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俺はダンジョンの案内人であって冒険者ではないのだが?  作者: 藤浪保
第一部

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第8話 休憩部屋

 ダンジョンのフロアには、途中に休憩できる小部屋が必ずある。どういう仕組みなのか、そこにはモンスターが入ってこない。

 かといって、追いかけてきたモンスターが入口に張りついて離れないという訳でも、その部屋に全く近づかないという訳でもなく、その前の通路は普通に行き来する。

 近寄らせないようになっているというよりは、部屋自体を知覚できないよう、認識阻害の力が働いているのではないかというのが定説だ。

 使う側としては原理なんてどうでもいい。重要なのは、この部屋がダンジョンのフロアの中で唯一絶対の安全地帯だという事実だ。

 通路や他の部屋とは違って壁や床の凸凹(でこぼこ)がなく表面が平らになっていて、全体的に青っぽい色をしているから、一目でそうだとわかる。

 人によって多少大きさは変わるが、せいぜい十人が寝られる程の広さで、ゆえに一度にダンジョンに潜れるのはそれが限界だとされている。下層になれば、数日同じフロアに留まるなんてこともよくあるからだ。

 俺は迷うことなく休憩部屋までたどり着くと、ずっと背負っていたリュックを降ろした。ごきごきと首を鳴らす。

 第一階層ではレナたちは休憩部屋を通らなかった。この第二階層のルートではこの前を通ったが、寄らずに素通りした。もう限界だろう。特にレナの疲労がひどい。

 部屋を網羅せずに最短距離で移動しているからフロア攻略は速いが、それでもダンジョンに入ってから、もうかれこれ三時間は経過している。

 その間ずっと歩き回り、合間に戦闘をこなしているのだ。疲れて当然だった。

「ごめん、ちょっと休んだら動けるようになるから」

「……無理は良くない」

「戦闘ではレナさんに頼り切りですものね」

 座り込んだレナをティアとシェスが(ねぎら)っている。

「ポーションも飲め。出し惜しみすると後で高価なポーションを使うことになるぞ。ないなら売ってやるが?」

「要らないわよ。持ってるもの。言ったでしょ」

 レナが腰のポーチから体力回復用のポーションを取り出した。

「お前も飲んでおけ。結構魔力を消費しただろ」

 ティアにも言っておく。

「……わかった」

 ティアは魔力の制御が上手くいっていないようだった。通常時ならもう少し上手くやるのだろうが、実践ともなれば焦燥(しょうそう)やプレッシャーで通常よりも消費する。

 対してシェスは元気そうだ。ほとんど魔法を使っていないし、制御も上手くやっている。魔法使いとしての実力はシェスの方が上だ。

 なのに、シェスはこれまで一度も攻撃魔法を使っていない。全て補助か回復だ。攻撃魔法が苦手となると、遠距離攻撃のできる奴がいなくなるから、ティアが攻撃魔法を(にな)うのは理に(かな)っている。

 だがこれだけ白魔法が得意なのに、黒魔法が全然駄目ってことはないだろう。少なくともティアよりは上手くやるはずだ。

 まあ、とにかく。

「今日はここまでだな」

「馬鹿言わないで。もうすぐ第三階層への階段なのよ? 帰るならこの階層を突破してからに決まってるでしょ」

「馬鹿はお前だ。明日からが本番だろうが。どうせ明日突破するんだから今日無理にすることはない」

「無理なんて……!」

 俺は首を振った。

「最短距離を進むのはある意味正しい。だがな、それは実力とフロアの難易度に大きな差があるときだ。急ぐあまりに他の部屋を放置して、その挙句に挟み撃ちになっただろう」

「ちゃんと対処はできたわ!」

 レナがバンッと自分の胸当てを叩いた。

 だが、レナはティアが怪我をしそうになったことを知らない。ティアも話していない。

 挟み撃ちなんて想定外の状況で危ない目に()ったのなら、パーティ内で共有するべきだ。前衛のレナが怪我をするのと、後衛のティアが怪我をするのとでは大違いなのだから。それが次の安全へと繋がる。

 まあ、ティアも、矢が外れたとでも思っているのだろうが。

 つい手を出してしまったが、大怪我をする訳ではなかったんだから、痛い目を見た方が良かったかもしれないな。

「たまたま通路だったからまだ良かったが、どこかの部屋に追い詰められてたらどうするんだ?」

「ぐ……」

「それに、お前ら、帰りのことはどうするつもりだった?」

「帰り……」

「ダンジョンを出るまでが遠足ですって学校で教わらなかったのか? ボスを攻略して終わりじゃない。帰りもモンスターは残っているんだぞ。同じルートを戻っても、別の部屋にいたモンスターが移動していて遭遇(エンカウント)することは大いにあり得る。疲労困憊(こんぱい)の状態で(のぞ)めば、経験を積んでいても上層のモンスターにやられることもある」

 フロアのモンスターは倒せば終わりだ。地上の入口から出てリセットしなければ復活することはない。行きで全滅させれば帰りはほぼ素通りできる。

 俺の正論に、レナは悔しそうに唇を噛んだ。

 その肩に手を置き、慰めるような顔をしているシェス。

「シェス、他人(ひと)事のような顔をしているが、お前はそれに気がついていたな。なぜ言わない。お前もパーティの一員だろ」

「わたくしは……」

 シェスも黙った。

「それとティア、お前はなんで前衛にいないんだ。近接の方が得意だろう」

 ティアがびくりと体を震わせた。

「ティアは魔法使いなの! あたしたちはこれでいいのよ! 遠距離の黒魔法使いがいた方がいいもの! 他人が口を出さないで!」

 弾かれるように反論したのはレナだった。

 強く否定したその言葉は、ティアが本当は近接タイプなのだ、と言っているようなものだ。どうにも引っかかるが、俺がどうこう言える問題ではないので、それ以上は言わないことにする。

「ま、俺は報酬さえもらえれば何でもいいけど」

 俺は肩をすくめてから、リュックを背負い直した。

「そろそろ行くぞ」

「え、ちょ、置いて行かないでよ!」

「待って下さいっ」

「……早い」

 レナたちは文句を言いながらもついて来た。

「ちょっとあんた、どこ行くのよ」

 ガサガサと地図を見ながらレナが言う。

「戻るって言ってるだろ」

「戻るにしても進むにしても、こっちじゃないわ」

「こっちの方が速いんだよ」

「な!? わかってたんなら最初から言いなさいよ!!」

 うるさい奴だな。騒ぐとモンスターが集まって来るだろうが。

 ああ、ほら来た。

 通路の向こうに部屋から出て来たゴブリンが三体。

 俺は立ち止まり、レナに親指で指示を出す。行け、と。

 レナは俺をにらみつつも、追い越してゴブリンを(ほふ)った。

 ポーションの効果で疲労は取れたようで、動きは元に戻っていた。

 四人で第二階層の入口の扉を抜けると、背後で扉がバタンッと勢いよく閉まった。三人から悲鳴が上がっていた。

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