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俺はダンジョンの案内人であって冒険者ではないのだが?  作者: 藤浪保
第二部

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第62話 買い言葉(ティア視点)

「とにかく、あなた方の発言は中傷ですわ。お師匠様の実力は確かですし、指導力もあります」

「でも第十階層踏破者(シルバー)だろう?」

 この二人はなぜ第十階層踏破者(シルバー)をここまで馬鹿にしてくるのだろう。

 ユルドの冒険者は、第十階層踏破者(シルバー)が圧倒的に多い。

 第五階層踏破者(ブロンズ)はすぐに卒業するから一番少ないけれど、第二十階層踏破者(ゴールド)はその次に少ない。

 大金を積んでタグの色だけ変えるのは簡単だけれど、それをしない人が大半なのだ。したところでどうせ自力では下層で活動できないし、冒険者として生計を営むのであれば、第十階層踏破者(シルバー)で十分。実際、第十階層踏破者(シルバー)の案内人もたくさんいる。

 だから、第十階層踏破者(シルバー)を馬鹿にするということは、この街のほとんどの冒険者と案内人を敵に回すことになる。

 それを実力が伴った冒険者が言っているならともかく、師匠の実力に乗っかってタグの色を変えただけの未熟者が言えばどうなるか。当然反感を買う。

 実際、店内の雰囲気は随分悪くなっていた。

 それを感じ取ったのか、三人目の黒ローブが周囲の視線を気にしておどおどとしている。しかし、二人を止めようとまではしない。

「あのねぇ、あたしたちは実力をつけて、ちゃんと冒険者として生きていくために修行中なの。あんたたちメッキ野郎とは違うのよ」

「なっ!?」

「なんだと!?」

 二人の顔色が変わった。

 自分たちは誹謗(ひぼう)中傷をするくせに、やり返されると怒り出す、典型のパターンだ。

「俺たちには相応の実力がある」

「はいはい。どうせボスはあの案内人に倒してもらったんでしょ」

「オレらだってボス戦には参加してる!」

「あっそう。でもあんたたちだけだったら第五階層のボス(ゴブリンロード)にだって勝てないでしょうね」

「はぁ!?」

「んなわけねぇだろ!」

 第二十階層踏破者(ゴールド)だと豪語しているのだから、さすがにそれはないだろうと思うのだけれど、二人の反応を見ると案外これは図星なのかもしれない。

「まさか、お三方だけで第五階層のボス(ゴブリンロード)を倒した事がありませんの?」 

「だ、だって、アランさんがいつも瞬殺してるから……」

「じゃあ第五階層踏破者(ブロンズ)以下じゃないの。無踏破者(ブラック)ね」

「……ぷっ」

 思わず笑いが漏れてしまった。

 金色のタグをぶら下げているくせに、実態は無踏破者(ブラック)だなんて面白すぎる。

「てめぇ! 獣人のくせに!」

 突然、大斧が私の胸ぐらをつかみ上げた。椅子が倒れ、体が宙に浮く。

「ティアさんっ!」

「なにすんのよ! 獣人とか関係ないでしょ!?」

 レナが大斧の腕を(つか)む。

「獣人が人間サマと同じテーブルで飯食ってんじゃねぇよ!」

 私は床に叩きつけられた。

 とっさに受け身を取ったが、うずくまったまま動けない。

「ティアさん! 大丈夫ですか!?」

 シェスがテーブルを回り込んできて、私を心配してくれた。

「……大丈夫」

 そう言うのが精一杯で、体はガタガタと震えていた。怪我はしていないが、身動きが取れない。

 思い知る。獣人は差別されるということを。今までも嫌な視線は向けられていたけれど、この街では冒険者学校や私がいた村ほどあからさまではなくて、ギルドの受付も店の店員も普通に接してくれていたから。

 これまで振るわれてきた暴力や誹謗中傷を思い出して、どうしても体が(すく)んでしまう。

「や、やめなよ……」

 ローブのオスが、やっと大斧を止めに入った。相変わらず視線を彷徨(さまよ)わせている。

 当然だ。周りのテーブルにはオオカミやトカゲの獣人だっているし、彼らの全てがパーティから冷遇されているわけではないだろう。今日はいないようだが、この店の店員にも一人獣人がいる。こんな所でそんな差別発言をすれば、袋叩きにあってもおかしくない。

 七三分けがすっと前に出てきた。

「彼の言い方は少し過激だったかもしれないけどね、俺たちが言いたいのは、俺たちには第二十階層踏破者(ゴールド)の実力があるということだよ」

「あんたたち三人で第二十階層のボスが倒せるとは思えないわ」

「そりゃあ、俺たちはアランさんも含めた四人のパーティで攻略しているからね。君だって、一人で第十階層のボス(スケルトンキング)を倒せるわけじゃないんだろう?」

「それは、まあ、そうだけど……」

 ダンジョンの攻略をパーティでしている以上、個々人の実力ではなく、パーティの実力が結果に反映されることになる。レナの言うとおり、私たちは一人では第十階層のボス(スケルトンキング)は絶対に倒せないし、第五階層のボス(ゴブリンロード)にだって勝てないだろう。三人だから第十階層踏破者(シルバー)になれた。

 あの金ピカ案内人ができるのだから、きっと師匠も一人で第二十階層のボスを倒すことはできる。それに随行すれば、私たちだって第二十階層踏破者(ゴールド)になれる。

 だけど私たちはあくまでも三人のパーティで、師匠は案内人に過ぎない。師匠の戦力ありきで攻略する気は無い。

「まあ、俺たちには称号相応の実力があるといくら言ったところで、どうせ信じられないだろうから、これから俺たちとダンジョンに行かないか。目の前で見れば信じるだろう?」

「えっ?」

「面白ぇ。第十階層踏破者(シルバー)とは格が違うってことを見せてやるよ」

 驚いたのはレナで、不敵に笑ったのは大斧だ。

「もちろん第二十階層踏破者(ゴールド)を目指せなんて言わないよ。君たちが()を上げたらそこで終了だ」

「ちょ、ちょっと、勝手にダメだよ。アランさんが……」

 止めに入ったのはもちろん黒ローブ。

 しかし大斧は「うるせぇな」と押しやった。

「どうした? 逃げるのか? 臆病者の第十階層踏破者(シルバー)の弟子だもんな。獣人なんか連れ歩いてるパーティじゃそんなもんか」

 大斧の嘲笑(ちょうしょう)が、私の心に突き刺さる。

 違うとわかっていても、私のせいで二人が悪く言われているという考えが頭の中を支配していく。

 と、背中をさすってくれていたシェスが、すっと立ち上がった。

「そのお話、受けて立ちますわ!」 

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