第64話 大岩前(レナ視点)
準備を全て終えて大岩のある広場に行くと、さっきの三人が先に来ていた。
「遅かったね」
「逃げ出したかと思ったぜ」
約束の時間はまだなんだから、遅いと言われる筋合いはない。
「逃げたりなどしませんわ!」
言い返そうと思ったら、シェスに先を越された。
どうして今日のシェスはこんなにケンカ腰なのかしら。
こいつらの態度がムカつくのは同感で、特にクロトをバカにするような物言いとティアを蔑む態度は許せない。シェスが怒ってなければたぶんあたしがキレていた。でも先に爆発されてしまうと妙に冷静になっちゃうのよね。
「すごい大荷物だね。何日いるつもりなの?」
「さすが臆病者の弟子だな」
「何をどれだけ持っていこうとわたくしたちの勝手です!」
またシェスに先を越された。
鼻で笑っている二人の荷物はとても小さい。
私たちの基準だと、第五階層までを一往復する分くらい。つまり、一泊二日の分量だ。第十階層までの荷物にしては明らかに少ない。
もちろん私たちは、順調に進まなかった時の事を考えて食料やポーションを余分に持って行くから、最低限必要な荷物だけに絞ったのだとすると四、五日分だろうか。それでも私たちの第十階層までの最短日程である六日分には不足する。
「逆に聞くけど、それだけで足りるの?」
「さらに逆に聞くが、何を持ってくんだ? 第十階層までだぞ?」
「そりゃあ、食料とか、ポーションとかよ」
「ポーション!」
七三分けと大斧が噴き出した。
「ポーションなんか要らないよ」
「いつ使うってんだ?」
「万が一負傷したとしてもミトリが回復してくれるしね」
七三分けがローブの方に視線を向けた。
「じゃあその回復役が使う魔力ポーションは?」
ローブの荷物は二人よりは大きかった。私たちほどではないけれど。
「万が一って言っただろ。そんなにホイホイ回復しねぇから魔力ポーションもいらねぇんだよ。お前ら普段どんだけ攻撃食らってんだ」
怪我をしなかったとしても、疲れたら体力ポーションは飲むし、シェスは回復魔法を使わなくても、攻撃魔法で魔力を消費したら魔力ポーションを飲む。ティアも同様だ。スケルトンメイジ対策の耐火ポーションや、万が一のアラクネ対策の毒消しポーションも持っている。
「ねえ、これ私が変なの?」
「……変じゃない」
「放っておきましょう。不要だと言うのだから不要なのですわ。わたくしたちが気にして差し上げる義理はありません!」
「まあ、そうよね……」
本当に大丈夫なのか心配だけど、シェスの言う通りだ。あたしたちが気にするところではない。
クロトならポーションなんかなくたって余裕だろうから、こいつらも同じなんだろう。体力を消耗せず怪我もせず魔法も使い過ぎないのであれば、ポーションはなくてもいい。
まあ、クロトはポーションを持たずにダンジョンに潜るなんて絶対しないし、依頼人にも絶対許さないだろうけど。……それとも、ダンジョン内でアイテムを売りつけられるから、逆に歓迎するのかしら。
ローブは何か言いたそうな顔をしていた。
荷物の大きさからしても、彼はポーションをいくつか持って来ているんだろう。魔力切れで回復もできないとなれば一大事だし。
他の二人だって、あたしたちほど持っていないにしても、さすがに完全にゼロというわけではないはずだ。
「それで、結局その荷物、全部持っていくのかい?」
「そうよ」
小馬鹿にしたような笑いは気に食わないけど、荷物を持って行くのは絶対だ。
「重くて疲れたとか言うんじゃねぇぞ」
「いつも持ってるもの。言わないわよ」
地図の作成中は長く潜るから、本当はもっとたくさん持っていってるけど、それを言うとまたバカにされるだろうから黙っておく。お陰で体力もついたし、全速力で走り通したりしない限りは荷物を理由に音を上げることもないだろう。
「それじゃあ、出発しようか」
七三が肩を竦めて言った。
「その前に、あんたたちの名前を教えてくれない?」
さすがに名前も知らずにいるのはよくない。
「あたしはレナよ」
「……ティア」
「…………シェス」
ティアは普通の態度だったけど、シェスは言いたくなさそうだった。
「僕はルーク」
「ダンだ」
「み、ミトリです」
七三がルークで、大斧がダン、ローブがミトリね。
「それじゃあ、今度こそ行くよ。いいよね?」
「いいわ」
あたしが同意すると、ルークが大岩へと向かって歩き始めた。あたしたちもそれに続く。
大岩の前で、見張りの衛兵が話しかけてきた。
「珍しい組み合わせだな」
「たまには他のパーティと組んでみるのもいいかなと思いまして」
ルークが爽やかに返した。あたしたちへの態度と全然違う。
「行き先は?」
「第十階層です」
ルーク達は金色のタグを、あたし達は銀色のタグを見せた。
「ケンカするなよ」
「もちろんです」
ルークが大岩の扉に両手をつけて、開けた。
これで第一階層はルークのフロアに固定された。
「あ、僕のフロアでよかったよね?」
「ええ」
本当は他人の知らないフロアは嫌だったけど、もう開けてしまったし、こいつらの実力を見るのが目的なのだから、それが妥当だろう。
こうしてあたしたち六人は、ダンジョンへと足を踏み入れた。




