4話
朝、少女は昨日の廃墟へ向かう準備をしていた。
「地下、気になる。昨日は入口だけだったから」
主人公はうなずいて見送る。
あの場所――ロルドと呼ばれていた廃墟は、まだ何かを抱えている気がした。
静かな時間が流れる。
ふと、空気がわずかに揺れた。風は吹いていないのに、大地の端がじわりと膨らむような感覚。
次の瞬間、目の前にウィンドウが浮かぶ。
【エリア踏破:ロルド避難所】
【国家認識領域:拡張】
主人公の視界に、まるで墨を流すように地図がにじみ、
エルク=ノルデを中心とした国境線が――音もなく、外へと広がっていった。
地図に描かれた線は、灰の原野を飲み込み、遠くの丘の端まで伸びていく。
この一帯が、“ゆら”という国家の領土になったのだと、はっきりわかった。
「……国境が、広がったんだ」
その言葉が、妙に現実味をもって響いた。
昼前、少女が戻ってきた。
服に灰をつけ、手には小さな石の破片を持っていた。
「地下、あったよ。狭いけど崩れてなかった。これ、そこにあった」
石板。かすれた文字。
『マリエ・トリューリ』
『灰野国 第二世代』
「墓はなかった。たぶん……置いてあっただけ」
少女はそう言って、近くの壁に背を預けた。
前にこの場所で国を名乗っていた誰かがいた。
その痕跡が、まだこの土地には残っている。
でも今は、ここはもう、“自分たちの国”の一部だった。