第17話 魔法
通路の先から接近する集団は、その全員が双眸から赤光を放っているのが見えた。
ふむ、迷人だったか。
みすぼらしい短衣を着て短剣を携えた男ども7人が前衛を形成し、聖職者のようなユッタリとした衣服を着た男3人が後衛、ピッタリ10人だ。
俺は退路を意識しつつ、両手に得物を構えて迷人どもに対峙する。
まずは手前の短剣男どもだ。
「ふっ! はっ!」
「ギャ!?」
「イッ!?」
迷人に囲まれないように一撃離脱を繰り返しながら、俺は短剣男を切り裂き、首を刎ねていく。
短剣男どもはまるで手ごたえがないな、短剣を持っているだけで全くの素人だ。
よし、これなら簡単に…。
「んぐっ!?」
急にはらわたを捻じられたような苦痛が襲う。
なんだ、急病か!? ぐっ、また来た。
…あいつか。
聖職者のような男が俺に向けて錫杖を掲げると、俺の身体の内部に響くような衝撃が襲い来る。
なんだ…? 不可視の攻撃。
超音波? 衝撃波? まさか必中なのか?
短剣男どもを切り裂きながら、俺は聖職者の男どもから目が離せない。
その内の一人が何やらモゴモゴと口を動かした後に、俺に向けて錫杖を掲げる。
させるか!
「グァッ!?」
俺が投擲した短刀が、錫杖を掲げた男の顔面に突き立つ。
残りの短剣男を無視して敵の後列に飛び込んだ俺は、聖職者の男二人の首を一息に刎ねた。
振り返ると、残りの短剣男どもは逃げ腰だ。
もういい、さっさと消えろ。
踵を返して迷宮の闇に溶け込んでいく男どもを見送り、俺は石壁に背をつけると息をついた。
…なんだったんだあれは。
着ている短衣の裾をまくって苦痛のあった腹を見るが、外傷は見当たらない。
猛烈な苦痛はおさまったが、まだジクジクと疼痛を感じる。
まあそうか、魔法だな。
つい頭から消えていたが、よく考えたらこの世界には魔法がある。
迷宮だの魔物だのがあるのに、魔法があることに驚いたって仕方あるまい。
俺が使っている巾着袋や腰袋だって魔法の産物だしな。
今後はああいうのも対策を考えないとな。
うーん、それには装備が不足しているかも知れん。
戦闘可否の判断は、もっと慎重に行おう。
ともかく、ダメージを負ったからもう少し休憩するか。
小一時間の休憩で、腹の疼痛もだいぶ治まってきたぞ。
完全に本調子とは行かないが、まあこの程度のことは今後もいくらでもあるだろう。
ちなみに今は、地下2階層の通路部分で腰を下ろして休息している。
部屋に入ると袋小路なので、通路で魔物の気配を感じたら即移動することで戦闘を避けているのだ。
次に地上に上がった時には、迷宮内での効果的な休息方法についてもエリカに尋ねてみよう。
ところで、戦闘を避けて徘徊してる内に、さらに地下に降りる階段も発見してしまったぞ。
地下1階層から地下2階層に降りただけで、中々の歯ごたえの増え方だったし、地下3階層はもっと楽しめるのではないだろうか?
…いや、分かってるよ。
無謀なことをしてまで、無理やりスリルを味わいたいわけじゃないんだ。
魔法という新たな脅威も現れたことだしな。
地下2階層を探索し尽くすまでに、対魔法戦術を練っていこう。
扉の向こうに複数の気配。
小動物のサイズではないし、腐乱死体の気配とも違うからたぶん迷人だろう。
俺は腰袋から5本の短剣を取り出し、その内1本を右手に握り、残りの4本は左手の指で柄を保持してぶら下げる。
これで準備完了。
俺の開発した対魔法戦術、その名も開幕投擲ラッシュである。
ちなみに短剣は、みすぼらしい短衣を着た短剣男たちからたくさん調達できた。
安物のなまくらだが、切っ先さえついていれば一度きり投げて使う分には問題ない。
よし、行くぞ。
扉を蹴破って室内に乱入すると、鎖帷子を着た戦士が3人、ローブを着た男1人が見えた。
目の赤光確認、よし!
「ギャブ!?」
ローブを着た男の喉元に短剣が突き立つ。
作戦成功である。
後は鎖帷子の戦士だが、せっかくなので距離を取ったまま投擲を続けよう。
俺は次々と右手に短剣を持ち替えては投擲を放つのだが、鎖帷子を着ている上に丸盾も構えた戦士には急所が少なくてイマイチだぞ。
投擲の継続を諦めて、俺は両手の得物をいつもの二刀流に切り替える。
鎖帷子の男たちが寄って来るが、俺は丸盾の死角に身体ごと飛び込んで攪乱する。
「しぃっ!」
逆手に持った短刀を顔面に突き立てると、鎖帷子の男が塵と化していく。
盾の死角に飛び込んだ後は足元の攻撃で引き付けて上から攻撃、またはその逆のパターンも有効だな。
程なく、俺はこの部屋の制圧に成功した。
結局、投擲で仕留められたのは開幕の一人だけだったな。
うーん、この作戦も、もっとブラッシュアップしなければ。
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