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俺はダンジョンの案内人であって冒険者ではないのだが?  作者: 藤浪保
第一部

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第6話 ゴブリン(ティア視点)

 第一階層は、苦戦することなく突破できた。魔法耐性の強いスライム相手だと私の魔法はあまり効果が無くて、全部レナが倒してくれた。

 シェスは何もできなかったことを謝っていたけれど、回復魔法なんて出番がない方がいいに決まっている。もしもの時のためにシェスには魔力を温存していてほしい。

 スライムからはアイテムもいくつか出た。全部ノーマルドロップの小さな魔石だったが、初めての正規ダンジョンでの戦利品だ。

 第二階層へと続く階段を降りた先、また扉があった。ダンジョンの入り口と同様、石でできた両開きの扉だ。描かれている文様が先ほどとは違う感じがしたが、よく覚えていない。

 その扉の前で、クロトが言う。

「第二階層からはスライムの他に子鬼(ゴブリン)も出る。弓矢の遠距離攻撃もあるから気をつけろよ」

「はいはい」

 クロトの忠告にレナが軽く答えたが、その顔は真剣そのものだった。

 私も少し顔が強張(こわば)る。

 ゴブリン――。

 学校での演習で戦ったことはあるが、嫌な相手だ。人型なところが特に嫌だ。人間と少しだけ違うモンスター。獣人(わたしたち)と何が違うんだろうと思うことがある。

「大丈夫ですの?」

 私の様子がおかしいのが伝わったのか、シェスが顔をのぞき込んできた。何も言わないレナも、心配そうな顔をしていた。

「……大丈夫」

 私はそれだけ答えた。

 大丈夫。私はダンジョンの外で生まれたんだからモンスターじゃない。人間(ふたり)の敵じゃない。大丈夫。

 両手の(こぶし)を握り締めて、自分に言い聞かせる。

 大丈夫。大丈夫。

「開けるぞ」

 クロトが言って、両手の手の平を扉につけた。

 ああやって魔力を込めると勝手に扉が開くらしい。そしてその人固有のフロアができる。演習の一階層(ミニ)ダンジョンにはそういう仕組みはなかったから、見るのは入口の扉が初めてだった。

 開いた扉からレナが顔を出し、安全を確認してから、第二階層に一歩踏み出した。

 目の前の通路の突き当たりは壁になっていて、最初の部屋まで見通すことはできなかったが、ひとまず安全のようだ。

「これで、第一階層を突破したことになるのよね?」

 四人とも第二階層の床を踏んだところで、レナが言った。

「ああ。これまではお前達の誰かが入口の扉を開けても完全ランダムだったが、これで、第一階層はそれぞれのフロア構造に定まるようになった」

「言われてもピンと来ないわね。試してみないと」

「何も感じないものなのですわね」

「第五階層のボスを倒せばタグの色が変わるが、それ以外の変化はないぞ」

「……不思議」

 私は鎖を手繰(たぐ)り寄せて、首元からギルドでもらっんたタグを引っ張り出した。今は黒色だ。初心者がブラックと呼ばれるのは、これが所以(ゆえん)だった。

 第五階層を抜けると、この色が青銅色になるらしい。すなわち初心者(ブラック)は第一階層から第五階層を、初級者(ブロンズ)は第六階層から第十階層を攻略中ということになる。

 ギルドで血液を登録したこのタグは、ダンジョンへの通行証の代わりでもあり、自分の実力よりも上の階層に行くには、そのランクの案内人か冒険者の同伴が必須になっている。

 まあ、目的階層は自己申告制だから、破ることもできるし、他人のタグを拝借して通行する(やから)もいるようだけれど。私にはなぜそんなことをするのかは理解できない。

 通路を曲がって最初の部屋の前まで行く。

「いるわ。こん棒が二体と剣が一体」

 レナの隣からのぞくと、部屋はそれほど広くはなく、出口が二つあった。

 緑色の肌をした小鬼(ゴブリン)が三体、輪を作って地面に座っている。身に着けているのは腰蓑(こしみの)のみで、こん棒と裸のままの剣を手元に置いていた。

「私が釣るから、二体はティアが足止めして。準備はいい?」

「……うん」

「補助は不要ですか?」

「まだ平気」

「わかりましたわ」

 三人でうなずき合う。

「やぁぁぁ!!」

 レナがわざと大声を上げながら三体のゴブリンに向かっていった。

 ゴブリンたちは、ギャッギャと鳴き声を上げながら飛び上がり、各々(おのおの)得物(えもの)を手にレナに向かっていった。

 三体が釣れたのを見て、レナはくるりと後ろを向いて、私たちの方へと戻って来る。

 私は追いかけてくる三体のゴブリンのうち、こん棒を持つ後方の二体に向かってファイア・ボールを放った。

 それらは見事に顔面に当たり、二体を(あお)向けに転倒させた。

 すかさずレナが振り返り、剣を振り上げていた残りの一体に向き直る。

 縦に振り下ろされた剣を受け止めて弾き、()いた胴体を横()ぎにする。ゴブリンの体は上下に分かれ、黒い霧となって消えた。

 続けて、立ち上がったゴブリンのこん棒がレナに迫る。

 レナはそれも危なげなく対処し、二体目のゴブリンの頭を斬り飛ばすと、立ち上がりかけた三体目のゴブリンを縦に斬り伏せた。

 あっという間の出来事だった。

「レナさん、怪我はしていませんか?」

 シェスがレナに走り寄った。

「はぁ、はぁ……。怪我はしてないわ。ありがとう。ティアも、支援ありがとう」

「……うん」

 手の平で(ひたい)(ぬぐ)うレナのあごに汗がつたった。

 運動量は全然ないが、神経を使っているのだ。私も知らないうちに息を詰めていたのか、呼吸が荒くなっていた。

 初めての正規ダンジョンで、教師の引率(いんそつ)もなく、移動中も常に気を張りつめている。訓練とは消耗の度合いが大きく違っていた。

「これがこの階層の地図だ」

 そこに、クロトが紙を差し出した。

 無神経だ。もう少し待ってくれればいいのに。

「これはまた複雑ね」

 しかしレナは嫌な顔をせずにそれを受け取り、じっと見つめた。

「見張りはわたくしがいたします」

「お願い」

 シェスが見張りを買って出た。

 私はレナと一緒に地図を見た。第一階層と同様に、二人で最短ルートを探す。

「こうかしら」

「……こっち」

「ああそうね。通る部屋が少ない分、遭遇(エンカウント)するモンスターも少な――」

「ゴブリンですっ!」

 ルートが完成しそうになった時、シェスが叫んだ。

 顔を上げて視線を走らせれば、二つある出口の両方からゴブリンが一体ずつ入ってきていた。もう私たちに気づいている。

 そうだ。スライムじゃなくてゴブリンなんだから、魔法が効く。足止めじゃなくて、倒してしまえばいい。演習で何度もやったように。

 私は一体を受け持つことにした。

「……こっちは私」

「うん、よろしく!」

 レナがもう一体の所へ駆け寄るのを横目に、私は魔法を放った。

「……ファイア・アロー」

 剣を振り上げたままこちらに向かって走って来るゴブリン。その体を、三本の炎の矢が貫いた。

 ギャッと悲鳴が聞こえて、ゴブリンが炎に包まれる。

 すぐに炎は消え、その後には何も残っていなかった。

 レナの方を見れば、きっちりゴブリンを倒していた。

「お、ドロップしたな」

 視線を戻すと、私が燃やしたゴブリンの所にクロトがいて、何かを拾っていた。

「ほれ」

 渡されたのは小さな一本の牙だった。ゴブリンからのレアドロップ品だ。

「わぁ、すごい! やったじゃない!」

「……っぷ」

 レナが歓声を上げながら抱きついてきた。金属の胸当てが顔に当たって少し痛い。

 わっしゃわっしゃと頭をかき回される。

「ふふ、よかったですね、ティアさん」

 シェスが口元に手を当てて微笑んだ。

「……うん」

 照れくさかったけど、嬉しかった。

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