第65話 探索開始(レナ視点)
ダンジョンの第一階層に降り立つと、ルークとダンはすぐさま武器を手にして部屋を出て行った。
「え、ちょ、ちょっと……!」
慌てたミトリがワンドを手にその後を追いかけて行く。
「えっ」
いきなりの移動に面食らった。
地図を確認するとか、どう進んでいくかの方針の意識合わせをするとか、そういう打ち合わせがあると思っていたのだ。
しかし三人がさっさと先へ進んでしまったので、こちらも進むしかない。
あたしたちも武器を手にして追いかけた。
遭遇したスライムを、ルークが片手剣でばっさばっさと倒して行く。
いくつか部屋をすっ飛ばしながら迷いなく真っ直ぐ進んでいるのを見るに、掃討はせずに最短距離でフロアを攻略するつもりのようだ。
あたしたちも第一階層はそうしている。スライムしか出現しないので、たとえ帰りに遭遇したとしても、余裕を持って対処ができるから。
ルークが全て倒してしまうので、後ろの二人はもちろん、あたしたちも何もすることがなく、ただ追いかけて行くだけだった。
これはすぐに突破できそうね。
そう思っていたのに、階段に辿り着いてもおかしくないくらい移動したと感じてからしばらくしても、一向に階段は現れなかった。
でもルークも、そしてその後ろの二人も迷いなく先へと突き進んでいく。
それぞれの階層の広さは誰のフロアであっても大体同じとはいえ、それでも人によって構成が違う以上、ある程度のばらつきはある。
クロトやあたしたち三人のフロアの広さは体感的に大差ないけど、ルークの第一階層は、運悪く他人よりも広い階層なのかもしれない。
それにしてもさすがに広すぎじゃないの、と思い始めた頃、ある部屋の一つに入った時に、ティアがぼそりと呟いた。
「……同じ部屋」
「そうなの?」
ダンジョンの内装は似たり寄ったりで、印でもつけない限り、あたしには見分けがつかない。部屋に繋がっている通路の数と場所からも判別はつけられるけど、初めてきた場所でそれを記憶できるほど頭は良くない。方向感覚に優れた人だと、なんとなくフロア全体のどの位置にいるか、みたいなのがわかる人もいるらしいんだけど、当然そんな能力も無い。
立ち止まって話を聞きたかったけど、ルーク達が先に行ってしまったので、追いかけながら聞いた。
「……目印」
ティアは手にチョークを持っていた。
あたしとシェスも持ってきている。ダンジョンの地図を作る時には絶対に必要な物だ。もちろん、壁に印をつけるのに使う。
地上に戻ってリセットしたら消えちゃうけど、ダンジョンに潜っている間は残り続ける。部屋に番号をつけたり、通った道を記録したりと、かなり重宝する。
ティアはこれを使って、さっきの部屋に印をつけていたのだろう。
「直行しているのかと思っていましたが、掃討しているんでしょうか」
「もしかして、一筆書きの要領で全ての部屋を通れるのがこの道順、とか?」
「……四回目」
「さっきの部屋が!?」
「ものすごく慎重だったり……しませんよね」
確かに、さっきから全然スライムに遭遇していない。
フロアのモンスターを確実に全滅させるまで絶対に次のフロアには行かない、みたいな?
「第一階層でそれやる意味ある? さっきまでの言動とのギャップありすぎじゃない?」
「このペースだと、物資が足りなくなりそうですわよね」
「……絶対無理」
あたしたちは余裕を見ているからいいけど、四日分くらいしか持ってないルーク達は一体どうするつもりなのか。
「……三回目」
ティアが別の部屋に入った時に呟いた。
指を差した方を見ると、入り口の一つの下の方に、チョークで二本の縦線が描かれている。ティアがその横に一本足した。
「ねえ、ちょっと!」
さすがにしびれを切らしたあたしは、声を張り上げた。
先頭を行くルークが立ち止まって振り返る。
「なんだい? 疲れたとか言わないでよ。モンスターは全部僕が倒してるんだから」
「おかげさまで疲れはないわ。だけど、いつになったら階段につくのか聞いておきたいの」
「そろそろだよ」
「だけど――」
何度も同じ部屋を通っていることを指摘しようとしたが、ルークは怒ったように言ってまた移動を始めてしまった。
「ちょっと、話はまだ――」
追いかけ、曲がり角を折れた先。
「ほら、だから言っただろう?」
振り返って得意げに言うルークの背後に、第二階層へと続く階段があった。
「どういうこと……?」
三回も同じ部屋を通っておきながら、そのすぐ近くに階段があった。
ならさっさと降りればよかったのに、どうして同じ場所をぐるぐると進んでいたのか。
てっきり迷っているのだと思ったのに、わざと遠回りを?
何のために?
「先を急ごう」
あたしの頭の中は疑問でいっぱいだったけど、ルークと他の二人はすぐに階段を降りて行ってしまった。




