第15話 兎
手に取った長脇差を軽く振ってみる。
別段、業物ではないが、これまで使っていた曲刀よりも重心が手元に近くて扱いやすい。
押し切るような刃ではなく、引き切ることが出来る鋭利な刃もいい感じだ。
金属の照りを見るに、数打ちとは言え玉鋼が使われていることも見て取れる。
こりゃ、悪くない。
それにしても、いかにもステレオタイプな忍者刀という感じだな、別にこれが忍者の標準装備というわけではないと思うが。
まあ確かに、俺の実家の道場にもこのタイプの刀はあったけどさ。
短刀は鍔の無いいわゆる匕首で、こちらも数打ち品だが悪くない。
これまでは左手にも大脇差サイズの直剣を使っていたが、俺の技法は本来このくらいの長さの得物を使うことが前提なんだ。
この世界に来てから著しく膂力が上がっているので、これまでの直剣でも対応できないことは無いのだが、いちいち剣の重さやバランスを考慮して修正しなくてはならなかった。
忍者の魔物の得物をまるっといただく形になるが、これまでで一番シックリくる装備になったぞ。
これまで使っていた曲刀も一応、予備の武器として背中に担いでおこう。
よし、次だ。
冷たい石畳の床を俺はそろりそろりと移動し、曲がり角については隠れて気配を伺う。
どうやら魔物の出現傾向も地下1階層と変わりないようだな。
通路を徘徊する魔物もそれなりにいるのだが、一番多いパターンは時折ある扉を開けて部屋に踏み入ると、魔物の一団が待ち受けているパターンなのだ。
そのことに期待して、目の前の扉を開いてみよう。
俺は慎重に扉を調べるが、不思議とこれまでに迷宮の扉に罠が仕掛けられていた例は無かった。
とはいえ油断はできないので、都度調べるのをやめるつもりはないが。
扉の向こうに複数の気配があるな。
小さな気配だが、移動する音は四足の生き物だ。
俺は両手に得物を構えると、意を決して扉を蹴破って一気に侵入する。
部屋の中にいる魔物は…、ウサギ?
白い毛並みにピンと立った耳、赤くて円らな瞳をした生き物は、ヨーロッパ種のウサギに見える。
こんなのも魔物なのか、可愛らしい小動物にしか見え…いや、これは。
後ろ足でピョコピョコと跳ねて俺を半包囲しようとするウサギの集団は5匹。
その1匹1匹から巧妙に隠された殺気と、うなじをチリチリさせる危険信号が伝わって来る。
どうやらさっきの忍者より、このウサギどもの方がよほど手練れらしい。
俺は半包囲が完成する前に仕掛ける。
「ふっ!」
「キュイ!?」
左端の1匹を長脇差で斬り下げると、あっさりと塵と化した。
こいつらは見た目通り耐久力は大したことが無さそうだな。
ではこの危機感は、こいつらの攻撃力由来の物に違いあるまい。
一気に行こう。
俺は左右の剣刃を閃かせ、ウサギどもを次々と刈り取っていく。
4匹目のウサギが飛び跳ねて離脱しようとしたところを、跳ねる方向を読んで追走して匕首をその胸に突き立てる。
あと1匹…、しまった!
視界の端に捉えていたはずの存在が見えなくなっている。
その瞬間、ぞわりとおぞけたつような戦慄が身体を貫く。
反射的に屈んだ俺の頭上を、猛烈な勢いでウサギが通過していく。
俺の首筋を狙った軌道だったか、急所を狙うのはさすが野生動物だな。
いや、迷宮のウサギが野生動物と同じ習性なのかは知らんが。
屈んだ姿勢のまま、俺はウサギの着地点に向けて匕首を投擲する。
「ギャッ!」
ドンピシャで着地刈りが決まって、ウサギの胴に匕首が突き刺さった。
塵と化していくウサギを見ながら、俺はにわかに噴き出して来た冷や汗を認識していた。
ふぅ。
可愛らしい見た目によらず、恐ろしいやつらだったな。
明確に攻撃を受け止めたわけではないのだが、殺気を抑えての俺の意識外からの一撃は、これまでで一番危なかった。
…いやぁ、いいぞ。
次も期待できる。
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