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俺はダンジョンの案内人であって冒険者ではないのだが?  作者: 藤浪保
第一部

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第7話 挟み撃ち(ティア視点)

 レナと二人で第二階層ルートを決め、二つある出口のうちの片方を選び、先へと進んでいった。

 途中何体もゴブリンと遭遇(エンカウント)したが、私とレナで対処した。二体まとめて私の方に向かって来たときも、落ち着いて魔法を放つことができた。

 それが上手くいかなくなったのは、もうすぐ第三階層への階段に到着するというとき。

 通路の奥の曲がり角を曲がろうとしたレナが、足を止めた。

「角の向こうに四体いるわ。でも通路が狭いから、一体ずつ倒せるわね」

 にっ、とレナが笑う。その(ひたい)には汗で前髪が張り付き、あごからぽたぽたと汗が落ちた。

「こっちからもきてるぞー」

 そう、のん気な声を上げたのは隊列の一番後ろのクロトだ。

 振り返ると、後方からもゴブリンが来ていた。こちらも四体だった。

 挟まれた――。

 ちらりとクロトを見るが、壁際によけて(から)の両手を顔の横に上げるだけだった。俺は何もしない、と目が言っている。

「前はあたしがやるわ。後ろはティアお願い。シェス、補助かけて!」

「わかりましたわ」

 シェスが防御力強化の魔法の詠唱を始める。

 唱え終わったとき、私の体が一瞬ぼうっと光った。補助魔法がかかった証拠だ。

 それと同時に、後方のゴブリンが私たちに気づいた。ギャギャッと声を上げて走ってくる。

 その声を聞き、前方のゴブリンも私たちに気づいたようだった。

 私は迫ってくるゴブリンに向かって、大きめのファイア・ボールを続けざまに二発 (はな)った。

 それらは先頭のゴブリンに当たり、後ろの三体を巻き込んで吹き飛ばす。直撃した一体は、黒い霧となって消えた。

「……はぁ、はぁ」

 息が乱れる。

 (あせ)りで無理に魔法を使ってしまった。魔力を上手く()れなくて、魔力をたくさん消費した。

 落ち着け落ち着け。一体一体倒していけばいいのだから、慌てることはない。

 起き上がったゴブリンが距離を縮めて来る。

「きゃっ」

「レナさん!」

 後ろからレナの悲鳴と、シェスの回復魔法の詠唱が聞こえてきた。

 レナが怪我をしたんだ。

 でもシェスがいるから平気。治してくれる。

 それより私はこいつらを何とかしなくては。こっちが崩れたら、二人が危ない。

 だが、魔力を()ろうとしても、焦るばかりでなかなか上手くまとまらない。

 その時、一番後ろのゴブリンが弓を引いているのが見えた。射手がいたのか。ゴブリンの武器なんて見ていなかった。

 遠距離攻撃もあるから気をつけろよ――。

 クロトの言葉がよみがえる。

「……ファイア・アロー!」

 ゴブリンから矢が放たれたのは、私が炎の矢を八本放ったのと同時だった。

 炎の矢はゴブリン三体に突き刺さり、火だるまにした。

 そして、それらをすり抜けたゴブリンの矢は、私の眼前に。

 とっさに両腕で顔をかばおうとしたけれど、矢の方が速いのがわかった。知覚はできるのに、体の動きがついてこない。

 間に合わない――。

 目をつぶるのが精一杯だった。

 だが、覚悟した痛みも、籠手(こて)が矢を弾く感覚もなかった。

 そろそろと片目を開けると、矢じりが顔の前で止まっていた。止めたのはなんとクロトの手だ。矢をつかんでいる。

 え?

 驚いてぱちりと(まばた)きをした時には、もうクロトの手はなかった。

 ぱっと横のクロトを見る。

「……」

「なんだよ?」

 クロトはさっきと同じ体勢で壁際に立っていて、何もなかったような顔をした。

 私が開けたのはクロトとは反対側の目で、私が見たことをクロトは気づいていないようだった。

「こっちは終わった! ティア、そっちは!?」

「……終わった」

 振り返ると、レナの腕に血がついていた。

「……怪我」

「大丈夫。シェスに治してもらったから」

「ティアさんは、怪我はありませんか?」

「……ない」

 よかった、と二人が口元を緩める。

 冷静になってみれば、私はシェスに防御力強化をかけてもらっていたし、怪我をすれば回復もしてもらえるのだから、こんな何の強化もかけていない矢くらい、目にでも当たらなければ大したことはなかった。盾役だった時の方がよほど大きな怪我をしていた。

「すぐそこに休憩部屋がある。少し休め」

「ちょ、あんた、勝手に――」

 急にクロトが私たちが通って来た方向に戻り始めた。

「――ああ、もうっ! 行くわよ」

 仕方なくレナも動き、シェスがついていく。

 ちらりと視線を走らせると、クロトがいた足元に矢が一本落ちていた。

 飛んできた矢を手でつかむなんて。

 しかもなんの気配も感じなかったし、一瞬で元の場所に戻っていた。

 ただの人間が、身体強化もせずに?

 中級者(シルバー)ってそんなに強いの?

 自分たちよりも実力があるのは当然なのだが、まだ初心者(ブラック)の自分たちとは言え、第十階層踏破者(シルバー)との差がそこまであるとは思っていなかった。

「ティアさん?」

 振り返ったシェスに首を横に振ってなんでもないと答え、私はレナの背中を追った。


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