第14話 地下2階層
「ふっ!」
右薙ぎで振り切られた曲刀が豚の魔物の首を刎ねる。
余勢を駆ってもう一回転した俺は、二匹目の豚の魔物の両脚を膝下で断ち切り、崩れ落ちる怪物のうなじに左手の直剣を突き立てた。
またたく間に二匹を仕留めると、残る3匹の魔物は狼狽し、戦意を喪失してしまった。
こいつらでは張り合いがないな。
背を向けて逃げ出す魔物に興味を失った俺は、次の階層に進むことを決めた。
前回の探索で、すでに下層に進む階段は発見している。
肩慣らしも済ませ、今回は水や食料も用意している。
思いとどまる理由は…、エリカに当面は1階層で活動を行うことを厳命されたことを除けば、特にない。
…いいよね?
だって、大事じゃん。張り合い。
よし、反対者なしで全会一致だ。
行こう。
石造りの階段を降ると、一歩ごとに空気が濃密になっていくような錯覚を覚える。
一呼吸ごとに、最高の瞑想体験をしているかのような、己の生をこれまでよりも深く、感動的なまでに愛おしく感じる。
この迷宮はいったいどこまで続くのだろうか?
俺はどこまで行けるだろうか。
…少し落ち着こう。
ひとつ深呼吸をして俺は冷静さを取り戻すと、地下2階層の石畳を踏みしめた。
見える景色は、地下1階層と変わりはない石畳と石壁の風景だ。
そして、俺を歓迎してくれるお出迎え。
「ア゛…ウ」
うん、歩く腐乱死体だな。
すでに歩く骸骨の化け物を経験済みだから、俺も驚かないぞ。
石畳にズルズルと腐液の跡をつけながら、緩慢な動きで腐乱死体が4体こちらをめざして近づいて来る。
見た目にはトラウマ物の迫力だが、このスピード感では脅威は感じないな。
とはいえ油断は禁物だ。
俺は曲刀の鞘を払って、腐乱死体の化け物に注意深く近づく。
「…グァ!」
「しっ!」
間合いに入った途端に、急に勢いを増して飛び掛かって来た腐乱死体の首を刎ねる。
なおも足を止めずに掴みかかって来る腐乱死体を、俺は十分に予期していたので体を開いて躱した。
だって首を刎ねたって動きが止まる保証ないよね。
すでに死んでるんだから。
俺は腐乱死体の急加速に注意しながら、危なげなく4体をバラバラに切り刻んでいく。
おおむね体の半分くらいを切り離されると、塵になって消えるようだ。
こりゃ、初めから首じゃなくて胴体を狙うべきだな。
一人反省会を開催しながら石畳に転がる魔石を拾い集めると、その大きさが一回り大きいことに気づく。
これが魔石の等級と言うやつだろうか?
4体の腐乱死体が全て塵になって消えると、先ほどまで立ち込めていた饐えた臭いも落ち着いてきた。
もしこの階層の魔物がこいつらばかりだとすると、さすがに気が滅入るな。
いや、違うのも出てきたぞ。
たいした歓迎っぷりじゃないか。
通路の曲がり角から姿を現したのは…、これ忍者だよね。
濃紺色の着物に袴、脚には脚絆と草履で、顔を覆面で隠している。
後ろ腰に差した長脇差は推定一尺八寸、反りを持たない真っすぐな直刀だ。
え、忍者? なんで忍者がこの世界に? いや俺もそうか。
しかしステレオタイプな恰好の忍者だなこいつ。
多分だけど、俺のご先祖様はこういう格好をしていなかったと思うけどなぁ。
忍者の瞳からは赤光が漏れ出して、俺をギラギラとねめつける。
この殺気は間違いようもなく、敵だな。
彼らは迷人と呼ばれる存在で、エリカによると迷宮が生み出す魔物の一種と考えられているらしい。
じゃあ、闘っていいよね。
俺が両手の得物を構えると、奇しくも忍者もその両手に得物を構える。
奴は右手に長脇差を順手、左手に短刀を逆手に持っている。
本当にステレオタイプな装備をしてるな、まあでも、よさそうな相手だ。
俺と忍者は、ジリジリとお互いの距離を詰める。
いつ仕掛けて来るか、投げ物で来るかもしれんぞ。
静寂が支配する空間で、お互いの距離はもう一足の間だ。
奴から漏れ出す殺気が揺らぐ。
刹那、剣刃が閃く。
攻撃を起さんと一瞬こわばった奴の硬直を俺は逃さず、曲刀の右薙ぎがその首を刎ね飛ばした。
ふぅ。
あんなに殺気を駄々洩れにしているもんだから、簡単に先の先を捉えることができたな。
良さそうな相手だと思ったが、未熟な相手だったようだ。
うん、まあでも、悪くはない。
もっと、こういうのでいいんだ。
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