雨を恐れない子供
空が晴れた。作物の露に太陽が眩しく照らし、虹をかけた。
雨の直後、吹く風の中に揺れる成人の高さを持つ作物のそばに町がある。街は人の住む痕跡のある平屋が何軒も建てられているのだが、昼間の騒がしいイメージと違い静まり返った。
よく見れば平屋は現代的な見た目でありながら、どれも砂時計の形をした、高さ三メートルほどの機械を曲がり角に置かれている。さっきまで降っていた雨がストローのような水道に誘導されぽつんぽつんと屋根から機械の中に落ちる。
一時間……二時間……秒数を数えるような水の滴る音がする。
暫くするとようやく人々は雨靴を着用して家から出てきた。多くの人間は生活必需品を補充するために店へ向かい、農夫達は顔にまで隠す防水コートを着て、濡れた家畜の背中を拭いそれに乗って作業を再開する。
ぎゃあぎゃあとどこから赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。声は広大な農園にあるせいか、近付くまで気付けることもなかった、一人の男は疑問を抱きながら声を探す。彼が歩けば泥から溢れ出す水溜まりが足を埋める高さまで上る。
熟成した作物を手で退けながら進めば進むほど声が大きく、やがて一枚の布に包まれながらも泥塗れの赤ん坊を見つける。男は息を吞んだ。
「ありえん……雨の中で生き残ったというのか……!」
曇りは天からの殺害予告だ。
世界を汚染し尽くした人類だけを絶滅させると言わんばかりに、浴びるだけで皮膚が腐れ、骨まで浸食する雨が降る。
天に祈りを捧げることは非効率だ。生贄は死体を増やすだけだ。天に届く兵器なんて効きやしない。
国は抵抗することを諦め、受け入れる道を選んだ。王が直々に発布する法令は、雨を研究することと、雨から生き残る技術を発明することへ資源と人材を回すことだった。
街にオブジェのような機械はその一つ、雨を飲用水に濾過するマシンであった。
殺人雨、というこの現象に最も相応しい名前を付けられた。
この話は、雨を恐れない子供を見つけるから始まる。