第7話
夜。
焚き火の煙が、崩れかけた壁の隙間から静かに抜けていく。
主人公とユノが今暮らしているのは、ロルドの集落跡に残された石造りの倉庫のような建物だ。
屋根の半分は崩れ、壁も割れているが、風と雨をしのげる場所はここしかなかった。
床は冷たく、角に転がる破片もそのまま。でも、火を焚けて、背を預けられる壁がある。それだけで、ここは“拠点”だった。
ユノは火のそばで、灰のついた足を布で拭いていた。
靴を脱いだまま、黙って火を見つめている。
「さっき……ちょっと変だった」
ぽつりと、ユノがつぶやいた。
「動きが、いつもよりうまくいった。なんとなく……身体の方が先に反応した感じ」
「レベルが上がったから、かもしれない」
主人公はそう言って、今日表示された通知を思い出す。
【国民「ユノ」がグールを討伐しました】
【経験値:+12】
【レベル:4 → 5】
【討伐ポイント:+3pt】
【現在の国家ポイント:3pt】
「グールを倒した時に、経験値とポイントが入ってた。
この世界、どうやら戦った分だけ“国家としての力”になるっぽい」
ユノは火を見たまま、軽く首を傾けた。
「仕組みとしては悪くない。でも……気持ち悪い。成長すら、誰かに測られてる感じがする」
「うん、俺も思った。
この“ゆら”って国、自由に生きてるようで、どこかで全部見られてる気がする」
言いながら、主人公は倉庫の天井を見上げた。
星も月も見えない空。
崩れた屋根の隙間から、風がゆっくりと入ってくる。
ユノは少し黙ってから、布袋を開いて地図を取り出す。
「ロルドの東の奥、丘の影になってたけど……なんか建物の跡っぽいのが見えた。明日はそこを見に行く」
「また危険そう?」
「かもね。ああいう場所には、オークとか潜んでることがある。グールよりは厄介」
ユノは地図を折りたたみ、また袋へと戻した。
主人公は再びウィンドウを開く。
【国家ポイント:3pt】
【国家規模ランク:G】
倉庫跡の隅に身を寄せ、火の揺らぎをぼんやりと眺めながら、主人公は思う。
たった二人の国。
それでも、たしかに今はここが“始まりの地”だった。