囲から免れる。
俺の背後からウサギの突撃、見えてはいないが見逃しはしない。
「ギュイ!?」
振り返りもせずにウサギの脳天に匕首を突き立てると、俺は一気に獣どものただ中に飛び込んで剣刃を閃かせる。
「ギャッ!」
「キィー!」
俺の進路を予想して追い立てようとしていた獣どもは、急に飛び込んで来てウサギ2匹を斬り殺した俺に驚いて逃げ散る。
やはり獣には、士気も何も無いな。
イケると思ったら来るし、ヤバいと感じたら退がる。それだけだ。
「しゃあああ!」
俺は闘いの高揚に身を任せて、斬りつけ、突き刺し、身を躱して、蹴りつける。
血は滾っているのだが、魔物の動きは良く見える。
戦意を失い遠巻きにし始めた大犬よりも、俺の隙をうかがっては飛び込んでくるウサギの方が先に全滅した。
ウサギは全部で8匹だったか。
袋小路の室内で逃げようも無い大犬どもも、最後には突っかかって来たが、すでに時を逸している。
一匹残らず斬り捨てると、大犬も丁度8匹だった。
俺はつい両手の得物を血振りするが、そんなことをしなくても表面の血脂は塵となって消えている。
よし、次に行こう。
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