第66話 ギブアップ?(レナ視点)
急いで階段を降りると、ルークたちがその部屋から出ていくところだった。
「もう!」
出る瞬間にミトリがちらりとこっちを見ていたから気にはしてくれているようだけど、本当に最低限。せめてあたしたちがフロアに降り立つまでは待ってなさいよ!
誰のフロアかは知らないけど、先に降りた三人の誰かのフロアだ。あたしたちは地図を持ってないから、おいていかれたら迷子になっちゃう。
見失わないように追いかけたけど、部屋を出た先にはもう三人はいなかった。
通路の先が曲がり角になっていて、そこまで分かれ道は一切ない。
慌てて正面の壁まで走り、曲がる。もちろんモンスターへの警戒は怠らない。あいつらとあたしたちの間に通路があって、モンスターが挟まってこないとも限らないから。
よかった、いた。
遠くに、部屋に入って行く背中がちらりと見えた。ミトリがまたも一瞬こっちに視線を寄越すも、さっと部屋の中へと入ってしまう。
前言撤回。
あたしたちを気にしてくれているんじゃなくて、単に気になっているだけだ。追いつけなかったとしても、たぶん待っててはくれない。
部屋の入口まで走ると、戦闘をしていたようで、モンスターが黒い煙になったところだった。
そしてすぐさままた移動を始める。
あたしは後ろを振り返った。
まだ二人が追い付いてきていない。
でも、三人から離れるわけにもいかない。
第二階層だし、二人でも大丈夫だろう。
あたしはチョークを取り出して出口の側に印をつけると、三人を追いかけた。
通路に出たらもう人影はなくてヒヤリとしたけど、幸いにも三人はその次の部屋で戦闘をしていた。
ルークとアランがモンスターを倒して、ミトリは壁際で待機していた。魔法使いの出番はまだ先なのだろう。あたしたちも、上の階層ではシェスはあまり戦闘に参加しない。
ティアとシェスが追いついてくる前に、三人はまた移動を始めてしまった。
あたしはまたチョークで印をつけて追いかける。
結局、六人が同じ部屋に揃ったのは、随分後の事だった。
「待って!」
またすぐに部屋を出ていこうとするルークを呼び止める。
「なんだい?」
「毎回こうやって全員が揃うまで、移動するのは待ってくれない?」
「さっきも言ったけど、モンスターを倒しているのは僕たちだ。君たちは何もしてないないじゃないか。なのに、ついてくることもできないのかい?」
「移動速度は問題ないわ。見失うのが怖いだけ。こっちは地図を持ってないのよ」
本当は移動速度も落として欲しい。
ずっと移動しっぱなしだ。いつもならそろそろ休憩している。戦闘がないとはいえ――というか、戦闘がないからこそ、立ち止まることもできずに動き続けている。
あたしとティアはまだしも、シェスの体力が心配だった。ポーションを飲む暇さえないのだ。
「んなもん走ればいいだろうが」
「直線ならそうするけど、曲がり角で視界が遮られたらそうもいかないでしょ」
「君たちのペースになんて合わせてられないよ」
呆れたように言われてムカッとくる。
もとはと言えばあんたたちが一緒に攻略したいと言ってきたんだから、少しくらい協力してくれたっていいんじゃない!?
「急いでる割には何度も同じ部屋を通ってるじゃない」
チョークで印をつけているから知っている。第一階層と同様、第二階層もぐるぐると無駄な移動をしていた。しらみつぶしに部屋を攻略していくというわけでもなく、とにかく距離を移動しているという感じだった。
「これが一番速いんだ」
憮然とした顔でルークが言う。
「そんなわけ――」
「文句があるなら!」
言い募ろうとしたあたしの言葉を、ルークが遮った。
「ここでギブアップするかい? 第二階層で音を上げるなんて、第十階層踏破者とはとても言えないけど」
「しません!」
否定したのはシェスだった。
「音なんて上げていませんわ! わたくしたちは第十階層踏破者です! ちゃんと自分たちでボスまで倒しました!」
「はっ、どうだかな! 戦闘もせずにフロアを移動するだけで疲労困憊とあっちゃ、その話も怪しいもんだぜ。よくそれで俺たちの実力を疑えたもんだ」
「疲労などありませんわ!」
シェスがドン、と自分の胸を叩いた。
疲れているはずなのに。
「二人とも、ちょっと」
あたしは二人を壁際に呼んだ。
「正直、あたしはもうここまででいいかなと思ってるわ。あんなに非協力的なのに、これ以上一緒に先に進む意味ある? そもそもこの攻略自体、あたしたちに得があるわけじゃないんだし」
あいつらには聞こえないように、小声で話す。
「嫌です! ここで引き下がったら、わたくしたちもお師匠様も馬鹿にされたままですのよ。わたくしたちだけならともかく、お師匠様を馬鹿にされているのは許せません。だって黒の閃光様を! 馬鹿にしたんですのよ!? レナさんは、紅の魔法使いを馬鹿にされて黙っていられますの!?」
シェスはクロトの二つ名のところだけ更に声を落として話した。




