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俺はダンジョンの案内人であって冒険者ではないのだが?  作者: 藤浪保
第一部

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第39話 弟子入り

 ギルドを出ると、そこにはレナとシェス、そしてティアがいた。

「無事第十階層踏破者(シルバー)になれたわ。実力で踏破したっていうギルドの証明ももらえた。あんたが口を()いてくれたって聞いたわ。それで……」

「ああ、スケルトンキングとは戦っていないが、十分通用しただろうからな」

 クイーンアラクネ相手にあれだけ奮闘したのだから、スケルトンキングだって倒せただろう。

 本当は案内人なして踏破したときにもらえる証明書だが、往路で俺が倒したのはオーガだけだし、復路もこいつらなら時間内に戻れたはずだ。

 今回はクイーンアラクネが出てくるというイレギュラーな事態だったから、特例としてシグルドに頼んでおいた。

 シェスが一歩前に出る。

「本当にありがとうございました、黒の閃(ブラック・ライ)――もぐっ」

 俺はシェスの口を素早く手で(ふさ)いだ。

「馬っ鹿! こんな所でその名を口にするな!」

 きょろきょろと辺りを見回す。誰も気づいてないよな……?

 こくこくとシェスがうなずいたので、俺は手を離した。

 すると今度はレナが前に出た。もじもじと身をよじっている。

「わっ、悪かったわっ! 色々文句言ったりして。あんたが、まさかあの人だったなんて思わなくてっ! だって(くれない)の――むぐっ」

 俺はレナの口を塞いだ。

「そっちもやめろ!」

 レナもこくこくとうなずく。

「どうして隠していらっしゃるんですか?」

「そうよ。せっかくの第三十階層踏破者(プラチナ)なのに」

「……変」

 三人とも、俺の胸元を見ている。破れたシャツの下にはタグをつけていない。あの時みたいにうっかり飛び出さないように、(ふところ)にしまってある。

 どうして隠しているのか? そんなの当たり前だ。

「面倒だからに決まってるだろ」

 大厄災の後、英雄だなんだって祭り上げられて、ひどい目にあった。あんなのは二度とごめんだ。

 だから死んだことにしてもらった。

 逃げ回っていたから顔バレはしていない。でなきゃこうやって大手(おおで)を振って歩けない。

 真実を知ってるのは、シグルドの他、数人だけだ。タグを見せないといけない場面では一瞬しか見せないから、みんな中級者(シルバー)だと思っている。

「ほれ、そろそろ行けよ。馬車に乗り遅れるぞ」

 しっしっと手を振る。

「そうね。もう行かないと」

「本当にありがとうございました」

「……ありがとう」

「ありがとねっ」

 三人は俺に深々と頭を下げた。

 * * * * *

 それからひと月、下層のモンスターが上層に出現するというケースはわずかに増えたものの、下層のボスが上層に上がってくる、などという異常事態は起こることなく、街は平和なままだった。

 あれは本当にただのイレギュラーだったようだ。

 何も俺が案内人している時に出てこなくても、と思うが、もしも自力突破を目指す中級者(シルバー)が出会っていたら太刀(たち)打ちできなかっただろうから、遭遇(エンカウント)したのが俺でよかったんだろう。

 その日は一仕事をした後の休みで、俺は昼頃まで惰眠をむさぼっていた。

 そこに、ジリリリリとドアのベルが鳴る。

「んだよ……」

 のそのそと起き上がり、ぼりぼりと腹をかきながらドアに向かう。

 郵便屋だろうか。んなもん、ドアの隙間から入れてくれりゃいいのに。小包かなんかか?

 そう思いながらドアを開けると、何かが体当たりをしてきた。

黒の閃光ブラック・ライトニング様っ!」

「うぐっ」

「お久しぶりでございますっ! お会いしたかったですわ!」

 俺が抱き留めたのは、金色の髪に白い服を着た少女――シェスだった。豊かな膨らみが体に当たる。

 俺はシェスの両肩をつかみ、ぐいっと押しやった。が、シェスは背中に腕を回したまま離れようとしない。

 すると、俺の脚に何かが絡みついて来た。ティアの尻尾だった。

 レナがドアから入ってきて、腕を組み仁王(におう)立ちする。

「なんでお前らがここに……」

  バンッとレナが自分の胸を叩いた。胸当てはつけていなかった。

「あたしたち、あんたの弟子になるわ!」

「は?」

 弟子? 意味がわからん。

「わたくしたち、 黒の閃光ブラック・ライトニング様の弟子になりにきました」

「……なる」

「ギルドには師弟制度があるわよね!」

「なんで俺がお前らを弟子にせにゃならんのだ。断る」

 師弟制度はダンジョン攻略を進めていく上でギルドが推奨している制度で、登録は必須ではないものの、登録すればギルドから資金面やサービス面での支援が得られることもあり、新米冒険者は誰かに師事するのが一般的だ。

 だがあれはベテランの冒険者が新米ルーキーを導く制度であって、案内人の俺には関係ない。

「ダンジョンに潜ったとき、色々と指導して頂きましたわ。どなたかの弟子になるのなら、黒の閃光ブラック・ライトニング様の弟子がいいです」

「指導なんかしてないだろ!」

 攻略法などほとんど教えなかった。自分たちでなんとかしろと思ってたからな。

第五階層踏破(ブロンズ)に挑戦したとき、オーガの倒し方も教えてくれたし、ゴブリンロードの弱点も教えてくれたじゃない」

「案内人だからな」

 教えなきゃお前ら踏破できなかっただろ。

「わたくしに自分の考えを言うように言って下さいましたし、黒魔法を使うようにも言って下さいましたわ」

「……私にも」

 だからそうしなきゃお前ら踏破できなかっただろ!

「最後のクイーンアラクネも、あたしたちに経験を積ませようとしたんでしょ?」

「してねぇ!」

 なんで俺がわざわざそんなことするんだよ。

「上も下も一撃で倒せるなら、あんたがさっさと先に一体倒しておけば、もう一体と戦いながらゆっくり観察できたじゃない」

「サンプルが二体いた方がデータが確実だからだ! お前らレベルの冒険者がどのくらい太刀打ちできるか見たかったんだよ!」

「そういうことにしてあげるわ」

 ふん、と偉そうにレナが鼻を鳴らす。

 都合のいいように解釈してんじゃねぇよ!

「とにかく、俺はお前らを弟子にする気はない! 帰れ!」 

「……もう遅い」

 ティアがごそごそとポーチから折り畳んだ紙を取り出す。

 それはギルド長であるシグルドの署名付きの書類だった――三人を俺の弟子として認定するという内容の。

「はあ!? 俺は承諾してないぞ!」

「……手紙」

 追加でティアから差し出された紙には、シグルドの筆跡で一言だけ書いてあった。

『ごめんね☆』

「あんのクソメガネ!!」

 何を勝手に決めてるんだ!

 俺は手紙をバラバラに破り捨てた。

 書類も破いてやろうと手に力を入れる。ギルドに写しはあるだろうが、そこに俺の署名はない。無効だ無効。

 そのとき、レナが爆弾発言をかました。

「シェスのお父さんは、この地方の領主様なのよ」

「は?」

 ビリッといこうとした手を止める。

 ……とするとあれか、その領主からギルドに圧力がかかったってことか?

 猛者(もさ)ばかりの冒険者ギルドとはいえども、領主様には逆らえない。この認定証を破った所で、簡単に再作成されてしまうだろう。

 それどころか、案内人を続けたくば……と脅される可能性もある。というかこれはもうすでに言外に脅されている状態だった。

 そして一介の案内人でしかない俺は、仕事を(おろ)してくれる冒険者ギルドには逆らえない。モグリの案内人は違法だ。

 領主の娘……。

 俺はシェスをまじまじと見た。

 そりゃ、冒険者になるのを止められるわけだ。大事に大事に育ててきた愛娘まなむすめが、明日をも知れない冒険者になりたいと言ってきたら卒倒ものだろう。

 こいつらが金を持っていたのも納得だった。

「それと、あたしたち、今日からここに住むから」

 気づくと、レナが大きな荷物を家の中に引っ張り入れた所だった。

「はあ!?」

 俺は何度目かわからない声を上げた。もう悲鳴に近い。

「父は冒険者になることは認めて下さったのですが、援助はしないと言われてしまって」

「ここに来るまでに貯金は使い果たしちゃったの」

「……すっからかん」

「弟子を守るのは師匠の役目でしょ!」

 俺は頭を抱えた。

 なんだよこれ。

 もしかして、ダンジョンの異変よりも厄介なんじゃないか?

「……よろしく」

「よろしくねっ!」

「よろしくお願いしますわ、黒の閃光ブラック・ライトニング様」

「やめろ……」

 俺は両手で顔を覆った。

「頼むからその名前で呼ぶのはやめてくれ」

「では、ご主人様とお呼びします」

「なんでだよ!?」

「……師匠」

「あたしはクロトね!」

 あー、もう、好きにしてくれ……。

 こうして俺は一度に三人の弟子を持つことになったのだった――。

第一部完。

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