5話
夕方。
地図は更新されたまま、半透明の状態で視界の端に残っている。
主人公は、ぼんやりとその地図を眺めていた。
“ゆら”の国境線が、静かに広がったのはたしかな実感としてある。
だが、それ以上の変化は──
地図の右下隅。
目立たない位置に、小さな赤い点が現れた。
その瞬間、視界にウィンドウが重なる。
【国家反応:確認】
【表示名:グレイファルド】
【座標:遠隔】
「……他の国?」
目を細めて見る。
地図には、うっすらと山並みと谷の地形、その中央に赤い点と、くすんだ金文字の名前が表示されている。
【グレイファルド(通信不能)】
少女が後ろから覗き込む。
「それ、見つけたの?」
「うん。さっき地図が広がったときに、突然……」
「“前からあったけど、見えなかった”みたいな感じだね」
少女の言葉に、主人公は少し考える。
この地図は、ただ地形を表示しているだけじゃない。
誰かがこの世界に“いる”という、その存在そのものを感知しているのかもしれない。
その時、新たなウィンドウが開く。
【新規目標:接触】
【対象:他国家/反応源】
【方法:実踏または通信手段(未所持)】
「通信手段……持ってないな」
「たぶん、まだ早いってことじゃない?」
少女はあっさりそう言って、壁際に戻っていく。
だが主人公の胸には、妙なざわめきが残っていた。
この世界に、自分たち以外の“国家”がある。
そして、今もそれが存在しているか、すでに滅びたものなのか、それすらわからない。
でも──
「……国、ひとつじゃなかったんだな」
国を作ったという実感が、やっと得られたと思った矢先に、
それがどこかの一部にすぎなかったと知る。
だけど、それが怖いとは思わなかった。
ただ、淡く不安で、どこかで少しだけ、嬉しかった。
この世界には、まだ誰かがいるかもしれない