第2話
近づいても、少女は逃げなかった。
ただ、こちらをじっと見ている。
年齢は十代前半に見える。髪はばさばさで、服は破れていて、足には靴もない。
「……こんにちは」
そう声をかけると、少女は一瞬だけ目を細めた。
答えは返ってこなかった。
敵意はなさそうだった。
だから、それ以上踏み込まず、少し離れた場所に腰を下ろす。
会話も、説明も、まだ必要ない気がした。
少し経って、目の前にウィンドウが現れる。
【人口:1→2(仮登録)】
【国民候補:滞在意思を確認中】
【自動ステータス開示:実行】
⸻
【名前】不明
【年齢】外見推定13〜15歳
【レベル】4
【職業】灰渡り(はいわたり)
【職業レア度】2/10
【職業説明】
崩壊地帯や死地に適応した探索職。
毒素・瘴気・死体・精神干渉などに高い耐性を持ち、危険地帯での行動成功率が高い。
戦闘能力は低いが、生存率・回収力・情報検出に優れる。
【戦闘】D
【知能】B
【精神】A
⸻
「……すごい職だな」
つぶやくと、少女がこちらに視線を向けた。
「それ、見えるんだ」
「うん。国のシステムみたいなやつが勝手に表示してくれる」
「……やっぱり。前の人もそうだった」
「前?」
「ここの前の“王”。でもすぐいなくなった」
その言い方が、妙に現実味を帯びていた。
会話がそこで切れたころ、視界の端に気配を感じて、振り返った。
……誰もいなかった。
さっきまで瓦礫に腰かけていたはずの老人が、いつの間にかいなくなっていた。
足音も、言葉も、何も残さず。
ただ、彼のいた場所には、丸く地面の灰が抉られたような痕だけが残っていた。
少女がぽつりと呟く。
「……また消えたんだね。いつもそう」
「知ってるの?」
「ううん。最初に来たときから、そこに座ってただけ。話しかけても、返事はほとんどなかった」
不気味でも、怖いとも思わなかった。ただ、“そういうもの”として受け止めた。
しばらくして、少女が立ち上がる。
「村の端まで、見てくる。何か残ってるかもしれないから」
「大丈夫?」
「大丈夫なやつだから、ここに残ってる」
それだけ言って、少女は瓦礫の間をするすると抜けて、東の方へと歩いていった。
ウィンドウが表示される。
【探索任務:開始】
【実行者:灰渡り】
【探索範囲:灰野領東部端】
【帰還予定:日没前後】
村に残されたのは、風も音もない空間と、自分ひとり。
でも今は、確かに“何か”が動いている。
主人公は、目を閉じて深く息を吐いた