第68話 戦略の違い
第三階層に降り立った時、三人はその場で立ち止まっていてくれた。
ルークがさっとあたしたちに視線を走らせると、先へと進んでいく。
ダンは何かを言いたそうにしていたけど、文句を言うほどではないみたい。進むも止まるもルークが独断で決めているようだ。ミトリも何も言わない。
あたしたちもほとんどあたしが決めるけど、それでも話し合いの場は持つし、シェスもティアもすぐに話しかけてくる。
こんなに無言でずっとリーダーに従い続けるなんて、変な感じ。
パーティの形はそれぞれだし、普段通りの攻略なのであれば、話し合う必要もないってことなのかもしれないけど。
相変わらずモンスターはルークが全部倒してくれている。
とはいえ、そろそろ……ああうん、やっぱりね。
すぐ後ろにいたティアが突然身を翻した。
あたしとシェスも立ち止まる。
ティアの視線の先、たった今曲がってきたばかりの角から、ちょうどゴブリンが顔を出した。
その瞬間、シェスのファイア・ボールが飛んで行った。
手にしていたのが弓だと判明するのと同時に、ゴブリンは炎に包まれ、あえなく黒煙となって消えた。
第三階層からは遠距離攻撃のゴブリンが増える。そしてそいつらは、遊撃隊となってふらふらとさ迷い歩き、こうして後ろから攻撃してくることも多い。
移動速度が速いから追いついて来られないかとも思ったけど、そう簡単にはいかないみたいね。
次のモンスターが現れるのを警戒していたティアが拳を下ろしたので、あたしとシェスも構えを解いた。
ティアの索敵能力は最初の頃と比べてかなり向上していて、あたしたちは挟み撃ちに遭うことはそうそうなくなった。
だけどあいつらは――。
振り返ると、通路の奥で、ちょうどあいつらがモンスターと戦っていた。
見事に挟撃されている。
前方に棍棒を持ったゴブリンが三体、後方――つまりあたしたちのいる方に、弓を持ったゴブリンが二体だ。間にある分かれ道から入ってきたのだろう。
こっちに来なくてよかったと意地悪な感想を一瞬持った後、あたしたちは加勢をすべく三人の元へと走り寄った。
が、あたしたちの力なんて必要とせず、あっさりとモンスターは倒されてしまう。
前方の棍棒二体はルークが、後方の弓二体はダンがまとめて大斧の一振りで倒していた。
これまで全部ルークが倒していたから、ダンが攻撃するところを始めて見た。
第二十階層踏破者だと豪語しているだけあって、ルーク同様、動きに無駄がなく滑らかだ。
……と言っても、しょせん第三階層のモンスターだから、そんなに実力に違いは出ないだろうけど。
ミトリは二人の間で壁際に寄ってじっとしているだけだった。杖を構えてはいるものの、まだ出る幕じゃないんだろう。
ルークがちらっとあたしたちの様子を確かめてから、先へと進んでいった。
シェスが攻撃をしたところを見たかどうかはわからない。
だけど、手を出すなと言われているわけでもないし、全部こいつらが倒してくれるって約束をしたわけでもないから、あたしたちは不満はないし、向こうだってないはずだ。
あたしたちは遭遇すれば戦うし、そうじゃなければルークたちに任せればいい。
戦ってる隙に先に進まれちゃうのは困るけど……。
でも、そんな心配は、この階層では必要がなかった。
なぜなら――。
「えっ、もう降りるの!?」
いくばくもいかないうちに、第四階層への階段が現れたからだ。
そしてルークたちは躊躇いもなく降りようとした。
「そりゃあ階段があるんだから降りるだろう」
怪訝そうにルークが振り返る。
「まぁた休みたいって言うんじゃねぇだろうな」
「そうじゃなくて、まだ全然このフロアを攻略してないじゃない」
掃討どころか一周もしてない。通ってない通路も部屋もたくさん残っているはずだ。
「こんな雑魚フロアでウロウロしたってどうしようもねぇだろうが」
「えぇ……?」
じゃあなんで第一階層と第二階層はあんなに歩き回ったの?
上の階層で掃討しておいて、下の階層ではやらない意味ってある?
第三階層でそれをやるなら、今までだってさっさと降りればよかったじゃない。
疑問がたくさん浮かんだけど、ルークとダンが「何言ってんだこいつ」という顔をしていて、こんな疑問を持つあたしの方がおかしいような気持になってくる。
「疲れてる帰りにモンスターがいたら厄介でしょ。一通り倒していった方がいいんじゃない?」
でも一応、正論は言っておいた。初めてダンジョンに潜った時、クロトに教わったことだ。
「はっ、第三階層のモンスターごときでどうにかなるかよ」
案の定、ダンに鼻で笑われる。
中級者のあたしたちでさえ、自分たちの攻略ではそろそろ掃討しなくてもいいんじゃないか、と思い始めているくらいだから、上級者のこいつらがそう思うのも当然だ。
だけど、地図もないフロアの帰りに何度もモンスターと遭遇するのはできれば避けたい。これから先、どのくらい疲労するかもわからないし。
「でも、帰りに警戒するのも面倒じゃない? だから、ある程度は倒していった方がいいと思うのよ」
「そんなに時間をかけてはいられないよ。僕たちだって暇じゃないんだ」
「じゃあ――」
「で、でもっ!」
あたしが、「じゃあなんで上の階層では掃討してたのよ!?」と疑問をぶつけようとした時、ミトリが口を挟んできた。
■■■■■ 第69話 ■■■■■
「レナさんの言うことも、もっともだと思う。い、今は、アランさんもいないんだし、もう少し、慎、重に……」
ミトリの声は尻すぼみになっていった。
ルークとダンがミトリを強くにらんでいて、その迫力に負けたようだ。
「僕たちがこんな上層で苦戦するって言うのかい?」
「そ、そういうわけじゃ、ない、けど……」
「僕たちは第二十階層踏破者だ。第十階層までなんて余裕で踏破できるはずだし、こんなところで足止めを食らっている場合じゃない。そうだよね?」
「う、うん……そうだね、ごめん」
ついにミトリは黙ってしまった。
「というわけだから、先へ行こう」
「え、ちょっと、待ちなさいよ!」
あたしの制止もむなしく、ルークは階段を降りてしまった。当然ダンとミトリもその後に続く。
「なんなのよ、もう!」
「このままついて行っても大丈夫でしょうか?」
あたしが憤慨していると、今回初めてシェスが弱気な発言をした。
「……まだ平気」
「そうね。まだ大丈夫だと思うわ。あいつらが危うくなってきたら撤退も考えましょう」
反論したミトリを問答無用でルークとダンが押しきったのは気になるけど、ミトリが過度に心配性なだけかもしれないし。
「……うん」
「わかりましたわ」
どっちにしろ、あたしたちはあいつらの実力を当てにせず、自分たちの手に負える範囲にまでしか手を出さなければいい。
続行の同意がとれたところで、あたしたちは三人を追って階段を降りた。
四階層も、攻略の方針は変わらなかった。
あいつらは好き勝手に移動して遭遇したモンスターを狩り、あたしたちは自分たちのところに来たモンスターだけを倒す。
あたしたちが最初苦労したオーガも、あいつらはあっさりと倒していた。まあ、あたしたちだって、今なら全然苦戦したりしないけど。
結局、第四階層も、ぐるぐると無駄に歩き回り、かといって掃討するわけでもなく、現れた階段をすぐに降りた。




