36 魔鳥の巣
港の人々に案内された登山道というより、ほとんど獣道!!
を、私たちは進んでいく。
先頭を歩くレオンさんは、私が転ばないようにと常に手を引いてくれて、歩きやすいように前方の邪魔な木の枝を剣で丁寧に切り払いながら進んでくれた。
「ほら、ユフィ。段差があるぞ、気をつけて足を下ろせ。少し休むか? 水は飲むか?」
「まだ登り始めて十分しか経ってませんよ……!」
王宮の外に出たことでタガが外れたのか、レオンさんの過保護っぷりはとどまることを知らない。
ポケットの中のシロも「きゅっ」と応援するように鳴いている。
(ただのお仕事のつもりが、なんだかすごい大冒険になってきちゃったな……)
息を切らしながらも、レオンさんに手を引かれて登る山道は、不思議と辛くはなかった。
木々の隙間から見下ろす青い海は絶景で、振り返ればいつでも、私を気遣う翡翠の瞳が優しく見守ってくれている。
険しい獣道を登ること数時間。
私たちはついに、岩山の頂上付近にある巨大な『輝煌鳥』の巣へと辿り着いた。
「あれです、レオンさん! 巣の中心に、灯台の反射鏡の破片があります!」
大木の枝と泥で組まれたすり鉢状の巣の中には、カラスのように黒く巨大な魔鳥が数羽、目を光らせていた。
その足元でキラキラと光っているのは、間違いなくルナポルトの灯台の欠片だ。
「キシャアアアアッ!!」
自分たちのコレクション(お宝)を狙う外敵の侵入に気づいたのか、魔鳥たちが一斉に翼を広げて威嚇の声を上げた。
鋭い嘴と、刃物のような爪。まともに喰らえば、人間の骨など簡単に砕かれてしまいそうだ。
「ユフィ、俺の背後から離れるな。一瞬で終わらせる」
レオンさんがスッと腰の剣を抜き放ち、地を這うような冷気を纏う。
私は彼の戦いの邪魔にならないよう、「はいっ」と返事をして大きく後ろへ下がった。
その時だった。
――ガラッ。
「え?」
私が足を踏み出した瞬間。
もろくなっていた崖の端の岩肌が、私の体重に耐えきれずにあっさりと崩落した。
足元の地面がふっと消え、体がふわりと宙に浮く。
「……あ」
「ユフィッ!!?」
レオンさんの悲痛な叫び声が響いたのを最後に、私は岩山の頂上から、ぱっくりと口を開けた崖下の亀裂へと真っ逆さまに落ちていった。
★
――どれくらい落ちただろうか。
「……いでで」
私はゆっくりと身を起こし、自分の体をペタペタと触って確認した。
どうやら、骨も折れていないし、怪我もない。
落下する瞬間、ポケットの中にいたシロが瞬時に巨大化し、トランポリンのようなスライムのクッションになって私を受け止めてくれたのだ。
「ありがとう、シロ。助かったわ」
「きゅむっ」
元の手のひらサイズに戻ったシロを撫でながら、私は周囲を見回した。
落ちた先は、崖の内部にある薄暗い洞窟。
そこへ、上空から凄まじい吹雪の音と、魔鳥たちの悲鳴が聞こえたかと思うと――。
ドサァァァンッ!!
猛烈な勢いで、上からレオンさんが飛び降りてきた。
完全に血の気が引いた顔をして、瞳には絶望と殺意が入り混じったような、恐ろしいほどの魔力を滾らせている。
おそらく、魔鳥の群れを文字通り一瞬で氷漬けにして粉砕し、後先考えずに私を追って飛び降りてきたのだ。
「ユフィ!! ユフィ、どこだ!? 怪我は、無事か……ッ!!」
暗闇の中で悲痛な声を上げる彼に、私はパタパタと手を振った。
「あ、レオンさん! こっちです、私なら無事ですよー!」
「ユフィ……!」
私の声を聞いた瞬間、レオンさんは弾かれたように駆け寄り、私の体を力任せにギュッと抱きしめた。
その体は、信じられないほど震えている。
「よかった……っ。もしお前を失ったら、俺は世界を呪い尽くすところだった……」
「息、息がっ……苦しいです。シロがクッションになってくれたので、かすり傷一つないですから。それよりも、レオンさん! 見てくださいこれ!」
「お前が無事なら他には何も……いや、なんだこれは」
ようやく私を解放したレオンさんが、私の指さす方を見て目を丸くした。
洞窟の奥。
岩の隙間から差し込むわずかな光に照らされて、そこは尋常ではないほどキラキラと輝いていた。
「金貨です! 宝石もあります! たぶんこれ、歴代の輝煌鳥たちが長い事かけて、あちこちから集めてきた『お宝の山』ですよ!!」
そこには、港の商船から落ちたと思われる古びた金貨や、豪奢な宝飾品の数々が、文字通り山のように積み上がっていたのだ。
「見てくださいこの純金の杯! こっちの首飾りなんて、ものすごく価値がありそうです! 出張手当どころの騒ぎじゃありませんよ、大発見です!!」
両手に金貨と宝石をすくい上げ、満面の笑みで歓喜する私。
それを見たレオンさんは、安堵で腰を抜かしそうになっていた自分と、ピンピンして財宝の計算を始めている恋人との温度差に、深い深い溜め息を吐いている。
「……お前という奴は。心臓がいくつあっても足りない」
「あ、鏡の破片もちゃんと確保しました! これで灯台も直せますし、お宝も回収できるし、まさに一石二鳥です」
私がにへらと笑うと、レオンさんは呆れたように眉を下げた後、優しく私の額にコツンと自分の額をぶつけてきた。
「無事でよかった。だが、もう二度と俺の目の届かないところへは行くな」
「はい、気をつけます。……あ、レオンさんのマント貸してもらえませんか? 入れる袋無くって……」
氷の狂犬のお説教は、きらびやかな財宝を前にした私の現金な頼み事によって、あっさりと遮られた。




