第20話 薬師の店
「婆さん、薬草の刻みは全部終わったぞ」
「おや、もうかい。あんたにやらせると、何でもすぐに終わるね」
そう言いながら釜の薬液を煮立てている魔女、いや薬師は俺の下宿先のポーション店を営む老女、ドロテアである。
俺はエリカの紹介でこの下宿先を見学した後、すぐに契約を決めて漂人局の宿舎を引き払って来た。
早く迷宮探索の許可を得たいというのもあるが、なによりドロテアの稼業が気に入ったのである。
「婆さん、これは滋養薬だな? 牡牛の角と…、蛇草を入れている」
「その通りだよ。はぁ~、見ただけで分かっちまうとはね。あんたを見てると、弟子を探す気が失せちまうよ」
ドロテアは下宿料よりも稼業の補助を求めており、あわよくばそのまま後継者にすることを考えていたようだ。
エリカは新人探索者のために下宿料の安い物件を探してくれたのだが、俺は前回の探索で2000ドゥカートを越える収入を得ている。
この金額なら、下宿せずとも1ヶ月は余裕で宿暮らしができる。
よって経済的には下宿を選択せずともよいのだが、俺はこの世界の薬師の仕事を間近で見ることに興味があった。
そうして、この3日間はドロテアの仕事を手伝うことで、一般的なポーションに関しては全種類の調合を頭に叩き込むことができた。
俺本来の本草学や化学の知識は今ひとつ役に立たないのだが、その分クラスの恩恵による洞察が働くので、ドロテアの許可を得て自分用のポーションを作り始めてもいる。
そんなこんなで、店を継ぐというわけにはいかないが、俺はこの下宿先に満足しているのだ。
「これが出来たら、今週の分はもう十分だよ。エリカには言っといてあげるから、迷宮に行っておいで」
やった。
さすが話の分かる婆さんだ。
「待ちな。これが出来たら持たせてやるから、無理せず戻って来るんだよ」
喜び勇んで出発しようとする俺を引き留めると、ドロテアは目の前の釜を指さした。
ドロテアの滋養薬を貰えるのはありがたいぞ。
まだ俺ではこの領域の薬効には到達できていないんだ。
この婆さんは、見た目は人を獲って喰う魔女そのものだが、根は親切で若者思いの世話焼きである。
2階の部屋はもう一つ空いているので、いい弟子がとれることを俺も祈っておこう。
「お、シュウか。随分ちゃんとした格好になったな」
「ああ、防具を着けないと探索を許可しないと言われたからな」
俺がそう答えると、迷宮入り口の衛士であるウーゴは苦笑した。
今答えた通り、俺はエリカから言い渡された迷宮探索再開の条件である防具類を調達した。
俺は動きが制限される鎧類を着ることには難色を示したのだが、エリカが勧める店を覗くと良いものがあったのである。
今俺が着ているのはいわゆる綿襖甲、ベスト状の厚い衣服の裏地に鋼板が留められた軽鎧だ。
俺はこれを購入した後に急所以外の鋼板を外して、さらに袖に工夫をする等して自分用にカスタマイズした。
最低限の防御力と静音性が両立できる満足の出来である。
さらに頭部には、額と前頭葉を守る蛇腹状の鉢金を締めている。
これならば五感を邪魔しないので許容範囲だ。
全体的に不満の無い防御性と機動性を得られているので、なんでも人の忠告は聞いてみるものである。
なにしろ俺は1対多数の戦闘を繰り返しているのだから、回避しきれない攻撃への備えはあって困ることはないのだ。
迷宮に続く石階段を降りると、一歩ごとに頭が冴えわたっていく。
3日ぶりの感覚に、俺は奮えを抑えるのがやっとの思いだ。
しばらく我慢させられたんだ。
今回は満足するまで潜ってやろう。
それも、もっと深い空気を吸ってやるぞ。
色々と準備もしてきたからな、まずは地下2階層に直行しよう。
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