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俺はダンジョンの案内人であって冒険者ではないのだが?  作者: 藤浪保
第二部

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第58話 帰還の卵

「……ボスは?」

「さすがに骸骨王(スケルトンキング)は駄目よね。今回もマグレみたいなものだし」

「いや、行っていいぞ」

「いいんですか!?」

「これを渡しておく」

 俺は荷物の中から小さな卵形のアイテムを取り出し、三人に渡した。

「何これ」

「帰還の卵だ」

「これがですか!?」

「……すごい」

「何それ?」

 シェスとティアは驚いていたが、レナはピンときていないようだった。

「ダンジョン内で割ると、一瞬で地上まで戻れるアイテムです!」

「……激レア」

「発見されたダンジョンでしか効果がなく、ユルドの物は稀少で店にも置いていないそうです。それが、三つも……! さすがはお師匠さまです」

「へえ、そうなんだ」

「これ一つでお城が買えるくらいの価値があります」

「えっ!?」

 驚いたレナが卵を取り落としそうになり、お手玉をした後、何とかキャッチした。

「あっぶな! 壊したら終わりなのよね!?」

「地上じゃ割れないし、割るつもりで割らないと割れないぞ」

「そうなの?」

 レナはひょいっと壁に向かって卵を投げた。

 卵はごんっと音を立てて跳ね返り、転がってきたものをレナが拾う。

「レナさん!?」

「……なんで」

 二人がレナに詰め寄る。

「え、だって、割れないんでしょ?」

「そうかもしれないですけど、割れたらどうするんですか!!」

「いやだって、割れないって」

「……万が一」

「だってクロトが」

 俺もまさか投げるとは思わなかった。

 城一つは言い過ぎだが、まだ第十階層踏破者(シルバー)でしかないこいつらでは一生かけても稼げないかもしれないだけの値打ちはある。

 それを三つも渡すのは、もちろん命には代えられないからだ。

 あの時も、これさえあれば――。

 俺は拳をぐっと握り締める。

「わ、悪かったわよ。貴重な物を粗末に扱って。軽く見てるわけじゃなくて、クロトの言葉が本当なのか確かめたかっただけなの」

 俺の顔が険しくなっていたのか、レナが不安そうにしていた。

「ん? ああ、いや、問題ない。地上(ここ)では絶対に割れない。俺もやってみたし、他のダンジョンでも同様だそうだ」

「なんだ、クロトもやってみたのね。そうよね、試してみたくなるのは仕方がないわよね」

「それに、ただ投げただけじゃ起動しない」

 さっき俺がそのままリュックから取り出したのを見ていなかったのか。何もせずに割れたら不便だろう。

「指で上下に挟んで押し込むと起動する」

 レナから卵を受け取り、実際にやって見せた。

「……起動?」

「何も起きないじゃない」

「ダンジョン内では起動して光る。試すのはなしだぞ。使い切りだからな」

「光っている状態で投げれば割れるのですね?」

「他人には見られるなよ。面倒なことになるから」

 奪って換金すれば大金持ちだ。

 俺はレナに卵を返そうとした。

 だが、レナが受け取りを拒んだ。

「要らない」

「どうしてですか?」

「他の第十階層踏破者(シルバー)は持ってないんでしょ? そんなのズルじゃない」

 レナの言葉を受けて、シェスとティアが顔を見合わせた。

「シェスとティアが持っているのはいいけど、あたしは要らない」

 俺は溜め息をついた。

「持って行かないなら、第十階層までの探索は認めない」

「あたしたちにはその実力が無いって言うの!?」

「そうじゃない。これは単なる保険だ。俺も常に持っている。素振りで第一階層までしかいかない時でも、必ずな」

 腰のポーチから同じアイテムを取り出して見せる。

「帰還できずに自分が死ぬだけならいい。自己責任だからな。だが、お前が瀕死になったらどうする? 戦力不足で身動きが取れなくなった時、二人がお前を置いて帰還すると思うか? 瀕死のお前を帰還させるだろうな。残された二人はどうなる? 残りのアイテムは一つしかないんだぞ?」

「それは……」

「お前がズルするためじゃなく、仲間の命を守るために持っておけ」

「……わかったわ」

 レナは二人の顔を見てから、卵を受け取った。

「いざとなったら、躊躇(ためら)わずに使え。値段なんか気にするな。基準は、もし俺がその場にいたら介入するだろうなというタイミングだ。瀕死になったら絶対に使うこと。可能なら、致命的な攻撃を食らう前に使う。そして、誰かが使ったら、残りの二人も使え。二人での探索は認めない。どんなに浅い階層でもだ」

「別の方を帰還させるにはどうしたらいいのですか?」

「起動して、相手にぶつければいい」

 三人は起動させる動作をしながら、互いにちらちらと見ていた。仲間を帰還させるところを想像しているのだろう。

「いつでも使えるようにポーチに入れておけよ」

 レナも含め、三人は素直にポーチに仕舞った。

 これでこいつらが卵を売り飛ばして逃げたら、俺の目が節穴だったってことだ。

「それじゃあ、改めて次の課題を言い渡す。第十階層までの地図の作成だ。各フロア一人分ずつでもいいぞ。ボスに挑んでもいいが、無理は絶対にしないこと。課題完了まではこの家には戻って来るなよ」

「第十階層まで全部描き終わるまで帰って来ちゃ駄目なの!?」

「……お風呂」

 今回第十階層までの往復で五日間かかったから、地図を描きながらだと相当かかるだろうな。第五階層まででも三人分とはいえかなりの長期だったし。

「万が一女王蜘蛛(クイーンアラクネ)の部屋が出現したら別だ。報告しに帰って来い。俺が不在だったらギルドに報告して、ここで待機。絶対に部屋の奥まで行くなよ」

「不謹慎かもしれないですが……」

「いっそ出てきて欲しいって思っちゃうわね」

「……うん」

 気持ちはわからんでもないが、大厄災の(きざ)しかもしれないと戦々恐々としているこちらからすると、そんな異常事態は起こって欲しくない。

「話は以上だ。俺は飯に行く」

「待って! あたし達も行くわ!」

「行きます!」

「……行く」

「合格したんだから、(おご)ってよね!」

「わかったわかった」

 俺たち四人は連れ立って、行きつけの店へと向かった。


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