第6話
朝。
主人公は床に手をついて体を起こすと、ゆっくり手を前にかざした。
ふわりと浮かぶ半透明のウィンドウ。昨日まではなかった表示が追加されている。
【国家運営パネル】
【国家名:ゆら】
【本日の支給ポイント:+2pt】
【現在の国家ポイント:4pt】
(初日:2pt/本日:2pt)
「ポイント……?」
画面をなぞると、詳細が開く。
【国家規模ランク:G】
※国家の広さ・人口・強さに応じて決定される国の等級。
S〜Gの7段階で、ランクが上がると支給ポイントが増加します。
現在は国民2名、領地1つ、活動記録は微小。
それでも、何もないよりはずっといい。
「国って言われても、こんな規模で……」
そうつぶやきつつ、表示された選択肢に目を通す。
【利用可能資源】
・干し肉(1pt)
・保存水(1pt)
【購入内容】
・干し肉×2
・保存水×2
【消費ポイント:4pt】
【残ポイント:0pt】
選択を確定すると、足元に干し肉と水の袋がふわりと現れた。
包装を破って噛みつく。
硬く、淡白で、味はない。水で流し込むと胃が重くなる。
それでも、命をつなぐには十分だった。
布の影で動く気配。
少女が身を起こし、静かに辺りを見回す。
「昨日のロルドの東、道が続いてた。焼けてたけど、通れると思う」
そう言って、昨日拾った地図を取り出す。
「モンスターが出るかも。グールとか。地中に潜ってることがあるから、足元に注意して」
淡々としたその言い方に、主人公は少しうなずく。
「気をつけてな」
少女は荷を整えると、布袋の中に地図を滑り込ませ、すぐに出発した。
主人公は扉が閉まるまで、その背中を見送っていた。
⸻
焼け跡。
少女は崩れた地形を見下ろしながら、灰を踏みしめて進んでいた。
「気配……いる」
その瞬間、地面が動く。灰の中から現れるのは、黒ずんだ腕と濁った目。
グールが、這うように突進してくる。
すぐに火打石を取り、小瓶の油に火を灯して投げつけた。
肩が燃え、グールがもがく。
少女は鉄片で足を崩し、頭を地面に叩きつける。
動きが止まった。
⸻
その頃、村に残っていた主人公の前に通知が現れる。
【国民「ユノ」がグールを討伐しました】
【経験値:+12】
【レベル:4 → 5】
【討伐ポイント:+3pt】
【現在の国家ポイント:3pt】
「……ちゃんと戦ってるんだな」
主人公はそっとウィンドウを閉じた。
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夕方。
少女が戻ってきた。服には灰と焦げが残っているが、怪我はない。
「焼け跡にグール。1体だけ。火が効いた。反応は遅いけど、潜ってるとわかりづらい」
「ありがとう。無事でよかった」
少し沈黙が流れたあと、主人公がふと思い出したように言う。
「そういえば、名前……まだ聞いてなかったな」
少女は火を見つめたまま、小さく答える。
「ユノ」
それだけだった。
だが、それだけでこの国がほんの少し、“形”を持ったように思えた。