エジンバラからロンドンへ
いま、私はイギリス北部エジンバラの駅からHS2のピカピカの車両Spicaに乗り、ロンドンへの旅を始めた。
先日までは、地べたを走るAzumaに乗っていたが、時速200kmが最大なので約4時間半かかる。日立レール製Azumaが東海岸を走り出したのは2019年だ。当時のエリザベス女王が臨席されたとか、資料には書いてあったっけ。
飛行機のほうが高速だと思われるが、搭乗待ち時間や空港からの連絡を考えると、そんなに差が出ない。それに、鉄道のほうがエコだと誰かが公言しているし。
このイギリスでは、鉄道は先駆者だったし、爺さんも鉄道員だった。
この車両は日立レールのイタリア工場で作られている。ゆくゆくは、イギリスのニュートン・エイクリフ工場で組み立て、点検が行われるだろう。AzumaのようなClass800系がそうであるように。
2040年
2031年に、規模が縮小されたHS2の専用線は完成した。2020年に工事が始まって数年後、工事費が巨額になるという理由でバーミンガムより北方への路線が切り捨てられたのだ。しかし、なんというか、鉄道会社の目論見通り、乗換駅周辺の発展はすさまじく、地方都市の人口が急速に増え、経済が活性化したのだ。
延長工事の中で、エジンバラが一番最初に開通した。といってもほぼ10年かかったのだけれど。
延長工事が可能になった理由は、そう、長期にわたるウクライナの戦争が終結したからだ。軍事費をGDPの5%にしていたのを3%まで下げたのが大きいし、内政に国民の目が向いたからだ。
HS2の工事は遅れたし、費用も膨らみ、社長は何度か交代させられた。しかし、広報は、地元民や国民への進捗状況のアピールは積極的に行っていた。
環境負荷を減らすように路線は決められ、半地下のトンネルがたくさん掘られた。埋め戻されたところには、地元の植生が再現されている。
工事の工法もEUを始め、いろいろなアイデアが実際に実施された。多くは、工場で様々な形状のコンクリート・ブロックを作り、現地で張り合わせていくというのが多かった。
乗り心地はいいなー
HS2の車両は2025年にモックアップが作られ、2026年には実機が動くようになった。たくさんの人が試乗をして乗りごごちを確かめたので、不評だったClass800よりは快適になったはず。
製造は、日立レールが2024年に買収したイタリアの元アンサルドブレダ社車両製造工場で行っている。一部組み立てはイギリス工場でもできるようだ。
アンサルドブレダ社の製造会社はひどかった。納期が1年遅延は当たりまえで、それが日常化していた。日立の笠戸事業所製造部が総点検したら、なんと、あるプレス工程に1か月かかっていた。理由は作業が大変で、ちょっとずつやっているからだと。
早速日本から、その工程に特化した自動プレス機を持ち込んで1週間、3日で終える工程になってしまった。
新幹線で培ったアルミボディーは、笠戸事業所から持ち込みをしている。軽量化により、高速鉄道には最適な素材だ。車輪やモータは日本から持って行っているが、ブレーキはドイツのクノールブレムゼ製を使っている。実績優先。重機部門は最近まで採用していなかったが、センサ類を活用し、故障の予兆診断などに生かす制御装置を積極的に利用し始めている。
終点が近づく
イギリスは北海道と同じくらい北になるが、近くを暖流が流れている。日本のような森林は少なく、背の低い草原が多い。とはいえ、金融の地であるロンドン付近は、古い家を改造・建て替えができないので、妙に立て込んでいる。
HS2の最初の路線が通じた直後、日本の新幹線通勤と同じ現象が起こった。1時間通勤圏内で、快適な新築マンションに住めるのだ。
オールド・オーク・コモン駅は、大規模なターミナルが作られた駅だ。なぜか、工事中は、整理整頓が行われたうえ、白っぽいコンクリの両端には赤い目印があって、ドローンの撮影では見栄えがした。
ロンドン中心のパディントン駅から西部へ向かうグレート・ウェスタン本線の乗換駅にもなっている。パディントン駅は地下鉄への乗り換えでいつも混雑している。
乗車時間は約3時間。時速340kmで走っている区間が大半だった。
百年は維持できるとして工事が行われたHS2。これからの沿線の発展も楽しみだ。旅行代理店をしている私にとって、エジンバラにたくさんのお客を受け入れる未来は明るい。