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俺はダンジョンの案内人であって冒険者ではないのだが?  作者: 藤浪保
第一部

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第9話 地上への帰還

 第一階層もスライムを蹴散らしながら通り抜け、地上に戻った時には、日はとっぷりと暮れていた。

「つっかれたー」

「ですね」

 ぺたんと地面に座り込むレナ。シェスは(ひざ)に両手を当てている。レナは戦闘で、シェスは移動で疲労しているんだろう。重そうだもんな、その前面に突き出てるやつ。

 ティアはまだ平気そうだった。さすが獣人。体力がある。

「――で、どうなのよ?」

「どうって、何がだ?」

「あ……ちの……じつ……どう……」

 レナが下を向いてもごもごと言った。

「あ? 何だって?」

「あたしたちのっ、実力よっ! どうだったの!? 明後日までに第五階層の攻略はできそうなの!?」

 俺が聞き返すと、ぱっと顔を上げたレナが噛みつくように言った。シェスとティアが不安そうに俺を見ている。

「ああ、まあ、丸々二日あれば何とかなるだろ」

「夕方の定期馬車に乗らないといけないのですが」

「ギルドがよっぽど混んでいなけりゃ間に合う」

「よかった……」

 ほっとシェスが胸をなで下ろす。レナとティアがよかったね、と声をかけていた。攻略を急いでいるのはシェスの事情らしい。

「じゃ、俺は帰って寝るから。お前らも寄り道せずにさっさと帰れよ。あと、明日は宿泊の準備を忘れるなよ。日の出に出発な」

「わかったわ!」

「わかりました」

「……わかった」

 背中を向けた俺に、三者三様の答えが返ってきた。いいお返事だ。

 三人と別れた俺は、冒険者ギルドに向かった。

 あいつらには帰って寝ると言ったが、本当に真っ直ぐ帰るわけじゃない。案内人にはダンジョン挑戦の結果を報告する義務がある。

「あれ、クロトさん、もうお戻りですか?」

 ギルドの受付に行くと、アメリアが聞いてきた。

「今日は様子見で第二階層まで。明日からの二日間で攻略する」

「ですよね。クロトさんですものね。三人はどうでした?」

「まあまあだな。初級者(ブロンズ)相当の実力はあるから、何事もなければ第五階層の攻略はできるだろ。俺としては、大怪我の一つでもして、ポーションを買ってもらえると嬉しいんだがな」

「クロトさんらしいですね。でも、依頼者が死亡した場合はペナルティですから、気をつけて下さいね」

 アメリアが冗談めかして言った。

「わかっている。俺だってバカ高い罰金を払うつもりも、ペナルティを受けるつもりもない」

 死なせるくらいなら無理矢理にでも地上に帰す。

「何かニュースはあるか?」

「昼から今までは特に何も。ああ、あの後、アランさんは他の方の依頼を受けました」

 てことは、三人の実力がなくて俺が手を引いた場合、案内人の引き受け先がなかったことになるな。危うく恨まれるところだった。

「二十階層まで潜るそうですから、しばらく戻られないと思います」

「いいニュースをどうも」

「どういたしまして」

 同時にダンジョンに潜っていたとしても、フロアが入る人によって違う以上、途中で行き会うことは有り得ない。それぞれのダンジョンのフロアは別々の空間になっているのだ。

 しばらくあいつの顔を見なくて済むって言うのは朗報だ。

 何かにつけて上級者(ゴールド)であることをひけらかしてくるのがウザったい。俺にばかり突っかかってくるのも謎だ。

 俺は服の首元を引っ張り、首に掛けているチェーンの先、銀色のタグをちらりと見た。

「明日は朝一で潜るから、次にくるのは二日後の夕方になる」

「わかりました。お気をつけて」

 手を軽く上げてアメリアに挨拶(あいさつ)し、俺は冒険者ギルドを出た。

 次に行くのはもちろん酒場だ。

 昼間飲み損ねたからな。

 でかいリュックを背負ったままだが構うものか。家に帰るのが面倒すぎる。

 行きつけの酒場につくと、顔見知りのウェイトレスは俺の荷物を見て、置いても邪魔にならない壁際に案内してくれた。

 すかさずパンとスープとステーキとエールを注文する。常連だから壁に貼ってあるメニューを見るまでもない。

 ウェイトレスが席から離れていった時。

「げっ」

 横から声がした。

 視線を向けると――。

「げ」

 俺からも同じ声が出る。

「あら」

「……偶然」

 隣のテーブルにいたのは、つい今し方別れたばかりの、レナ、シェス、ティアだった。

 ティアが食べているのは、ほとんど生だろうと言わんばかりのレアなステーキだった。

 ライオンの獣人だからなのか、それとも個人の嗜好(しこう)なのか。猫の獣人が特に魚好きとは聞かないから、たぶん後者なのだろう。

 シェスの席の前に置いてあるのは山盛りのサラダだった。それだけしか食べないのか、それとも追加で頼んでいるのか。それだけだったとしたら、どうやってその肉を維持しているのか。

 そしてレナが食べていたのは、ティアと同じステーキだった。こっちはミディアムだ。ただし量が半端なかった。三人前はあろうかという分厚さだった。というかもはやステーキというよりブロック肉だ。

 その横には山盛りのフライドポテトの皿もある。

「何であんたがここにいるのよ」

 口をもぐもぐと動かしていたレナが、ごくりと飲み込んだ後に聞いてきた。そしてすぐさま口に次の一切れを放り込む。

「馴染みの店だ」

「わたくしたちは、宿のご主人に紹介して頂きました」

「……美味しい」

 美味いのは当然だ。じゃなきゃ俺も通わない。

「そのジョッキの中身、酒じゃないだろうな」

「ジュースですわ」

「……ブドウ」

 レナが二人の言葉に首を縦に振った。食べるのに忙しくて言葉を発せないらしい。

「いい心掛けだな。ダンジョンに潜る前日に飲むのはよくない」

 そんなのわかってるわよ、と言わんばかりに、レナがドヤ顔をした。口はもぐもぐと動き続けているから、なんとも締まらない。

 そこへ、ウェイトレスがジョッキを持ってやってくる。

「エールお待ちしましたー!」

「エールですの!?」

「……お酒」

 俺はぐいっとジョッキをあおった。

 ああ、美味い。やっぱ労働の後の酒は最高だ。

「………………何であんたは飲んでるのよ!」

 もぐもぐもぐもぐ、ごくり、と肉を飲み込んでから、レナが文句を言ってきた。

「俺はダンジョンに潜っても何かをする訳じゃないからな。二日酔いにでもならなきゃ歩くくらいはできる」

 さすがに二日酔いになるまで飲むほど馬鹿じゃない。

「それはそうですけれど」

「……ずるい」

「………………案内人のくせに!」

 何と言われようと俺は飲む!

 三人に見せつけるように、俺はごくごくとエールを喉に流し込んだ。

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