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俺はダンジョンの案内人であって冒険者ではないのだが?  作者: 藤浪保
第一部

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第3話 ダンジョンの入り口

 俺は荷物を取りに家に帰った。家は冒険者ギルドから歩いてすぐの所にある。

 ダンジョンの近くは人気のエリアで家賃が高いが、案内人を生業(なりわい)にしている以上、近くに住むのは当然だった。

 先ほどダンジョンから持ち帰ったばかりの荷物をひっくり返す。

 消耗品は家のストックだけでは足りない。買い足さないといけないな。

 今日は日帰りだから着替えや寝具は置いていく。本当は洗濯したかったが仕方がない。

 道具類は手入れをする時間がないので予備の物と入れ換えた。武器は使っていないのでそのまま持って行くことにする。

 服装を長袖のTシャツとズボンから、ダンジョンに潜るのに適した物に着替える。

 第五階層までだから、そこまで重装備にはしなくていい。防水防火くらいでいいだろう。そんな大層な攻撃をしてくるモンスターはいないから、本当はそれすらいらない。

 靴も編み上げのブーツに履き替えた。

 家でできる全ての準備を終えて、俺はメイン通りある案内人ご用達ようたしの店に向かった。

「よう、クロト。戻ったか」

 店に着くと、店の親父が話しかけてきた。

「ついさっきな」

「それでもう補充か? 珍しく仕事熱心じゃねぇか」

「次の依頼が入ったんだよ」

 ポーションを選びながら面倒くさそうに言うと、親父は目を丸くした。

「それでその装備ってわけか。それこそ珍しいな。お前さんは仕事の後は休むだろう」

「成り行きで仕方なかったんだよ」

 あんな所に出くわしたのが運の尽きだ。

「はーん、さては美人に依頼されて断れなかったんだろ」

「そんなんじゃない」

 にやにやとしている親父の前に、ポーションや道具をどさりと置く。

 確かに三人とも見た目は悪くなかったが、そんな理由で依頼を受けたりするものか。

「がはは、お前さんらしいわ!」

 何がおかしいのか、笑っている親父から商品を受け取って、店を後にした。

 そのままダンジョンへと向かう。

 三人はもう先に着いていた。

 レナが両手を腰に当てて、文句を言ってくる。

「遅い!」

「ダンジョンから戻って来たばかりなんだから仕方ないだろ。次の準備なんてしてなかったんだから。荷物つめたり補充に買い物行ったり色々かかるんだよ」

「その荷物、ちょっと大げさじゃない?」

 俺は自分の横幅からはみ出るほどの大きなリュックを背負っていた。これでも日帰り用の最低限の荷物だ。

「初めての客だからな。用心にこしたことはない」

「またそれ?」

「ダンジョンを()めてると死ぬぞ」

「わ、わかってるわよ! ……そんな怖い顔しなくたっていいじゃない」

 上層階だからって舐めてかかって死んでいった冒険者たちを、俺はたくさん知っている。何も知らない初挑戦者と、慣れてきた中級者(シルバー)に多い。

 こいつらは初心者(ブラック)ですらない。初挑戦者確定だ。

「あの、わたくしたち、ダンジョンに潜るのは初めてですの。ダンジョンについての認識のすり合わせが必要かと思うのですが」

 ほらな。

 シェスが自分から初挑戦者であることを暴露した。

 初心者(ブラック)を案内するには気を遣う。一つ一つ丁寧に教えてやらないといけないからだ。

 それどころか初挑戦者……。先が思いやられる。俺は依頼を受けたことを少し後悔し始めていた。

「そんなの冒険者学校で習っただろ。俺は教師じゃない」

「案内人って言ったって、道案内はしないじゃない」

「ならやめるか?」

「そ、そんなこと言ってないでしょ !?」

 レナは強気な態度を取っていたが、表情は不安そうだった。他の二人も同様だ。

 はぁ、面倒だな。

「ダンジョンは入る奴によってフロア構造が変わる。ゆえに、自分のフロア構造を熟知した案内人が重宝(ちょうほう)される。フロアを攻略して次のフロアに行けば、自分のフロアが解放される。五階層ごとにボスがいる。以上」

「短っ!」

「わたくしたちが学んだことと一致しています」

 レナは不満そうだったが、シェスは安心したようで、ティアもそれにうなずいていた。

「心配しなくても、出現するモンスターの情報は都度説明する。そこは案内人の仕事だからな」

「道案内はしないくせに」

 口をとがらせて、レナがさっきと同じ文句を言った。しつこいな。

「やめるか?」

「あー、もう! そんなこと言ってないって言ってるでしょ!? ほら、さっさと行くわよ! 時間がもったいないわ!」

 レナがずんずんと入口の方へと歩いていく。

「おい、回復ポーションくらいは持ってるんだろうな? なければここで調達してけよ」

 ダンジョンの前の出店では、各種ポーションや食料、攻略に必要な道具を売っている。

 街のポーション屋と比べると割高だが、ダンジョンの中で俺から買うよりは安い。

「持ってるに決まってるでしょ!? 馬鹿にしないで!」

 マントをめくってレナが腰に巻いた背中のポーチを見せる。

「持っています」

「……ある」

 シェスとティアも同じように腰に革製のポーチをつけていた。

 ふむ。さすがにそこは学校でも教えているか。

 レナに続いて俺たち三人もダンジョンの入口まで足を進めた。入口前には見張りの衛兵がいる。

「よぉ、クロト。さっき戻ってきたばかりだってのに、また潜るのか?」

「今日は様子見。こいつら初心者(ブラック)だから」

「クロトが初心者(ブラック)を連れてるとは珍しいな」

「成り行きでな」

 後ろのレナたちを親指で指しながら、店の親父と似たようなやり取りを、顔見知りの衛兵とする。

 肩をすくめてみせると、衛兵からは(ねぎら)うような視線をもらった。

 ダンジョンの入口は、大岩についている石でできた両開きの扉だ。

 俺はその扉に両の手の平を当て、魔力を込めた。

 ずずっと重い音を立てて、両方の扉が向こうへと開いていく。

 そこにはぽっかりと真っ暗な穴が開いていて、地下へと階段が続いていた。

 これでこの下、第一階層は、俺専用の構造に固定された。

「どうぞ、お嬢様方。ようこそユルドのダンジョンへ」

「あ、あんたが先に行きなさいよ」

「俺はついてくだけって言っただろ。安心しろ、いきなり最初の部屋にモンスターがいることはない。――たぶん」

 後から付け足した俺を、レナはじろりと見た。

 だが、俺はいくらにらまれても、先頭に立つ気はない。

 俺はあくまでも案内人。攻略者ではないからな。

「行くわ」

 諦めたレナは両手剣を構えて、恐る恐る階段を降りて行った。その後を、シェス、ティア、そして俺が続く。

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