第16話 休息と接近
さて、位階上昇と宝箱である。
順に片づけて行こう。
位階上昇についてもエリカから解説を受けている。
この世界の人間は迷宮で魔物との戦いに勝利すると、神の祝福であるクラスの位階が上昇し、さらなる力を得るらしい。
これは俺もすでに3度経験しているから納得するしかないな。
現に今も1割ほどの身体能力の向上を感じているし、それと意識してみると目の前の宝箱に対する罠察知の感覚もさらに鋭くなっていることに気づく。
1割と言うのは俺のおおよその体感だが、もしそうであればこの世界に来てから3回の位階上昇によりのべ33.1%も上昇している計算になるのだ。
こりゃ、あっという間に超人の領域に突入してしまうぞ。
これまで身に着けてきた各種の技法も、それほどの常識外れの身体能力を前提とするならば見直しが必要かもしれない。
まあこれまでの経験上では、今いるような部屋空間ではあらたに魔物と遭遇することはないので、また時間をかけて慣らし運転を行うとしよう。
次に宝箱である。
俺の目の前には例の、代わり映えのしない共通規格を思わせる宝箱が鎮座している。
クラスの感覚がすでに罠の存在をビリビリと伝えてきているが、俺の方でもすでにおおよその見当はついている。
かすかに漂う炭素成分と、特徴的な硫黄の臭い。
木炭ないしは竹炭と硫黄を含む混合物、こりゃ黒色火薬に違いあるまい。
不用意に宝箱を開けると、爆発する仕掛けというわけだな。
毒針の罠と違って、後ろに回って開くだけでは回避できないぞ。
俺は腰袋からピッキングツールを取り出すと、慎重に鍵穴の中を検索する。
毒針の罠の時もそうだったのだが、中身の取り出しを考慮しないような嵌め殺しの罠ではない。
つまり、正規の鍵を使用すれば開錠と罠の解除が同時にできる構造になっているわけだ。
それで鍵の構造が単純なウォード鍵なわけだから、どれほど強力で致命的な罠が用いられていても事実上意味がないというね。
…ちょっとこの世界のセキュリティポリシーがよく分からない。
まあ、いいか。
俺にとって有利な事象は、なんでも受け入れて行こう。
カチャリ、と音を立てて開いた宝箱の中には、やはり爆弾と着火用のフリント構造が仕込まれていた。
これも戦利品としていただきたいところなのだが、どういうわけか宝箱とその罠は俺が内容物を取り出すと、魔物と同様に塵と化して消えてしまう。
これも深くは考えるまい。
宝箱の内容物の硬貨を巾着袋に納めると、俺は身体能力を馴染ませる鍛錬を開始した。
俺は鍛錬を終えたのち、水と食料を取り出して休憩を行うことにした。
無補給での迷宮探索は無謀だと散々叱責を受けたし、体調を崩してしまっては元も子もないからな。
さすがに迷宮内で眠りはしないが、複数人数での探索を行う者たちはそういう選択肢もあるのだろうか。
まあ、その辺もおいおい考慮し…、足音だ。
俺が侵入してきた扉に耳を当てると、靴を履いた複数人の集団による歩行音がハッキリと聞こえる。
…数が多いぞ、10人前後だ。
さてどうするか。
一番いいのは、いきなり扉を蹴破って奇襲をしかけることだ。
集団に乱入することで、相手が同士討ちを恐れてくれれば有利に立ち回れる。
しかし問題は、相手の素性がハッキリしないことである。
同業の迷宮探索者かもしれないし、迷宮の魔物である迷人の集団かも知れない。
このまま部屋の中にいては、踏み込まれたときに逃げ場が無くて不利に陥ってしまう。
よし、こうなれば奇襲は諦めて今すぐ飛び出そう。
もし迷宮探索者であればお互いを認識して事は済むし、迷人の集団であれば退路を確保しながら戦うことができる。
いくぞ。
俺は食料や水袋を素早く仕舞うと、扉を開けて通路に躍り出た。
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