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4.竜と天馬


「相変わらず魔法も剣も素晴らしいね、やんちゃな(ペリステラ)


うっ、とリリーは内心で声を上げた。

学内唯一にして一番苦手な人物の声がする。

すっと目の前に差し出された手を拒否する訳にもいかず、仕方なく手のひらを乗せて立ち上がる。


「お手を煩わせてしまい申し訳ありません、生徒会長」


さりげなく手を離そうとしたが、強い力で掴まれてしまいまったく離れない。

ああぁ、とリリーは心の中で頭を抱えた。


「さあ皆、怪我や気分が悪くなった者はいないかな?」


生徒会長はリリーの手を取ったまま演習場を見に来ていた生徒たちに語りかける。


「明日は祝日だ。調子を悪くした者は正直に、速やかに医務室に行くようにね。明日は存分にくつろげるようにね……と、その前に、決闘の勝者を讃えないといけない。リリーさんに拍手を、」


パチパチとリリーに賞賛が送られる中、リリーの心中は穏やかではない。

……本当に、そういう所!



リリーが留学生としてロマネストにやってきた時、生徒会長は実に親切だった。

校内を案内し、分からない事は率先して教えてくれる。


が、近い。

あまりに距離が近い。


昼食時や図書館など隙あらば隣に座り、偶然か必然か校内で出会いまくる。


「生徒会長って、リリーさんの事好きよねえ」


しまいにはクラスメイトにしみじみと言われてしまう始末。


「……ただの親切心……だと思うけど」

「でも同じ留学生のフィアナさんにはさっぱりよね?」


そうですわ、とフィアナにまで言われる。


「…………私、故郷に恋人がいるから……そういうのは……」


校内では隠しておこうと思ったが、このままでは外堀から固められてしまう。

リリーは仕方なく皆に公表すると、


「ロマネストって重婚できるんだよ?」


などと。

驚くべきかなロマネスト、人情を軽んじ成果を重んじる探究者の国よ。

何でそんな法律作った。


遠距離の彼と二股できるね!とクラスメイトは何の疑いもなく倫理を蹴っ飛ばしてくる。


「眉目秀麗、成績優秀、生徒たちの憧れの的!おまけに生徒会長は由緒正しいペガサスの種族なんだよ!」

「リリーさんの種族とは遠縁だから、生徒会長本気なんじゃないかなあ?」

「良縁だから、グイグイいっていいと思うよ!」


などと。クラスメイトは好き放題言っている。

基本的にヴィントとは包み隠さずお互いの事を話す、というのがお互いの取り決めなので愚痴半分不安半分で生徒会長の事を通信で話せば、ヴィントは何をどうやったのか一ヶ月はかかるロマネストへの道のりを一日ですっ飛ばし、学校へも留学を決めてしまった。

かくして意図せず遠距離恋愛は解消となったが……







演習場を後にする生徒たち一人一人にさようならと挨拶をする生徒会長とは依然手を繋いだままであり、はたから見ればまるで仲の良い恋人のようだ。

生徒会長という立場を利用し、堂々と距離を詰めあまつさえ公然の場で注目が集まるよう仕掛ける。

毎度巧妙な手口で追い立てられ、リリーはもちろんヴィントも手を焼いていた。


ひっく、としゃくり上げ泣きながらやってくるのは見覚えがある一年生。

あまりの大泣きに皆の注目が集まったタイミングでリリーは心の中でごめんなさい、と生徒会長に謝罪し、ごく弱い雷魔法を手のひらに放つ。

反射で手が離れたところでリリーはばっと自分の両手を後ろに隠しながらど、どうしたのかなー?と一年生に近づく形で生徒会長と距離をとった。


「せ、せんぱ、い、ごめんな、さい…………わ、わたし、の、幼馴染が………………」


しゃくり上げる合間合間に何とか喋る女生徒は昨日海に取り残されていた少女だ。


「か、か、勘違いで…………決闘、を、」


一体どんな勘違いをしたのやら。

リリーは下がり眉で怒ってないから大丈夫だよ、ね?と語りかける。

と、きゃああ、と残っていた女生徒たちから歓声が上がった。


……あああぁ。

来てしまった。


本来ならば会いたくてしょうがないはずの恋人。

やって来たヴィントの形相は一見無表情にも見えるが、あれはめちゃくちゃ怒っている時の顔だ。

生徒会長はにこやかに挨拶する。


「やあヴィントさん。校外学習は楽しかったかな?」

「……………………………………どうも」


見つめ合う二人。

バッチバッチと火花が飛び散っているように見えるのか、ギャラリーの女生徒たちはこれが見たかった!とでも言いたげに目がらんらんしている。

リリーはすすす、と移動してさっとヴィントの影に隠れた。


「君は医務室に行った方がいいね。付き添おう」


生徒会長は泣きじゃくる女生徒を連れ、皆に挨拶すると去って行った。

さすが生徒会長、引き際を心得ているんだわ後ろ姿も素敵ねなどと女生徒たちは好き勝手言っている。


ヴィントは自身の翼を広げると、胸の中に包み込むようにリリーを引き寄せた。


「……さっき手を繋いでいたな」


ばっちり見られている。

お仕置き、と、ちゅっと軽く唇に口付けられる。


いやぁときゃあの中間の甲高い悲鳴が女生徒たちから上がった。


「今ヴィントさん、リリーさんにこっそりキスしたでしょ!」

「その不自然な翼の出し方!怪しい!」


翼の中なので見られた訳ではないが、皆感が良い。

つんとそっぽをむいてヴィントは知らん顔している。


「大体リリーさんの顔見れば一発で分かるしね」


リリーは慌てて真っ赤になった両頬を隠すように手で覆った。











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