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第3話 魔界の喫茶店

ゆっくりと開く扉から光が漏れはじめた。


…ごくり。


視線の先、そこに広がっていたのは…



「普通の…町?」

「そうですわ。」


空が赤かったり黒い枯れ木が生えていることも無く、先程まで歩いていたスィアキ村と何ら変わらない町並みであった。


ただ、歩いている者たちは少し違っていた。


獣のような耳や羽が生えている人、角の生えた犬っぽい動物などが歩いていた。


しかし聞こえてくるのは日本語だった。

ずっと不思議な気持ちだ。

こんなにも現実…いや日本離れしている場所なのに使われている言語は日本語だ。


…やっぱ夢なのか?



「ちょちょ、何してるんです!」

ほっぺをつねる俺を見て慌てるプリン様。


「っ…!痛いのかよ…」

ちゃんと痛い。夢であれよ…!



「どうなさいました?」

そう話しかけてきたのは腰の曲がったおばあさんだった。

銀縁の丸メガネをかけていて、白髪のおさげを赤い紐でまとめていた。ベレー帽から覗く耳は尖っていた。エルフとかなのか?



「良かったらうちの喫茶店でお茶しませんか?」

「いいんですよ、ニンゲン様。」

「…へ?」


俺は半強制的におばあさんに連れられて喫茶店に入った。

プリン様も特に止めようとしない。


かららん、かららん


ドアベルがコロコロとした音色を奏でる。


木のぬくもりを感じる内装だった。


「カウンターへどうぞ。」

おばあさんに言われるまま席に腰掛ける。



「…どうぞ」

少ししてコーヒーカップを差し出された。

「お砂糖やミルクはそこにあります。」

おばあさんは俺の右側を指さす。


プリン様は卓上に降りて飲むように促した。

俺はコーヒーポーションを1つ、フタをパキッと折って入れた。

ソーサーの上に乗せられたスプーンでかき混ぜ、1口飲む。

フルーティーな香りのする、爽やかな飲み口だった。


「ワタクシにも飲み物をくださる?」

「…いつものでいいかしら?」

プリン様は頷く。


プリン様、このお店の常連なのか…?


おばあさんはプリン様用の飲み物を用意しながら話し始めた。


「ニンゲン様が来られるのは何年ぶりでしょう…魔王さまが魔界の住民による侵略を始めると宣言したことで怖がられてしまってねぇ。」


おばあさんは眉をひそめながらプリン様に小さなカップを差し出した。

「ハムちゃん用のミルクです」


「その、侵略というのは…」

「これっぽっちも進んでいませんよ。いま、魔界は魔王さまの独裁が続いています。長らくニンゲン様とは仲良くしてきて、沢山助けていただいたからとみんな侵略をボイコットしているんです。」


「魔王の側近が情報の改ざんをしているから魔王は侵略が進んでいると思っているんですわ。」


おばあさんは頷いた。


「でも…その情報の改ざん、そろそろ限界なんです。」

おばあさんが言う。

「言い訳が無くなってきたようです。王都を最後に攻める予定で、その時は自分が行くと聞かないようです。魔王さまは人間界のことをしっかり調べているようで、側近達の言い訳からもうそろそろ自分の出番だと思っているようなんです。」


「魔王が直々に来てしまえば、人間界だけでなく、魔界も破滅しかねない。」

「そういう事です」


人間界も魔界も、今は仮の平穏という訳だ。

俺の漫画仕込みの異世界知識では、魔王はとんでもなく強い。そんなやつに、魔界の人々も真っ向からは立ち向かえないのだろう。


「勇者様でもいらっしゃればなぁ…」


おばあさんが小さな声でそう言ったのが聞こえた。



「お代はいいですよ。老婆の話に付き合ってくれてありがとうね。」

柔和な笑みを浮かべておばあさん、もといプレイトさんは言う。


「ご馳走様でした!」

俺はプリン様と店を出た。

プレイトさんはチョコクッキーまで持たせてくれた。


「…今のこの世界の状況は分かりましたね?」

「まぁ…」

「勇者様。よろしくお願いしますわ。」


そう言われても、俺は何をすれば良いのだろうか。

というか不運な俺がラックアタックなんてスキルを貰ったことで、最弱勇者が誕生してしまった気がするのだが…


「ソルト。あなたには〈幸運〉を上げてもらいます。」

「どうやって?」


純粋に攻撃力を上げるとかならまだ想像がつくが…


「神様を攻略してもらいます」




「はぁぁぁあ?!」


こうして不運な俺の冒険が始まるのだった。

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