第8話
朝。
主人公は焚き火の灰を崩しながら、手をかざしてウィンドウを開いた。
【国家運営パネル】
【国家名:ゆら】
【本日の支給ポイント:+2pt】
【現在の国家ポイント:5pt】
食料も水も切れていた。
躊躇なく選択を開いて、いつも通りの組み合わせを選ぶ。
【干し肉(1pt)×2】
【保存水(1pt)×2】
【使用ポイント:4pt】
【残ポイント:1pt】
数秒ののち、足元に干し肉と袋入りの水がふわりと現れる。
火のそばに並べて袋を破っていると、布の下でユノが身を起こした。
「おはよう」
「……ん。ありがと」
短くそう言って、ユノは手を洗うような仕草で顔を拭い、そのまま主人公の隣に腰を下ろす。
二人で、朝の干し肉と水を静かに口にした。
味はないけれど、何も食べずに戦いに向かわせる気にはなれなかった。
「今日も行くのか?」
「うん。ロルドの東、丘の向こうにあった入り口。地下に通じてる可能性がある。建物の跡じゃない、作られたものだった」
「危険そうか?」
「多分。昨日みたいなモンスターとは違う。静かで……隠れてる気配」
ユノは、簡単に荷物を整えると、袋の中に昨日の地図を滑り込ませる。
「行ってくる」
そう言って、軽くうなずいてから、扉の外へ消えていった。
主人公は、立ち上がりかけた足を止める。
(自分も探索に出るべきなんじゃないか)
そう思ったが、脳裏に別の考えが浮かんだ。
もし、王である自分が倒れたら、その瞬間この国が終わる可能性もある。
そして、今の自分は戦えない。ただの足手まといだ。
彼女のように、先に進むことも守ることも、今はできない。
主人公はそっと火のそばに腰を下ろし、手のひらで焚き火の熱を感じながら、ウィンドウを閉じた。
丘の上。
ユノは、昨日確認した場所へ慎重に足を運んでいた。
草に覆われかけた入口、崩れた石造りの構造。
そしてその奥に、風が流れていく穴のような口。
「やっぱり通路……地下」
空気は動いている。
ただの崩れた廃墟ではない。生きた道。
中に何かがいる――そう直感でわかった。
ユノはその場を離れ、すぐに引き返した。
そのころ、主人公のウィンドウに通知が表示された。
【ユノが未発見エリアで地下構造の入り口を発見しました。他国やダンジョン等の可能性があります。】
主人公は思わず、唇を引き結んだ。
他国。
今のところ会ったことはないけれど、自分たちだけが生きているという保証はない。
国の外に“何か”がある――その現実を、否応なしに突きつけられる通知だった。
夕方。
扉がわずかにきしむ音と共に、ユノが戻ってきた。
服の汚れは目立たないが、目にわずかに緊張が残っている。
「中に通路があった。崩れてたけど、風が通ってる。
たぶん、今もどこかとつながってる。……動いてる気配がした」
ユノは火の前に座り、手を前に出して温める。
「明日、もう少し奥まで入ってみる。
ここがただの遺跡ならいいけど……国として無視できない場所だと思う」
主人公はうなずいた。
(この国はまだ小さい。けれど、確かに広がっている)
火の光の向こうで、ユノの背が静かに揺れていた。